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9/19発売『愛に跪く時』


『愛に跪く時』(ビーボーイノベルズ・リブレ出版)がもうすぐ発売になります。イラストは円陣闇丸先生。表紙も挿絵も麗しいです。

『愛に跪く時』は古代ローマ風設定の剣闘士×貴族の青年の恋物語で、七年ほど前にエロとじ(雑誌の袋とじ企画)用に書いた短編です。その後、アンソロジー「エロとじ♥ 艶」(2013年発行)に再録されました。

ノベルズ化にあたり表題作を大幅加筆し、その後のお話『永遠を誓う時』を書き下ろしています。

<あらすじ>
恋など時間の無駄だと信じていた貴族のルキアノスは、奴隷上がりの人気剣闘士のドミナトスに恋をする。危ないところを助けられて以来、粗野なこの男に想いを寄せながらも素直になれず、金を渡して抱かれていた。身分違いと知りつつも逢瀬を繰り返していたが、ドミナトスが皇帝の贔屓の剣闘士と戦うことになり、状況は一転! その剣闘士とドミナトスには浅からぬ因縁があり、戦いに赴く彼の運命とルキアノスの恋の行方は? 波瀾に満ちた――生涯一度の、運命の愛!


●試し読み
 


<本文より一部抜粋>


 絶望するルキアノスの頭に、なぜかユリアナの言葉が浮かんできた。
 ──色恋で愚かにならないで、一体いつ愚かになるっていうの?  
 その言葉はまるで神託のようにルキアノスの心に響き、そうだ、自分は今こそ愚かになるべきなのだと、石火のごとく気持ちを奮い立たせた。
 「待て、ドミナトス」
 振り向きながら言葉を発した。ドミナトスは立ち止まり、首を曲げてルキアノスを見た。
「なんだ?」
「さっきの言葉、嘘ではないな?」
「どの言葉だ?」
「私になら買われてもいいと、お前は言っただろう」
 ドミナトスは「ああ、そのことか」と頷いた。
「確かに言ったが、それがどうした」
「……私はお前を買いたい」
 心臓が口から飛び出そうなほど緊張していた。ドミナトスは表情も変えず、ルキアノスを見つめている。
「なぜ?」 
 なぜ? それはお前が好きだから。お前が欲しいから。自分のものにしたいから。 
 心の中では正直に答えられるのに、どうしても言葉にはできなかった。この初めての恋心をもし笑われたらと思うと、恐ろしくて本心など言えるはずもない。
「娼館に通うのは面倒だからだ。ひと目もあるし、今日のような危ない目に遭うこともある。お前なら私の屋敷に足を運んでくれるだろう?」
「便利な男が欲しいだけなら、他を当たれ」
 興味をなくしたようにドミナトスが再び背中を向けた。ルキアノスは自分の頭を両手で殴りたくなった。誰でもいいと言われて喜ぶ蝶はいないと、スクラディア夫人に注意されたのに、また同じ過ちを犯してしまった。
「待て、今のは訂正する。そうでなく、私はお前に興味があるのだ。最高の剣闘士であるお前との閨事を体験してみたいのだ。……お前のようなたくましい男に抱かれてみたい」
 男に抱かれたいと望む人間の欲望に、ドミナトスは理解を示していた。ならば直接的に訴えたほうがいいとルキアノスは思った。ライファと遊んでいると思われているのだから、その誤解を利用しない手はない。
 ドミナトスは戻ってきて、ルキアノスの目の前に立った。
「そういうふうに、素直に求められると悪い気はしない。いいだろう、お前に買われてやる。今日から俺はお前の男娼だ」
 薄笑いを浮かべるドミナトスの瞳は、どこか獰猛な気配を漂わせていた。肉食獣の前で怯えて逃げられなくなった小動物にでもなったような心持ちがする。
 ドミナトスはルキアノスの顎に手を添えて顔を上向きにさせると、激しく口づけてきた。反射的に顔を背けようとしたが、両頬を強く手で押さえられて逃げられない。
 ライファの優しい接吻とはまるで違う、一方的に貪るようなキスだった。唇と舌を噛みちぎって食べてしまうのではないかという不安に駆られ、本気で怖くなった。
 乱暴なキスを終えたドミナトスは、自分の唾液で濡れたルキアノスの唇に親指をあてがい強く擦った。唇がねじられて歪む。
 ドミナトスが薄く笑った。無様な顔を小馬鹿にされたと思い、ルキアノスはドミナトスの頬を張り飛ばした。
「お前を買いたいとは言ったが、好き勝手していいとは言ってない」
「俺は誰に買われても相手の顔色は穿ったりしない男だ。それが嫌なら他の男を買え。それでもいいと思うなら、いつでも俺を呼ぶといい。都合がつけば来てやってもいい」
 最後にルキアノスの頬を撫で、ドミナトスは帰っていった。
 なんて傲慢な男なのだと腹を立てながらも、ドミナトスの触れた唇は燃えるように熱く、次にあの男に会える日を今から待ちわびている自分がいた。

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