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孤独の料理法

2016年春、夫と結婚した。
夏にはそれまで住んでいた地元(実家。わたしは一人暮らしをしたことがない)を離れ、彼との二人の暮らしが始まった。
彼はほどなくして転職に成功し、とある建設系企業に就職した。
部署Aと部署B、配属によって休日が変わる、と聞いて私は「部署Bになれ、部署Bになれ」と祈った。
部署Bというのはたぶん住宅以外をうけおう部署のことで、ここに配属されると休日はカレンダー通りだ。
住宅(つまり部署A)になると、お客様との打ち合わせがあるために休日はいわゆる不動産業界のそれにならうことになる(=火・水が休み)。

絶対にそれだけはいやだった。
子どもができたときに、お父さんが週末にいない環境になるのが嫌。
自分の育った環境がそうじゃなかったから、というだけだけど、本当にこれが嫌で、でも夫の父は同じ不動産業界で、ずっと平日が休みだったから、彼にはいまいちわかってもらえなかった。
(おかげさまで子どもはまだいないので、お父さんを「たまに家にいるおじさん」と誤認させる心配はない)

入社から1ヶ月が経ち、彼の配属は部署Aの住宅建築になった。
こうして、わたしの孤独な週末が始まった。

週末に夫と出かけた記憶は少ない。たまに週末に祝日が重なると、そこだけがわたしと彼の共通の休みになる。そのため私は週末やその次にある祝日・連休を目ざとく見つけ、「〇日どうする!?」と鼻息荒くプランを立てようとするが、夫は忙しすぎて日にちの管理もままならず「え、〇日って祝日なの?」と驚く。こんなやりとりを何度となく繰り返してきた。

週末、たまにひとりで出かける。新宿や吉祥寺が多い。
そこには思い思いに週末を過ごすカップルやファミリーがいて、一人でいる人は平日と比べるととても少ない。

あわててサンマルクやエクセルシオールのようなチェーン系のカフェに逃げ込み、作業や勉強をしている人たちの席に飛び込んで身を隠す。
話題のカフェにもイベントにも、一人で行けない類のものは多い。
決して一人行動が苦手なほうではない。けど、人目やTPOを気にするほうなので、例えばオクトーバーフェストなんかのような「ふつう誰かと来るよね?」という場所からは足が遠ざかるようになった。

また、週末のスーパーは地獄だ。
新婚ほやほやのカップルや、付き合いたてでこれから彼氏の家で彼女が手料理を振る舞う(妄想)であろうカップルたちが行き交うそこは、一人で入店した私の心をめった刺しにするに十分だった。

そんな人たちを目の当たりにするにつけ、わたしは左手の薬指を撫でてそのモヤモヤをやりすごすしかない。
やりすごす以外に、孤独との付き合いかたがわからない。

何度か夫にそんな話をしたことがある。
「週末に君がいないと、孤独感がつのるよ」。
彼はうんうんと話を聞いてくれはするけれど、仕事である以上根本的な解決方法はなく、
ただわたしの心が幼いだけのことだ、と片づけるしかできない。

結婚から3年が経った。新居だった賃貸物件は1回更新し、すっかり「我が家」となった。
近所のスーパーにも部屋着と眼鏡だけで行けるようになった(それくらい近所だ)。
それでも、たまに少しアテられてしまうようなカップルを見ると、わたしのこころはしおしおと頭を垂れる。

孤独の料理法を、わたしはまだ見つけられずにいる。


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