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ブラジル留学日記04「サンパウロで初夜遊びとアフロヘアの彼」

夜21時、今西さん、Kちゃんと3人でピニェイロスにあるライブ会場に向かう。
Kちゃんは日本からきている駐在員だが、ブラジル音楽が大好きで毎週のようにライブ通いをしている。ブラジルのアーティストはもちろん、ショーの日程や場所にも詳しい。

今回のライブ会場カリオカ・クルビはサンバからロック系まで幅広いアーティストが出演する完全立ち見の巨大クラブ。

会場の周辺は薄暗く、既に入場待ちの列ができていた。
セキュリティチェックのために受付でパスポートを提示する。大きいクラブは意外と入場条件が厳しく、未成年や酔っ払いは入場できない。

会場に入ると、パゴージ界の大御所たちの手形が飾られているのが目に入った。
あまり綺麗とは言えない会場だったので、本当にフンド・ジ・キンタウがやってくるのか心配だったが、この手形を見て少し期待が膨らんだ(フンド・ジ・キンタウについては『ブラジル留学日記03』を参照)。

アルリンド・クルスとへヴェラサォンのメンバーの手形

夜22時過ぎ、バンドのメンバーがステージに上り始めた。
どうやらフンド・ジ・キンタウではなさそうだ。
Kちゃんと今西さんが「前座のバンドがあるみたいですね」と言うので、今夜は長くなりそうだと覚悟した。

ようやく始まったと思ったらジョルジ・ベンジョールのカバーのようなバンドだった。サンバとロックが融合されたようなサウンドだ。客席はいまひとつ盛り上がっていない。会場内を少し歩いてみることにした。

なんか、惜しい…という感じの前座バンド

ホールを出ると、ドリンクバーを備えたDJブースがある。
そこでサンバ・ホッキ(ロックンロールの要素が入ったサンバ)が流れていて、何組かの男女がペアダンスを踊っていた。
バーでブラジルの定番カクテル「カイピリーニャ」を頼み、飲みながら彼らが踊るのを見ることにした。

背が高く、スラっとした肌の色が浅黒い男性がひと際目立っていた。尖った鼻先にアフロヘアはまさに混血の証だった。
踊りも上手い。意図的にやっているのだろうが、時折まっすぐ並んだ歯を出して笑うのが魅力的だった。

ペアダンスはブラジルで日常的なことで、独身の男女であれば躊躇なく相手を踊りに誘う。
ナンパ目的の場合もあるが、本気で踊るためにダンスホールに行く人も多い。基本的には1曲から2曲、一緒に踊ったら別のダンスパートナーを探す。

アフロヘアの彼は、3人目に誘った女性が気に入ったようだ。次の曲も、その次の曲も彼女と踊り続けた。
そして4曲目の最中に彼が女性の首筋にキスをするのを目撃してしまった。

女性は嬉しそうだったが、そこですぐに応えないのがブラジル人女性なのか。アフロヘアの彼から少し体を離して何かを告げた(もちろん何を言っているのかは聞こえない)。

結局、アフロヘアの彼が女性の唇にキスをしようとすると首を横に振るというのを繰り返して曲が終わった。しかし彼女もまんざらではなさそうだ。
この後何が起こるのか、私は2人から目が離せなかった。

次の曲が流れ始めたが、2人は踊り始めなかった。
すると、激しくキスをし始めた!!

私はまるで家族で映画鑑賞中にキスシーンが始まってどうすればいいのかわからない子供のようになっていたが、周りは誰も2人を気にしていなかった。
もちろん、2人も周りを気にしていなかった。

そろそろ戻ろう。
ホールに戻ったらちょうどジョルジベン風バンドが最後の曲を歌っていたところだった。

バンドメンバーが退場し、音響スタッフがダラダラと機材を片付けはじめた。
「次はいよいよフンド・ジ・キンタウですかね」
と今西さんが言うので、「そうですよ!」と根拠もない返事をし、また3人でひたすら待ち続けた。

ステージにスルド(サンバやパゴージで使う大太鼓)がセッティングされたので、期待は高まった。
しかし客入りがいまいちのような気もする。

ようやく始まった次のバンドも、「誰ですか?」という感じだった。
フンド・ジ・キンタウは古いグループで度々メンバーが入れ替わっているので、見ない間にメンバー総替わりしたのかと思ったが、こちらは2組目の前座のバンドだった。

客層は20代後半から30代後半ぐらい、比較的落ち着いていた

50分程のライブは、パゴージだったこともあって最初のジョルジベン風バンドより盛り上がった。

最後の曲を歌っている最中、ヴォーカル男性が会場のお客さんにCD-Rを配り始めた。普段はこういうのにあまり反応しない私だが、ブラジルに来て積極的になっているのか、自ら手を伸ばしてCD-Rをゲットした。

ステージ転換の間、またDJスペースに行く。
私は無意識にあのアフロヘアの彼を探していた。

いた!!

目立つのですぐ見つかった。
さっきキスしていた女性とは別の女性と踊っていた。
相変わらず踊りは上手いし、ペア組んでいる女性も楽しそうだ。

時刻は24時過ぎ。
「本当のパーティーはこれから」なのか、人が増えて熱気が籠っていた。
もう何時間も立ちっぱなしの私は、DJスペースを出た所にある野外スペースのベンチで少し涼むことにした。

ベンチに座り、することもなくひたすら人間観察。
皆、自分なりのお洒落をして会場に来ているのがわかる。
人々が私の前を横切る度に、強い香水の残り香が混ざり合った。

新しいバンドが始まったのか、音が聴こえてきたのでDJブースを横切ってホールへ戻ろうとすると、先ほどと同じ場所で、アフロヘアの彼が女性と濃厚キスを交わしている場面に遭遇してしまった。
最初の女性でもなければ、今さっき踊っていた女性でもなかった。

私は素早く歩いていたつもりだったが、完全に凝視していたと思う。

会場に入ったら、ステージではムキムキの兄ちゃん姉ちゃんがダンスパフォーマンスをしていた。

みんなガチのムキムキが好きなのね。。

なんだかブラジル2日目にして偉いところに来てしまった。
少し鑑賞したが、なんだか目のやり場に困ってしまい、結局DJブースに戻ることにした。もう夜中の1時を過ぎていた。

ポルトガル語が全くできない私は、誰にも状況を聞けないまま、全く現れる兆しのないフンド・ジ・キンタウを待ち続けた。

そして2時半を過ぎた頃、ホールに人が流れ込み始めたので私も一緒に入っていった。

いよいよフンド・ジ・キンタウか!!!

と思ったが、ステージにぞろぞろと出てきたのは、若いグループだった。
それでも、先ほどのバンドとは比べ物にならないぐらい観客が食いついている。

やはりフンド・ジ・キンタウのメンバーは全員入れ替わったのかもしれない。これは新制フンド・ジ・キンタウかもしれない!!

と思っていたら、今西さんが近くにいたブラジル人と何か話していた。
話を終えると、私の耳元で
「これ、フンド・ジ・キンタウちゃいますわ。ボン・ゴストっていうグループで、今日のメインのグループらしいです~」
と言った。

フンド・ジ・キンタウが来ると言うのはガセネタだった。。
時計を見たら3時を過ぎていた。

ボン・ゴストは2022年現在も活動中

それでも、さすが人気グループというだけあって演奏も良いし、会場も盛り上がっている。
私たちは最後の力を振り絞って鑑賞していたが、思い続けていたものと違うものが出てきたときのガッカリ感は拭えなかった。

まるで「今夜はラーメン食べるぞ!」と昼ぐらいから脳みそと胃袋をラーメンモードにしていたのに、行ってみたらお目当てのラーメン屋は閉店、二軒目では売り切れ、結局牛丼を食べて帰るような感じだろうか。牛丼も美味しいが、ラーメンモードの時に食べるのは訳が違う。

4時過ぎ、ライブはまだ続いていたが一人野外スペースのベンチに座ることにした。
メインのグループの演奏中であっても、“今”を楽しむ人々がたむろしている中、またアフロヘアの彼を見つけてしまった。

なんと、また別の女性と絶賛濃厚キス中だった。

遠くをみるふりをして2人を観察していると、女性は体を離し、何か話しはじめた。女性は脇に挟んでいたハンドバッグを手に持つと、スカッとした表情でその場から去っていった。

取り残されたアフロヘアの彼は立ちすくみ、納得のいかない顔をしていたが、10秒後にはケロリとした顔でDJブースに戻っていった。

私はその様子を見つめながら、「立ちっぱなし」「爆音聴きっぱなし」「フンド・ジ・キンタウモードの裏切り」によって疲れがピークにやってきたのか、笑うことも驚くこともできなかった。

ボーっとしていると、人がぞろぞろと野外ブースに出てきた。
ショーが終わったようだ。

Kちゃんと今西さんに会うためにホールに戻ると、さっきの光景は夢だったように、殆ど誰もいなくなっていた。もうメトロが走っている時間だ。
床はアルコールでベタベタ、プラスチック製のコップがいたるところに投げ捨てられていた。

「まぁ、こんなこともありますよ、ブラジルですから」

と3人で言いながら、会場を後にした。
外はすっかり明るくなっていて、ゲストハウスに着いたら倒れこむように眠ってしまった。

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