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雑感:話し言葉と書き言葉について(1)

 個人的な感覚について今から書きたい。個人的なというのは今から書くことは決して最大公約数的な理解を得られる事柄とは限らないということだし、感覚というのはこれから書かれることがいわゆる雑感のようなもので抽象的な次元でかたちづくられた理論とは縁遠いものだということだ。  結論を先に書いてしまうと、自分はいかなる土地の言葉であっても話し言葉は書き言葉とはあきらかに断絶した異なる地位にある言葉であって、書き言葉こそが人間の使いうる言葉の理想的な形態であり、人間的な言葉であると思ってい

    • かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ'19』【結】

      結 対象化批判?  当初の目次にこの項目が存在したので書く。抜かすわけにはいかないと思っている。  無用に肩ひじ張った文体を使っていたのでここではラフに書く。元々この項目で書こうと思っていたことは、女性による他の存在者の対象化に対する非難の可能性だった。スズナがテディベアという他の存在者に「かわいい」を見出すのはよい、しかしそうした「他の存在者をもっぱら手段として消費するすがた」……「あなたは、あなた自身の人格においてであれ他者の人格においてであれ、人間性を常に同時に目的とし

      • かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ '19』【3】

        3 みるく (予定ではkawaii chargeのメイド・みるくの考察にはいる前に、性的搾取ないし性的消費という観念について扱うはずであった。しかし今こうして取り扱っているのは演劇『かわいいチャージ ’19』であって、半ば学的、半ば「運動的」な性的搾取の概念は問題ではない。問題であるにしても、ここにおいてはせいぜい二次的な価値しか持たない。概念分析は別のふさわしい場を必要とするだろう。そういうことだから以下ではあくまで戯曲中の記述を追っていくことにする。) 3-1 「かわ

        • かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ '19』【5】

          5 スズナ 5-1 ルサンチマン、酸っぱい葡萄、内面  Kawaii chargeの店長レイの妹スズナは自分をかわいくない、かわいくなれないと思っている。演劇冒頭部での姉との会話以来ずっとスズナは「かわいい」衣服や「かわいく」なるための努力を極力自分から遠ざけようとつとめる。「かわいい」に対する彼女の嫌悪感は、世間のルッキズムや「かわいく」なろうとする他人の努力にまでのびていき、戯曲終盤では「かわいさ」を生きる上での戦略として用いる人間に直接に怒りをぶつけるに至る。相当に戯

        雑感:話し言葉と書き言葉について(1)

        • かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ'19』【結】

        • かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ '19』【3】

        • かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ '19』【5】

          かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ '19』【4】

          本当は「3」章としてメイドの一人・みるくの「かわいい」について……性的消費の問題およびその問題性を糾弾できる主体の条件について書くはずである。しかしそれに手を付けたところ、膨大な概念整理や議論の歴史をおさえることに終始してしまいそうになっている。少なくともそれは本意ではないこと(主題になるべきはここでは少なくとも演劇『かわいいチャージ』以外のものではないこと)と、カント、ヌスバウムやマッキノン……第二波フェミニズムにおける諸論客を含む……の性的消費に関する議論、および日本にお

          かわいいの闘争……劇団人間嫌い『かわいいチャージ '19』【4】

          かわいいの闘争……劇団人間嫌い「かわいいチャージ'19」【2】

          2 ここあ 2-1 実証主義的かわいい論 「インフルエンサー(みたいなもの)」として、kawaii chargeのオーナー・エリカとメイド喫茶外でも仕事をしているここあのかわいい観は、戯曲全体でみると終盤にさしかかったあたりでようやく論争的なかたちで開示される。姉のために傘を届けに来た妹・鈴奈がメイド一同に何やかやとその場へ留めおかれて、二人きりとなったところで、無言も気まずいから、話す。 スイーツがかわいいとか、アイシャドウがかわいいとか、あんまりピンとこないんだよねぇ。

          かわいいの闘争……劇団人間嫌い「かわいいチャージ'19」【2】

          かわいいの闘争……劇団人間嫌い「かわいいチャージ'19」【1】

          序  11月4日、劇団人間嫌い「かわいいチャージ'19」を見た。演出の岩井美菜子は本作を「かわいい社会学」と呼ぶ。(呼んでいたはず、記憶が正しければ)劇中、現代に生きる女性にとっての様々の「かわいい」観が登場し、ときとして直接的に対立する、「かわいい」の戦場と呼べる状況を呈している。そこにあらわれるのは戦場というより常在戦場の境涯であり、逃れることのできない「かわいい」の無間地獄であるのかもしれない。人間はどんな形であれ「かわいい」をはじめとする価値判断からは逃れることがで

          かわいいの闘争……劇団人間嫌い「かわいいチャージ'19」【1】