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【私の夫は「考えない」天才】

ずっと避けてきた、夫の話をする。

私の夫は愛媛に住んでいる。向こうでの仕事があるので、平日は別々の生活をしている。
今週も、昨晩広島に帰ってきて、たった今出て行った。

4つ上の夫と私はあまり共通点がない。夫はお酒が得意ではないし、反対に私はギャンブルを全くしない。かたやスポーツマンで、かたや読書家だ。

何より夫はあまり多くを考えない性格で、思うことより起きたことを大切にする。
そういうところが私は好きだ。



学生時代の私はというと、割と自分と似た人に惹かれる傾向があった。

人当たりがよく、傷つきやすく、繊細な男性と付き合うことが多かった。
だから別れ際はよく揉めた。互いに納得して別れたことなどなかった。

(ちなみに当時から私は恋愛体質で、しかも恋には積極的な方だったから、一人一人との付き合いがひどく短かった)

ところが21歳で今の夫と出会う。

夫は楽観的でまっすぐで、「好きだから付き合おうや」、発する言葉はいつも濁りなくシンプルだった。

既に社会人だった彼に、就職活動での失敗なんかを相談することもあった。
夫は決まって「気にすんな」と笑った。そしてそれ以上のことを言わなかった。

「だいじょうぶ」、「しかたない」、これを私は魔法の五文字を呼んでいたけど、夫の言う「気にすんな」に勝るものはなかった。

私は知った。優しさは引き算なのだ。

何かをしてあげる、何かを言ってあげる。より多くを相手に与えようとすることを、私は優しさと呼んでいて、つまり優しさは何かを足すことだと理解していた。

けれど夫のかけてくれる言葉は「気にすんな」だけで、過剰なことはしない。
塩と胡椒だけを振りかけるように、あえてオーバーにしないことが、揺るぎない確かな優しさだった。



「何書いとるん?」と風呂上がりの夫が言う。

「エッセイ」
「エッセイ?小説やめたん?」
「小説も書いてる」

濡れた髪をタオルでわしゃわしゃとしながら、タイピング早いなー、と彼が横に座る。離れた場所に落ちていたテレビのリモコンを器用に足で寄せる。
パソコンの画面を覗きこむように首を傾けてきて、水が少し頬に散った。

「読む?」

返事を分かっていて尋ねてみる。

夫は笑う。「俺、活字無理なんよ」と笑う。出会った頃よりも明らかに髪が薄くなり、年齢も10ほど重ねている。

私はほっとした。

そういう人が私はいいのだ。
歌詞の意味も考えず、映画の伏線も回収しない。そういう人に私は恋をするのだ。



今日の夕飯はアボカドと生ハムのクリームパスタだった。

私は料理が好きじゃない。平日はほとんどフライパンを使わず食事をする。
週末の夜だけこうして作るけど、そんな都合のいい私を白けた目で見るように、キッチンは菜箸や軽量カップの場所を迷わせてくる。

そうやって苦労して作ったのに、食べるのが異様に早い夫は5分で食べ終える。

私は一人でコーヒーを飲んだ後、食器を洗いながら考えた。来週は何を作ろうかな。作り甲斐のないあの人に。



食器をすべて洗い終えた頃、iPodからみきなつみの「Dear」が流れた。
「そしたら2人、自然に歩幅合う時まで」という歌詞が胸に沁みる。

お互いに歩幅は合わせない。今のままでいい。
ずっと歩き続けていたら、二人の歩数の最小公倍数で、私たちは何度も出会い直せる。

そして出会うたびに恋に落ちる。忘れていた安心を思い出す。
辛い過去も蘇る隙間がない。だって「気にすんな」が洗い流してくれる。
あとは、私が太っていくのと夫の髪が薄くなるのとどっちが早いか、なんてね。これは勝負だよ。

2019.06.01    ちゃこ

今日の1曲/みきなつみ「Dear」


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コメント20件

ちょこちょこ拝見してて、はじめてコメントします。
曲を聴くとき、ちゃこさんは歌詞派、旦那さんはメロディ派かなーと想像しながら読みました。ちゃこさんのエッセイに並ぶ言葉は、ピアノ線のように滑らかで細いんだけどもどこか丈夫な。そんな印象です。勝手ながら、これからも楽しみにしています!
D.さん
「ちょこちょこ拝見してて、はじめてコメントします。」って嬉しい言葉ですね!ありがとうございます。これまでも読んでくれたことがあったなんて。

うわ、納得します!歌詞派の私と、メロディー派の夫。

そして私の言葉について、受け取って嬉しい印象まで。ありがとうございます。心から愛をこめて
ステキなだんなさんですね。
私もそういう人、好きです。

逆に、私みたいな人を見たらちゃこさんは発狂するかもしれませんね。
歌詞だって、好きな作詞家のAZUKI七さんの作品は、何百回も読みますよ。(もちろん全作品ではありませんが、たぶんいくつかの作品は数百回は読んでます)
あずきさん
発狂しますかね?(笑)何百回と読んで、ちょっと覚えちゃいますよね。わかるなあ。
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