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アパートの鍵貸します

アパートの鍵貸します(1960)

大きな保険会社の平社員バド(CCバクスター)は、出世のために上司や重役たちの逢引のために、自分の部屋を貸すことを始める。
残業をして帰ってきてもすぐには部屋に入れず、一人バーや映画を見て時間を過ごす毎日。
ひそかに思いを寄せているエレベーターガールのフラン。
でも彼女は誰かと付き合っている様子。

ある日人事部の部長に呼ばれ、昇進と引き換えに彼にも部屋の鍵を渡す。
けれどクリスマスイブの日、その相手がフランだと知ってしまう。
「妻とは別れる」
その言葉を純粋に信じて、関係を続けているフラン。
けれど部長には離婚する気はさらさらない。
バドは何とか彼女の力になりたいと思う。

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ストーリは今だったらもっとどろどろしそうなのに、なぜかとても軽妙。

一人暮らしのわびしい独身平サラリーマンのバドの生活。
片思いの相手が不倫してると知って、一人バーでオリーブをカウンターに並べる。
わびしくアパートに一人帰ってきて、マッチで火をつけ、晩御飯の支度をする。
パスタはテニスラケットで水を切る。
LPレコードから流れる音楽。

いつか違う職種にうつりたいと考えているエレベーターガールのフラン。
社内では特別扱いの重役たち、その一人ジェフと不倫関係になっている。
「妻とはうまくいっていないんだ」そういいながらバドから借りている、あのアパートの小さな部屋でしか逢おうとしない。
クリスマスにはプレゼントが思いつかなくてと、100ドル札を渡されてしまう。
そして彼は家族の元にプレゼントを抱えて帰っていく。
フランはバドの部屋で自殺を図る。
彼女を発見した彼の献身的な介抱でフランは何とか生きる希望を見出す。
彼女はバクスターとカードをしながら、男運の悪かった過去を告白する。
バクスター「自己嫌悪におちいるよ」
フラン  「もう、嫌いになってるわ」

悪夢から醒めたとき、人は本当に自分を愛してくれている大切な人を見つけられるのかもしれません。
でも、もがいている間はそれが見えない。
一生懸命に愛するひたむきさが魅力になることを教えてくれる映画です。

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初めての一人暮らしは、パリだった。

とはいっても、正しくはパリがあるIl de franceではなく隣のHauts de Seineのアパルトマンの小さなStudio。アパルトマンといってもパリ市内の趣ある感じではなく、近代的で日本の郊外にあるマンションみたいだった。Studioにはシャワーしかなくて、キッチンのすぐ横にベッドがあって、とても狭かったけど、7階の窓からセーヌ川が見えるのがうれしかった。大家さんは日本人で、勉強用のランプや炊飯器も貸してくれた。

一人暮らしを始めて、自分の好きなものを作って食べることが、実は一番やりたいことだと気づいた。すぐ近くのスーパーやマルシェで美味しいバターとチーズをまだ温かいバゲットに挟んで食べるだけでも幸せだった。カフェティエールを買ってフランス人みたいに濃いコーヒーを入れたり、ティファールのオーブンを安く譲ってもらい、パイやらキッシュやらケーキを毎週のように焼いていた。毎週末ピクニックや誰かの部屋に呼ばれたり、呼んだりしていたから、半年もしないうちにキッチンのグリストラップが詰まってしまって大変なことになった。

LPじゃなく、パスタもラケットでゆでなかったけど、坂本龍一やラジオフランスを聞きながら、パナシェを飲んで、おいしいパンとシャルキュトリーと、持ち寄りの食事とデザート。ちらし寿司をつくったり、お好み焼き、お弁当を作ったり。あの部屋を思うと、食べ物の記憶ばかりがよみがえる。


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