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出会って3年目突入🍼

ま『ぴちゃん! 何回言ったら分かるの!』

ぴ『うるさい! まえくんなんて嫌い!!』

ま『もういいわ! 俺夜勤行ってくるから、ちゃんと留守番しといてや!』

ぴ『早よ行けや! ぴちゃんに構わんといて!!』

 無言で家を出るまえくん。鍵のかかる音がしても、ぴちゃんは玄関に背中を向けたまま口を尖らせている。

ぴ『ぴちゃん悪くないもん! まえくんのせいだもん! ぴちゃん、良い子だもん。うぅ〜』

 ソファーにダイブして「まえくんのバカ」と一言呟くと、叫び疲れたのかそのままぴちゃんは眠りについてしまった。

 2019年6月9日。あの日の出会いが、夏の日差しとともに夢に刺す。

ま『そらさん。ムチュールいました!』

そ『よかったやん。早く買わないと』

ま『よし、コイツにしよう』

そ『えっ、1つでいいの? オタクなら3つ買うでしょ?』

ま『さすがに3つはいりませんて』

そ『じゃあ2つ買おうよ。それで、1つは推しメンにプレゼントしないと』

ま『いります? こんなん、どうせ誰か他のオタクがあげますって。それに、コイツ1200円するんすよ。2匹で2400円っすよ。いくら何でも高すぎでしょ』

そ『買っときなよ。あげたら喜ぶよ』

ま『いやぁ、まぁそらさんが言うなら買いますけどぉ。いやでも、絶対いらんってコレ。あぁキツイ。ムチュール2匹持って、レジ列並ぶアラサーのおっさんキツいっす』

そ『いいから早く買ってきて、時間ないから』

ま『はーい』

 夜のライブ後の特典会。

🐹『まえくん! 何持ってきたん?』

ま『いやこれ、話に出てたムチュール。買ってきたんやけど、いる?』

🐹『ありがとう、これで2体目や』

ま『あぁ、やっぱ他の人があげてたやん。俺いらん言ったのに』

🐹『え〜、でももらうで。何体もいる方が寂しくないやん。2体おるやん。どっちくれるん?』

ま『え? こんなんどっちでもいいで。好きな方選び』

🐹『ちゃんとまえくんが選んでや』

ま『マジでどっちでもいいからなぁ。じゃあこっちあげるわ。お前は俺の家やな』

ム『ぴちゃ〜?』

🐹『ちゃんと、そのムチュールを私やと思ってな!』

ま『コイツでもマジでかわいくないなぁ。俺シャワーズが好きなんやけど』

ム『ぴっちゃー! ぴちゃ!!』

🐹『そんなこと言わないの。ちゃんとまえくんに大事にしてもらうんやで』

ム『ぴちゃ〜!』

ま『ムチュールなぁ。とりあえず、みがわりと一緒に置いとくか』

 帰宅後。

ム『ぴちゃ〜! ぴちゃ〜!』

ま『みがわり〜。みがわりおいで〜』

み『はい、なんですか?』

ま『コイツ、面倒頼むわ』

み『ムチュールじゃないですか。どうしたんですか、いきなりムチュールって』

ま『知らねぇよ。なんか、映画に出てたムチュールが自分に似てるとか言ってたから、ノリで買ってきたんだよ』

み『また、アイドル関係ですか。いい加減にしてくださいよ、ただでさえ部屋に物があふれかえっているのに』

ま『はいはい、すいませんね〜。とりあえず、お前らそこ並べ。1枚撮ってやるわ』

み『「撮ってやるわ」じゃないんですよ、全く。ムチュール、こっちおいで』

ム『ぴちゃ〜』

ま『コイツ、名前とかいるかな? 単にムチュールだと、他のオタクのムチュールと区別がつかんもんな』

ム『ぴちゃ! ぴちゃ!』

ま『てか、しゃべってね? 俺ずっと幻聴かと思ってたんやけど。みがわり、アレ持ってこい』

み『本当、この人は人形使いが荒いんだから。はいどうぞ』

ま『チャラララ! ほんやくコンニャク〜!』

ム『ぴちゃ〜?』

ま『とりあえず、これ食べましょうね〜。じゃねーと、お前何言ってんのか分かんねーから』

み『この人の口の悪さも治らないかな』

ま『泉に落ちて綺麗なジャイアンになるしかねぇな。ほら、食ったみたいやぞ』

み『大丈夫? 話せる?』

ま『おい、なんか言ってみ』

ム『みんなのとこに帰りたい』

ま『えっ』

ム『ポケモンセンターに帰りたい。いつ帰れる?』

み『あっ、えっと。それはね』

ま『帰れないよ。俺が買ったから』

み『ちょっと、そんなハッキリ言わなくても』

ム『帰れないの?』

ま『まぁ、レシートあるから返品処理しようとすりゃ出来るけど。どうする? 帰るか? それとも俺らと一緒にここで暮らすか。二択やぞ』

ム『ポケモンセンターに帰るか、ここで暮らすか』

み『そんな。こんな小さい子に判断させないでください。ちゃんと、責任持って大事にしてあげてください』

ム『私は』

ま『おう、どうする』

ム『ここで暮らす』

ま『ここで暮らす? それでいいのか? 帰りたいんじゃなかったのか?』

ム『さっき、お兄さん言われてたから』

ま『さっき?』

ム『「ちゃんと、私やと思って大事にしてな」って。私がいないと、お兄さん、あのお姉さんとの約束を守れなくなるから。だから、私、お兄さんたちと一緒にいる』

み『それで大丈夫? この人のことなんてどうでもいいから、キミの気持ちで答えてくれていいんだよ』

ま『どうでもいいって何やねん』

ム『うん。大丈夫。それに、私決めた! 私かわいくなって、お兄さんのこと絶対いつか見返してやる! かわいくないって言ったこと、いつか後悔させてやる!』

ま『シシシシシw 面白いやん! 良いやん、いい性格しとるやん! これよ、みがわり。こーゆー出会いがあるからオタクはやめられんよな!』

み『あなただけですよ、人形との出会いに面白さ求めてるの』

ま『人形つーか、グッズ関連よな。キャラクター設定にも重要なことやろ。アイテムは個性よ。3刀流とか、天気を操るタクトとか、3分間姿を変える薬とか』

ム『ねぇ、ところでお兄さんの家って、お兄さんだけ?』

ま『人間は俺だけやな。あとは人形たちよ。ここにいるみがわりとか、ダンボーとか、つば九郎とか』

み『そういえば、キミ名前ってあるの?』

ム『まだ無いんです。何か名前をください』

ま『「ぴちゃん」だろ。そんなもん確定だわ。推しの名前から取って「ぴちゃん」な』

み『ムチュールって名前はガン無視ですか?』

ま『いらねぇよな。ぴちゃんはぴちゃんだろ。そもそも最初から「ぴちゃぴちゃ」言ってたんだから、最適解だろこれ』

ぴ『「ぴちゃん」。私の名前。かわいい』

ま『名前だけかわいくてもしゃーないからな。これから色々連れてってやるから、色んなことを知るんやで。せっかく、ポケモンセンターにいるだけの日々じゃなくなったんやから。かわいいもんも、美味しいもんも、面白いもんも、全部興味持って、自分で判断して、素敵なレディを目指してくれや』

ぴ『うん! これからよろしく!』

ま『おう、よろしく!』

 懐かしいメロディーが響く。誰かが頭の中で歌っているみたいだ。誰だろう。声の主はわからない。和らぐような、包み込むような。そんな、繊細な歌声。

 目を覚ますと日付が変わっていた。あの後、ずっとこのソファーの上で眠っていたみたいだ。お腹すいた。みがちゃんたちは、ちゃんと時間通りに晩ごはん食べたんだろうなぁ。

 外の階段を上る音が聞こえる。鍵を回す音がして、そのままドアが開いた。

ま『はーい、ただいま〜』

ぴ『おかえり』

ま『あーやっぱり起きてた。はい、これ。どうせメシ食ってないんやろ』

ぴ『分かってたん?』

ま『まさか。みがわりから「ぴちゃんが起きないので、ぴちゃんの分も夜食買って帰ってきてください」って連絡が来てただけだよ』

ぴ『そうなんや』

ま『あんまり他のみんなと生活リズムをズラすなよ。みんな心配して、すぐ俺に「ぴちゃん調子悪く無いよね?」って聞いてくるんやから』

ぴ『うん、気を付ける』

ま『じゃあ、あとコレも』

ぴ『あ、サーモン!』

ま『2年前の今日らしいわ、俺らが出会ったの』

ぴ『うん。ぴちゃん、今さっきまで、あの日の夢を見てた』

ま『ほんまか。どうや、2年経ったけど』

ぴ『自分で言うのもなんだけど、すぐみんなと馴染んだよね』

ま『馴染んだというか、キミ初めから結構好き勝手してくれてたでな。まぁ、ちょっと調子悪い期間とかもあったけど、それもまた良かったんじゃないか。反抗期みたいで、ずっとベッタリよりかはさ。俺は楽しかったぞ』

ぴ『ぴちゃんは、いつもわがままだし、知らないことも多いし、まえくんにキツいことも言うけど。でも、本当に感謝してるから。いつも、ありがとう』

ま『どういたしまして。わがままなのは自分に正直なだけやし、知らないことがあるのはまだ面白いことがたくさん残ってる証拠やし、キツいこと言うのは、ちょっと抑えてくれると助かるけど。でも、それがぴちゃんやろ。わがままでいてくれ、無知でいてくれ、思ったこと全部言ってくれ。それを受け止めるのが、俺の役割なんやから』

ぴ『うん』

ま『じゃあサーモン食べてお祝いしますか。って無いやん! 俺のサーモン!』

ぴ『あれ? 全部ぴちゃんのじゃないの?』

ま『いや分かるでしょ! 2つ買ってるんやから1個ずつでしょ!』

ぴ『だってお腹空いてたし、ぴちゃんサーモン好きなんやもん』

ま『だからってキミねぇ〜。ん〜、まぁ今日はいいか。ぴちゃんがうちに来てくれた記念日やからな』 

ぴ『えへへへへ』

ま『みがわり〜。起きろ』

み『何ですか? うわ、夜中の3時じゃないですか。なんて時間に起こすんだこの人は』

ま『いいから、そこ2人並んで。写真撮ったるわ』

み『「撮ったるわ」じゃないんですよ、全く』

ぴ『みがちゃんこっちおいで。まえくん、ちゃんとかわいく撮ってや』

ま『オッケーオッケー。はい、チーズ』

み『え、これだけ? これだけのために起こされたんですか僕? もう、2人とも早く寝てくださいね』

ぴ『みがちゃんありがと〜。なんかエモいね』

ま『せやな。こんな感じになってるとは、あの頃は微塵も思ってなかったけどな』

ぴ『出会って2年か〜。案外あっという間だね』

ま『ぴちゃん。こんな俺やけどさ、3年目もよろしく!』

ぴ『おう! よろしくやで!』


#3分間の暇つぶし  #ぴちゃんとおはなし 

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