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課題に対して手法に捉われない提案

こんにちは、AID-DCCの皆川です。
季節も肌寒くなり、絶賛冬物の洋服を引っ張り出して防寒対策中です。
普段はコート多めですが、今年はダウンで90年代ヒップホップ感を強調していこうか悩んでます(好きなラッパーはEMINEMです)。

さて、今回は2022年4月23日にリニューアルオープンした淡路島にあるニジゲンノモリ内にある忍里「NARUTO&BORUTO」立体迷路アトラクション「天の巻」のお話をしようと思います。
プロジェクトに携わったディレクターの北井さんとディベロッパーの中野さんに早速お話を伺ってみましょう!

左から中野、北井

北井 貴之
OPERATING OFFICER / SENIOR PRODUCER / DIRECTOR
2015年より指揮したアトラクション制作では主人公になったかのような”リアル”体験を追求。
これまでにもエデュケーション×体験型の社会見学施設、インスタレーション等を手がけ、現在も体験+没入型に特化したコンテンツ制作をつづけている。

中野 雄矢
ENGINEER
デジタルと実空間の融合が好きで、世界各国子供からお年寄りまで、体験した人の心を動かせるようなものを作りたいです。

現状の体験に更なる付加価値をつける

-はじめに、このプロジェクトを聞いた時に感じたことはなんですか?
北井:まず、NARUTO&BORUTOのアトラクションにある忍里「天の巻」「地の巻」2つの中の「天の巻」をリニューアルしたいとご要望をいただいたのが、きっかけです。
何か新しいものにするのではなく、現状のアスレチックを活かした体験を作りたいとお伺いし、現状の体験に更なる付加価値を付けれるのではないかなと感じていました。

中野:まずは社内でブレストをする中で、体験する場所が屋外ということもあったので、体を動かす体験ができれば良いなと漠然と思ってたのが最初ですね。
当初はあまり、NARUTOの知見がなかったこともあり、社内の方からいろんな情報を聞かせていただきながら、自分でも知識を深めていくことが第一のスタートでした。

みんなが楽しめる没入体験を創り出す

-一般のお客さんが楽しめるものを作る仕事ですが、どんな課題がありましたか?
北井:体験の手法はいろいろあると思いますが、今回はリニューアルという名目がしっかりとあり、その中でアスレチックの立体迷路に入ってもらうことがマストの条件だったので、立体迷路に入って突破するモチベーションを作ってあげることがゲストに喜んでもらえることなのではないかと思いました。
その課題をクリアするため、初期段階のブレストで「忍術が使えれば良いよね。」という話が挙がりました。
NARUTOといえば、両手の指で印を結んで忍術を出すアクションが作中でたくさん登場するので、ゲストが実際にそれを体験できたら面白いのでは?となりました。
では、どうやって印を結んで忍術を出す体験をゲストにさせるか?
ここで躓いてしまうと体験の価値も下がってしまうなと思ったので、中野さんに良い案はないかとご相談させていただきました。

中野:北井さんからご相談を受けた時に、年代に関わらずみなさんが楽しめるような体験にしたいと思ったので、あまり難しすぎず、多少の間違いでも反応するようにしたり、認識精度に対する調整などは試行錯誤しました。
現場は屋外のため、時間や天候で明るさが大きく変化しますが、現場での設置調整期間は短く、本番環境でのデータは十分に集められないと判断し、前もって照明環境や体験者の違いにも強い仕組みを準備しておくのが課題でした。

提案で実際に体験をしてもらい理解度を高める

-印を実際に結んで忍術を出す体験、聞いているだけでワクワクしますね。その体験コンテンツの提案を行う際に手法だったり工夫したことはありましたか?

北井:ただ印を結んで忍術を出すという仕掛けだけでは物足りないと感じ、印を結ぶまでの過程までしっかりとあった方が体験に没入してくれると思いました。
元々のアトラクションにあった巻物とスタンプの考え方は流用しつつ、印を結ぶにもその印のスタンプを探さなければいけないということも体験になりうると思ったので、そこは提案の軸にしていましたね。

印のスタンプを2つ揃えると忍術が出せるようなる


アスレチックの立体迷路がメインのコンテンツなので、忍術で敵を倒していくというよりも、忍術がかかった扉を突破するには、それを打ち破る忍術が必要というところに行き着き、資料に落とし込みました。
ただ提案当時、資料だけでは提案として弱いと思ったので、中野さんと相談して、せっかくなら印を結ぶ体験のモックアップを持っていこう!という流れになりました。
短い期間で開発してくれた中野さんにとても感謝しています。
自分の考えですが、資料やリファレンスって、外堀を埋めるというか枠の一部にしかならないと思うんです。
提案として一番刺さることは、本番に近い体験をしていただくこと。
それをモックアップで見せることができたから、ニジゲンノモリさんに納得してもらえたと思います。

中野:自分も印を結ぶリファレンスを見て、頭の中ではできると感じていたんですが、実際に手を動かしてモックアップを制作したことで、最低限このくらいの認識精度は出せる、というのを確認しながら進められたことはよかったかなと思います。
スケジュール感でいうと、モックアップはお客様になるべく早く見せるために、MediaPipe(軽量で高速な機械学習ライブラリ)の手指認識を用いて1週間くらいで作りましたが、作っていくうちに本番で印の数が増えるとこの手法では対応するのが難しいと判断しました。

原作に存在する印の数は干支と同じ、全部で12種類

北井:最終的に忍術を出せる場所は5ヶ所あったんですが、初期時点では1ヶ所で最後に突破させるという設定でした。ですが、せっかく導入するならこれを中心とした体験まで持っていきたかったので、ここも中野さんに無理を言ってなんとか対応していただきました。(笑)
これを最後だけにするのは味気ないなと思いましたし、もっとこの体験をしたいと声が挙がるのもわかっていたので、体験を中心とした逆の提案をさせていただきました。

中野:最初はもう少し余裕があるスケジュールだと思っていたんですが、急に数ヶ月後のリニューアルに入れましょうとなった時は内心少し焦りましたね。(笑)
話をいただいてから公開まで3ヶ月くらいだったので、結構急ピッチで作業してました。

本番を想定した様々な状況での精度の調整

-3ヶ月の短期間で制作はすごいですね!機械学習というところでもう少し詳しく教えていただけますでしょうか? 

中野:本番環境に近いデータが十分に用意できない中で、なるべく現場の背景や照明環境に影響を受けないように、かつなるべくコストがかからず軽量な仕組みを検討しました。
モックアップで用いたMediaPipeで手の周りの画像を切り抜き、切り抜いた画像を軽量で高速な画像分類モデルで、それがどの印かの認識を行うようにしました。
学習用のデータは、なるべく本番環境に近いように、照明環境や服を変えたり、データ収集用のツールを作って同僚やそのご家族にも協力してもらって集めました。しかし実際の本番のデータは現場に行かないと取れなかったので、ドキドキしましたね。(笑)

制約のある中で印の組み合わせはパズルのような難しさ

-複数の手法を組み合わせて解決したんですね!印を完成させてからさらにNARUTO&BORUTOの世界観を出すために工夫したことはなんですか?
北井:印で忍術を出した時の演出部分のビジュアルは、なるべく原作に近い形を目指していたので、音も含めてゲストに気持ち良い忍術にすることを心掛けていました。
ゲストがストレスになるのは、忍術が出せないことだと思いますが、そこは現場で調整を重ねクリアしつつ、さらに2つの印を組み合わせても出しやすく調整できたことは、とてもよかったです。
隠し要素でいくつかエリアに印を使って出す忍術もあるので、ぜひ足を運んで体験してみてください。

中野:難易度とゲーム性とのバランスは意識して工夫しましたね。
忍術を出すための印の組み合わせを、12種類の印をうまく分散させつつ、互いに似た印を避け、原作にも沿うようにしたりといろんな制約のある中で、パズルのように組み合わせて作り出すことは大変でした。

北井:ライセンサーからのご要望で2つの印を組み合わせる時に、原作の忍術に使われている印になるようなぞってほしいとオーダーをいただきました。
12個の印を実際の印に紐付けながら重複せず、2つずつに振り分けることが中野さんと同様ですごく大変だったのを思い出しますね。
1つの忍術が大丈夫でも他のところで被ってしまうと、また1からやり直しするので、忍術選びも苦労しました。風切りの術を最後に見つけた時は、ライセンス確認も通過して、パズルが全て揃った感覚だったので快感でしたね。

現場で感じた課題とファンに喜んでもらえる体験

-原作を忠実に再現するのはファンとしては嬉しい体験ですよね。実際に現場で感じたことはなんですか?
北井:今まで屋外でセンサーを使う施策はあまり経験がなかったので、施工チームと協力して日光が直接センサーに当たらないよう工夫をして、最終的にはすだれでご対応いただきました。
これがオープン直後からスムーズに体験してもらえたことの要因の1つですね。
解決策は他にもあったかもしれませんが、ゲストが快感を得られる体験を目指す中で、上手く対応できたことは自分の中でも評価できたポイントかなと思います。
本番の現場で感じたことは、小学校低学年の子がスムーズに忍術を出す姿を見て、ターゲットの人にちゃんと体験させたいことができてるなと実感できましたし、ニジゲンノモリさんからも好感触をいただけたので、冥利に尽きる体験を作れました。

中野:技術的な観点だと北井さんからもありましたが、照明環境です。
現地に行った際に、センサーに直射日光が当たると分かり、急いで遮光の仕組みを作ったり、ハードウェア部分の解決をしたことは記憶にありますね。
現場で一番感じたことは、スタッフの方をはじめニジゲンノモリの方がみなさんNARUTOが大好きなんだなと肌で感じましたし、オープン前のテスト時には楽しんで、喜んで体験してもらえたことやチーム一丸となって、一般のお客様のファンの方々が喜んでくれる体験を作れたことは嬉しかったです。

求められている忍術の印が認識されると扉にビジュアライズされます。

-最後にこのプロジェクトを振り返っていかがでしたか?
北井:NARUTOの忍術を出したいって、原作を読めば誰しもが思うことです。
僕らがやってる仕事の大半は、お金を払って体験してもらう有料のコンテンツで、結果的に時間を買ってもらっていることなので、その時間を不満足にさせることは以ての外だと思うんです。
今回、仕事を通してNARUTO&BORUTOファンの方をがっかりさせないことや、1時間なら1時間という体験を「面白かった」「お金を払う価値のある体験だった」と思わせることを課題としていますが、これは他のプロジェクトでも共通の闘いです。
急ピッチなスケジュールの中、しっかりと形にしてゲストの方に喜んでもらえたことは素直に嬉しかったですね。

中野:案件によっては、漠然としたテーマに対して技術先行の提案に走ったりすることがあるんですが、本件は最初のブレストから提案もスムーズでした。
理由としては、NARUTO&BORUTOの世界観と印を結ぶ体験に手の認識をする技術がうまくマッチしたことと、提案時のモックアップで完成イメージを共有できたことだと思います。
それが初期段階で明確になっていると、作り手もイメージが沸きクオリティを追求できるので、今回担当したメンバーやクライアントの方と意思疎通がしっかり取れてアウトプットできたことはこのプロジェクトを通して非常に良い経験となりました。


AID-DCCでは、枠に囚われず、クライアントの課題に合わせて幅広くご提案・アウトプットまでできる環境があります。ぜひお気軽にご連絡ください。

企画:北井 貴之、中野 雄矢
執筆:皆川 直紀


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