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【私は育児ブログが書けない】

私は育児ブログが書けない。子供が二人いて、それはそれは可愛い。人並みに苦労もあったように思う。けれど、それなのに、私には育児ブログが書けない。

そのことをいつか言葉にしないと、とずっとこの記事も下書きの中にあった。
いつか向き合わないと。育児ブログが書けない自分と。そう漠然と考えながらしばらくの時間が過ぎた。


思えば、息子が生まれた日もそうだった。

わあ、ちいさい、かわいい。そんな浮ついた気持ちはほんの一瞬で。
はい、今日からこれを死なさないでください。そんな重たい、母親というバトンを突然突きつけられた気がした。
ほら、できるでしょう?看護師さんの笑顔がそう言っている気がして怖くなった。戸惑っていた。

24歳、産後9ヶ月でフルタイムの仕事が始まる。
その頃の記憶はほとんどない。回るように、転がるように生活は進んでいた。
朝起きてまだ誰も来ていない保育園に預け、帰りのお迎えはいつも一番最後だった。
1歳の誕生日も仕事をしていた。仕事が終わって急いで帰ると、1歳になりたての息子は私の実家でもう眠っていた。



「今日、そうちゃん、歩きましたよ!」

ある日、週末に持ち帰る布団を担いだ時に、そう興奮して言われたのを覚えている。
はっとした。初めて自分の足で世界に一歩踏み出したその姿さえ、私は見ていないのだと。

母親失格かもしれない。「かもしれない」と付けることで、自分を守った。



自信が無かった。

離乳食が手作りじゃないこと。土日すら仕事が入ること。自分のミスでしょっちゅう残業になること。そんな時は保育園の送り迎えや夕飯、お風呂まで祖母がしてくれること。何をとっても自信が無かった。

最愛の息子だって、自分でなく祖母に抱かれている時の方がよく笑う気さえしてしまう。



その三年後、二人目の子供、娘を妊娠する。

妊娠7か月の頃、切迫早産で一ヶ月ほど病気休暇を取った。
自宅で安静にしていると、3歳の息子が隣に寝転がって甘えてくる。

「保育園休んじゃおっか」

息子を休ませてよく二人で公園やファミレスに行った。
大きなおなかで息子と過ごす時間、小さな手を握りながら、すれ違う人たちの目に親子らしく映っていることが心から嬉しかった。

「ママのキラキラかわいい」

息子は私がネックレスをつけるのを喜んだ。
アクセサリーが苦手なのと、妊娠で指先がむくんでいたことで、指輪やブレスは外していたけどネックレスだけは付けるようにした。


息子は数を数えるのが得意で、流行っていたピコ太郎のおかげでだいたいの足し算を覚えた。

「すごいね、そうちゃんすごいすごい」

パズルや積み木なんかは放っといても上手にできた。勝手に育っていた、それも優秀に。



最近は、同世代の友人たちの出産が続いている。
先輩ママとして、よく質問を受ける。

「寝かしつけってどうしてた?」「夜泣きっていつ終わった?」「トイトレっていつから始めた?」

いつも私は答えられない。覚えていないのだ。記憶を辿っても。
けれど知らないなんて言えない。情けなかった。うちの子もう大きくなっちゃったからなあ、と誤魔化して笑った。

「ねえねえ、子育てでイライラしちゃう時ない?私、手が出そうになったこともあるんだ」

友人に泣きそうな顔で言われたこともある。分かったような顔をして、背中をさすることしかできなかった。

無いよ、そんなこと。だって私、ほとんど自分で子育てできてないから。



2018年3月、0歳からお世話になっていた保育園を卒園した。
卒園式では毎年、子供たちが一人ひとり卒園証書を受け取り、それを親の元まで持っていくのが恒例となっている。
そこで一言、子供から親へ、言葉が贈られる。

「いつもおいしいご飯を作ってくれてありがとう」
「いつも可愛く髪を結んでくれてありがとう」
「いつも外で一緒に遊んでくれてありがとう」

親御さんが涙する。私もあたたかい気持ちで拍手をおくっていた。
息子の番が回ってくる。
ひょろっと背の高い息子が一歩一歩、私の元へ。

「ママ、いつも褒めてくれてありがとう」

何も言葉を返せずに、あふれる涙をぼたぼたと流しながら、息子の細い体をぎゅっと抱きしめた。
料理も得意でなく、髪を梳かしてもいない、外でもめったに遊んでやれていない私を、息子は許してくれていた。



夕方17時半、そろそろかな、と時計に目をやる。
ただいまー、と言いながら息子が帰ってくる。
自分で鍵を開けて、大きなランドセルをどさっと玄関に置く。
さっさと宿題を出してリビングに持ってくる。息子は今、小学校2年生だ。

「なんで最近ママおるん?」

そういえば、というような感じで尋ねてきた。私はお茶を一杯、コップに入れてやる。

「ママ最近ちょっと疲れて仕事お休みしとるんよ」

ふーん、と言いながら一気にお茶を飲み干した。額にはきらきらと汗の粒が散っている。自宅から学校までは徒歩45分。学区の端だからとても遠い。

「ママ、このままお仕事辞めるかも」
「えー!やったー」

それだけ言って、国語の教科書を開き、大きな声で読み始めた。
息子は普段、私が仕事に行っている間、こうして誰もいない部屋の中で音読の宿題をしているのだ。
誰も見ていなくても、「やったふり」なんてしない。うちの子は嘘をつかない。

音読が終わると明日の時間割りを始めた。時間割りどおり教科書を入れ替えたら、近所の公園に遊びに出てもいいルールにしている。

「そろそろさっちゃんの保育園のお迎え行くけど、一緒に行く?」
「行かなーい」

早く遊びに行きたくて、大急ぎで時間割りをする息子を、邪魔するみたいにぎゅっと羽交い絞めにしてみる。まだまだ甘えん坊な年頃なのか、やめろーと嬉しそうな声で嫌がる。

私の腕をほどくと、顔を見上げて笑った。

「ママってとってもいい匂い」

そう言って、私の体から飛び出した。胸が締めつけられるようだった。

その瞬間、やっと、やっと初めて母親として認められたような気がした。

これが、自覚というものなのか。親である自覚。母である自覚。

胸の痛みを絶対に忘れない。


行ってきまーすと言って、息子は帽子を被って玄関を出た。
家には私がいるのに、いつもの癖で鍵を持って出た。

あの小さい背中がこれまでどれだけ寂しい思いをして、私の帰りを待っていたのか。
それなのに私は家に帰っても仕事の失敗を引きずって、職場の人間関係を気にして、明日の営業数字に悩んで。
深夜深くまでお酒を飲んで、夜中に起きてきた息子を、寝なさーいと寝室へ押し戻して。

今まで本当にごめんね。



息子がもう少し大きく大きくなったら伝えたい、たくさんの謝罪がある。
いつも褒めてくれてありがとう。どう考えても私の台詞だった。
いつも許してくれてありがとう。いつも笑ってくれてありがとう。
これからあなたが悩む全てのことを取り除いてしまいたいけど、そんなことはできないからせめて、私はあなたのそばにいます。

今週の金曜で、息子は8歳になる。

2019.06.17    母


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ちゃこと呼んでください。銀行員がnote描いてたらライターになりました。読みやすさがモットーの微炭酸エッセイ。読んだ後ちょっと優しくなれる文章を目指して。合言葉は【NO MORE 他人の期待に応え癖】。あなたの朝の日課になりたい。あなたの夜を食べちゃいたい。
コメント (26)
職場で涙でそうになりました。
素敵です。
はじめまして。
思わず泣いちゃいました。
私もココには書けない事情があり、
本当は罪の意識でずっと生きてきました。
あなたの気持ちを表す言葉が全てというほど、私にも当てはまり泣かずにはいられないほど共鳴しました。
自分で育ててないような状況に引け目を感じたり、本当に心境が自分とリンクしました。゚(゚´Д`゚)゚。
初めまして!突然すみません。
忙殺の毎日でトラブルや悩み事があって辛くてもなぜか泣けず、とにかく前を向き続けていました。
こちらの記事をふと読んで、自然と涙が出て、次から次へ出て、止まりませんでした。
上の子が3歳で、自分の至らなさでおそらく寂しい思いをさせていて、出来るだけそれに気付かないように前を向いていました。
子供は親のことをみてるんですね…!
卒園式の時にお子さんが言ってくれたことば、とてもとても素敵ですね。
そんな素直な子に我が子もなってくれるかな。
降って湧いた命を守るためにがむしゃらに毎日生きていますが、ちゃこさんのお子さんの様な未来を信じて、目の前の娘を一生懸命育てます。
読むのは大好きなのですが、文章書くのが苦手で意味不明でしたらすみません。
明日も頑張って仕事にいってきます!
はじめまして。たまたまに目に入り何も覚悟をせずに読みはじめました。
が、、、涙溢れてきてしまいました。
わたしの息子は4歳ですが、全く同じく息子に対して後ろめたい気持ちで毎日過ごしています。手抜き育児なこと、つまらないのとで怒ってしまうこと、自分の余裕のなさからイライラした気持ちをぶつけてしまうこと。本当に申し訳ないと反省の日々ですが、どこか自分に言い訳していたことを、ちゃこさんの記事を読んで、自分が逃げていたこの気持ちに痛いほど気づかされました。息子さんに卒園式に言われた言葉。わたしもそう言われるよう今からでも気持ちを入れ替えて頑張りたいとおもいます。ちゃこさんの記事に出会えて本当に心から良かった。応援しています。
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