2017年ヨーロッパ旅の記録〜オスロ音楽週間②

"2017年7月24日〜9月18日まで ヨーロッパ8カ国を旅した記録"

9月6日
Odd Andreの教室で練習。午後が彼のレッスンを見学させてもらう。かわいい子供達がここにジャズを学びにくる。Odd Andreのレッスンは極めて基礎的な、スケールやコード奏の運動と、聴くことを連結させたレッスンだった。日本の先生みたいに、いきなりインプロやってみろとは言わない。Odd Andreは日本にもときどき教えに来ているが、日本の子供たちは練習熱心で良い、こっちの子は練習しない。日本に移住して日本の子たちと練習がしたい、なんて冗談めかして言っていたが、彼の真面目さと日本の子供たちの勤勉さはきっと合うのだろう。彼は日本が大好きだし、案外本気の発言かもしれない。

夜はOdd Andreが自宅に招待してくれた。彼は島に住んでいる。オスロ中央駅からバスで行ける。少し高台にあるかわいらしい家からは、ヨットハーバーが見える。
彼は食通で、近頃イタリア料理にハマっているという。本格的な手打ちのパスタが絶品だった。彼は普段から仕事量が多く、いつも深夜まで仕事をしているようだった。ときおりこうして料理をして息抜きをしているのだろう。彼とは歳が離れているが、良い友人だ。

9月7日
有名な現代音楽の祭典、Ultimaが滞在中に開催されていたことはラッキーだった。まずはオープニングのHeiner Goebbelsをナショナルシアターに聴きに行く。美しい劇場。ロビーで坂本龍一を見かけた。ノルウェーで日本人は珍しいので、少しの間教授も私のことを見ていたが、声をかけあぐねているうちにどこかへ行ってしまった。彼もこのUltimaの参加アーティストになっていて、現地の新聞に大きく取り上げられていた。チケットは売り切れらしかった。
Goebbelsのコンサートは素晴らしかった。しかしドイツ語のテキストが主体になっている作品だったため、言葉がわからないと厳しい。ヨーロッパのアートは必ず言語がつきまとう。言葉の説得力はそれほどヨーロッパの人にとっては重要ということだ。

9月9日
オスロで会いたかった作曲家に連絡を取り、会うことができた。本当はレッスンを受けたかったのだが、彼にその気がないらしく、カフェで話をしようと言われた。それでも十分にありがたい。
重要な話がたくさん聞けた。音楽上で悩んでいることを伝えた。するととても印象に残る言葉をくれた。以前にも書いたが、素晴らしいミュージシャンはどんな音楽も、どんな方法のものでも、フラットに聴く。作曲法についても、やり方は一つではない、音楽家の数だけやり方はあるのだというようなことを彼は言っていた。ジャズを学ぶ学生がトラディショナルなジャズばかりやるのは悲しいことだとも話していたが、要は、特定の何かを目的に特定の何かを手段にするということではなくて、音楽を作る手法というのは数限りなくあって、自分の表現に合った手法を見つけることが音楽を作ることだといういうような意味だと解釈した。私が最初に彼に投げかけた自分自身の疑問は、初めから何かを限定していたのかもしれないと思った。
彼と別れて、Ultima参加コンサートの一つ、Cikada Chamber Quartetを聴きに行った。少し古そうな趣のある建物の中での小さなコンサートだった。カルテットの響きがどこまでも透明感があって、泣きそうなくらい美しかった。
夜はもう一つ、Maja Ratkje(作曲家)のコンサートを聴きに行った。市内のはずれにある素敵な教会が会場だった。弦楽カルテットとメゾソプラノによるインスタレーション風の音楽だった。ノルウェーの人の音の説得力、鮮やかさには驚かされる。底にある力強さに、いつも圧倒されてしまう。

9月10日
部屋を貸してくれているIkaが、週末は一人で家で過ごしたいと言う。ちょっと出て行って、ということだが、行き場に困りOdd Andreに相談すると、ちょうど週末は実家に帰るから家を使っていいと言ってくれた。ありがたい。
ヨーロッパの人は求めれば何でもシェアしてくれて、困っている人にはいいよと優しく分けてくれる。そして嫌なことははっきり嫌だと言う。エライ人たちだ。今回の旅でいろんな人の家に泊まらせてもらって、いろんな価値観を知った。

昼はUltimaのHANNAという人のインスタレーションを見た。市内からだいぶバスに乗って辺鄙なところだったが、立派な文化施設が会場だった。こんな辺鄙なところにもアートを見に来る人はたくさんいる。ほぼ満席だった。

画像1

画像2

画像3


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?