結婚式

大学生になり、結婚式場でアルバイトを始めた。

週末のみ、ウェートレスとして。

ウェディングプランナーになりたくて始めたアルバイトだが、週末のみとはいえ高い時給をもらっているし、スタッフさんは善人ばかり。

マネージャーのトクモリさんからは
「うちに就職したら?」
そう言ってもらえて、本当にこの式場でアルバイトをして良かったと思った。

トクモリさんの口添えで、大した苦労もしないで私は、アルバイトをしていた式場から、ウェディングプランナーとして内定をもらえた。

同級生の中では一番乗りである。

「カナみたいな平凡な子かどうして!?」
と言われたが、勉強とアルバイトを頑張った結果としか答えようがない。

内定をもらった後も私は努力を怠らずに、私は勉強とアルバイトを頑張った。

そして、今日はアルバイトとして最後の仕事である。

来月からは、正社員として働くのだなと思いながら更衣室で準備をしていたら、2つ年上でフリーターのミヤビさんが
「何か、今日はあまり頑張らないでと言われたわ」
私の耳元で囁いた。

頑張らないでとは、どういう事だろう。

ミヤビさんも分からないようで、ただ首を傾げるばかり。

今日、結婚式を上げるのは、地元でも有名な一流企業の社長令嬢だ。

新郎は市議会議員の四男坊だと聞いている。

頑張るなどころか、今までの仕事で一番頑張るべきだと思うのだが。

私やミヤビさんだけではなく、今日、シフトに入っているスタッフ全員が
「頑張るな」
と言われているようで、どことなくやる気がなさそうだ。

「今日も頑張ろうね」
仲の良いアルバイトスタッフに声を掛けても
「今日は頑張らないよ」
みんな、そう言った。

何でも、今日頑張ったスタッフは、減給するとトクモリさんに言われているらしい。

前述の通り、今日の新郎は市議会議員四男で新婦は社長令嬢。

「頑張るな、頑張ったら減給」
とはどういう事だろう。

式も異様な雰囲気だった。

嬉しそうなのは新郎両親と新婦両親のみ。

ケーキ入刀でも司会者が
「撮影される方は近くにどうぞ」
と言っても誰も寄らず、キャンドルサービスでも拍手をして祝福する人は新郎親戚と新婦親戚だけ。

式が終わった後、当然、新婦両親は号泣した。
噂では、そのまま破談となったらしい。

入籍前だったので、戸籍にバツがつかなかったのが不幸中の幸いであった。

「作戦通りね、やったわ」
喜んでいるのは、サブ・マネージャーのムツエさん。

あの式で、スタッフに
「頑張るな」
と言ったのには、理由がある。

実は、新郎は同性しか愛せない人なのだ。

しかし父親の市議会議員が
「息子が同性愛者なんて」
現実を受け入れられず、新郎の幼馴染みである社長令嬢を、嫁にもらおうと決めたのだ。

新婦も新郎の性癖を知っている。

おまけに彼女には恋人がいる。

活躍中の人気YouTuberだ。

登録者数は約45万人。
私もその人の動画を登録しているが、なかなか面白い動画を作成する人である。

結構な額を稼いでいるが、古い考えの新婦両親は彼を娘の恋人として認められず、何とか引き離したいとして思っていたら、新郎両親からの縁談話。

「渡りに船」
そう思ったのだろう。

そして新郎両親と新婦両親は、勝手に話を決めてしまい、この式場を選んだ。

だが、新郎の友人であるトクモリさんは新郎に同情して、この結婚を潰したいとして考えてムツエさんに相談した。

開かれたのは、異様な結婚式。

ムツエさんが協力したのは、ひとえに彼女が
「腐女子」
と呼ばれている部類の女性だから。

そして、トクモリさんが結婚式を潰したかった理由は、他にもあった。

「ユウくんの結婚がなくなって、本当に良かった」

あれから、トクモリさんはこの調子。

結婚式を潰したかった本当の理由とは、新郎「ユウくん」の恋人は、誰でもない、トクモリさん自身だからである。

2人は今、同棲をしていて幸せそのもの。

社長令嬢と恋人のYouTuberは、式が終わってすぐに駆け落ちをした。

こちらのカップルも幸せに暮らしているそうだ。

現在、私はプランナーとして働いているが、こんな漫画みたいな話があるのだな、と時々振り返ってそう思うのである。

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