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はなくそパリジェンヌ

8年ぐらいパリの郊外に住んでいたことがあった。急行はひとつの駅で止まるから、途中で各駅に乗り換えてたどり着くような、東京で言えば小手指みたいなところ。静かで気にいっていた。

で、その頃はパリ市内に勤めていて、30〜45分ほどRER(エール・ウー・エール)という、メトロとは別のパリ郊外へ繋がる電車に乗って通っていた。

ある日の帰り、故障かストか何か分からない理由で電車が止まった。こんなことは毎日あることで、遅延の名高いRER B線。慣れっこである。車内は超
満員、座れるはずはない。仕方なく通路に立っていたのだが、しばらく進むと4人ボックスになっている一番奥の窓際が空いた。通路側に座っていた移民系のYoh Yoh風(バッドボーイズ風)のお兄さんが「君、ここ座れるよ」と声をかけてくれた。周りの人も「あなたどうぞ」の目配せをしてくれて、ありがたく座らせていただくことに。フランスはあんなに個人主義の強い国と言われているのに、公共の場での譲り合いや助け合いは粋なことが多いから興味深い。

狭いボックス席の窓際まで辿りつこうと、お兄さんの足をうんしょと跨いだときに、「T'as une crotte de nez, là」(ね、君、はなくそついてるよ)って家族に話しかけるようなトーンで教えてくれた。「あれ?ホントだ!ありがと」と鼻の横についていたそれをパッと払いのけたのだけど、手の感触では結構大きいやつだった。

少し恥ずかしかったから、へへへと笑ってみると、ボックス席の人たちもくすりと笑いかえしてくれたから「ま、いっかー」と思った。

そして電車は何事もなかったかのようにどんどん南へ進むのだった。

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