モデル就業規則の解釈と実務上の活用方法

厚生労働省は企業が就業規則作成時の参考にできるよう、WEBサイト上で「モデル就業規則」を公開しています。モデル就業規則は法的強制力を持っているものではありませんが、多くの企業が参考にしており、実務上は強い影響力を持っています。

モデル就業規則は、法改正や時代背景の変化に応じ、度々改定が加えられてきたのですが、平成30年1月に印象的な改定が行われました。それは、「副業の解禁」です。

副業解禁でモデル就業規則はどう変わったのか

改定前のモデル就業規則では、副業は原則禁止とされていました。しかし、裁判所が従来から本業に悪影響のない副業に対しては肯定的な判決を出してきたことと、実務上も副業を容認する企業が増えてきたという世の中の動きに対応し、モデル就業規則にも副業を解禁する改定が加えられたのです。

新旧のモデル就業規則の副業に関連する条文を比較すると、具体的には、以下の3個所に改定が加えられています。

-----------------------------------------------------------------------------------1.遵守事項
<改定前>
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
①~⑤(省略)
⑥ 許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
⑦(省略)
<改定後>
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
①~⑤(省略)
⑥削除
⑦「⑥」に繰り上げ

2.懲戒の事由
<改定前>
第62条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
①~⑥ (略)
⑦ 第11条、第13条、第14条に違反したとき。
(以下略)
<改定後>
条文自体は改定前と同じだが、第11条⑥の改定により、無許可の副業が懲戒事由から削除されている

3.副業・兼業
<改定前>
該当条文なし
<改定後>
第65条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行う ものとする。
3 第1項の業務が次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は 制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する当たる場合
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上記比較について説明を加えていきますと、まず、第11条に関しては、改定前は、副業を「許可制」として、会社の許可がない限り副業を行うことは認めないという形をとっていました。許可を得るための手順は特段定められておらず、実質的に全面禁止に近いニュアンスであったと考えられます。これに対し、改定後は、会社の許可に関する文言が完全に撤廃され、従業員が副業を行うにあたって、会社の許可は不要ということになりました。

また、表の中での説明の通りですが、第11条の改定で「許可制」が撤廃されたことに伴い、無許可で副業を行った場合は、第62条で定める懲戒事由からも除外されることとなりました。

しかし、許可制が撤廃されたからといって、従業員が全くの自由に副業を行って良いということになったわけではありません。モデル就業規則に新たに加わった、第65条で定められた基準に沿って副業を行う必要があります。

すなわち、改正後に新設された第65条では、第1項で副業の解禁を宣言しつつも、第2項では会社への届出を求め、第3項では届出をされた副業を例外的に会社が禁止ないし制限することができる場合を定めています。第3項で禁止または制限の対象として①~④に列挙されている内容は、従来から従業員の副業に寛容だった裁判所においても、副業の制限ないし禁止が認められた裁判例等をもとに、一般化をしたものです。

補足しますと、①は、疲労により本業の労務提供の質が低下する場合や、本業と副業を通算すると過重労働になるような場合です。②は、本業のノウハウや顧客リスト等を副業に流用される恐れがある場合です。③は、本業の会社の名誉や評判を汚す恐れのある反社会的な副業に従事するような場合です。④は、たとえば美容師が近隣の他店舗で兼業するというように、本業と顧客の取り合いになるような副業を行う場合です。

各企業が行うべき3つの対応

モデル就業規則が改定されたことや、有名企業が副業を解禁したというニュースがたびたび報道されるようになり、多くの企業において、副業の解禁を求める従業員の声は、それが明示的なものであれ、潜在的なものであれ、高まっていることは間違ありません。

このような時代背景の中、各企業では、3つの対応が必要になると考えれます。

①自社の就業規則で副業を解禁する

第1は、モデル就業規則に合わせ、自社の就業規則も副業を解禁する方向に改定をすることです。

そもそも、モデル就業規則が改定される前から、従業員と副業の許可をめぐって裁判になった場合、裁判所は「副業をすることを含め、余暇の時間に従業員が何をするかは従業員の自由である」という考え方に基づき、前述したような本業に悪影響がある場合を除き、副業容認の判決を出してきたわけです。副業を希望する従業員が増えてきている現在、法的なトラブルを避けるという意味において、副業を解禁する必要があると言えます。

また、法的リスクだけでなく、企業が副業に消極的な姿勢を取ることで、採用におけるネガティブインパクトや、優秀な従業員の退職につながるなど、人事戦略上のデメリットも懸念されるでしょう。

②「闇副業」の撲滅

第2は、「闇副業」を撲滅させることです。

従業員が副業をすることを否定的に扱っている企業では、副業をしていることが発覚すると、懲戒処分を受けることや、人事上の不利益を被ることを恐れて、従業員が隠れて副業を行う傾向にあります。

この点、冷静に考えると、従業員が副業を行うこと自体よりも、従業員が見えないところでこっそり副業を行うことのほうが、企業にとってはリスクなのではないでしょうか。

すなわち、頭ごなしに副業を否定して「闇副業」を誘発させるのは得策ではなく、モデル就業規則のように副業を容認することで、副業の「見える化」が進み、会社がリスクコントロールをしやすくなるということです。

なお、モデル就業規則には、副業の届出を怠った場合について、懲戒事由として定められていないので、自社の就業規則に追加をしておくと良いでしょう。

さらに言えば、本業にプラスの影響がある副業を行ったら人事考課で加点するとか、「ベスト副業賞」みたいな表彰制度を作って社内表彰をするとか、企業全体として副業に肯定的な雰囲気をつくっていくことも、闇副業の撲滅、さらには、良い意味での副業の活性化にもつながっていくでしょう。

③自社に合った副業ルールの構築

第3は、自社に合った副業ルールを構築することです。

モデル就業規則第65条第3項の定めは、あくまでも、副業の禁止や制限を設けることができる一般的・包括的な基準です。モデル就業規則の文言をそのまま就業規則にコピーするだけでは、実務上、副業を管理するためのルールとして機能させることは困難です。

すなわち「モデル就業規則の文言をそのまま就業規則に追加して、あとは審査をする人に丸投げ」では、担当者によって審査基準にバラつきがでて従業員に不公平感が生じたり、自社にとって必要なリスクに対する審査が網羅されたという保障もないということです。

ですから、最初の手間はかかりますが、就業規則の別冊として副業規程を作成し、たとえば、「総労働時間が●時間以上の従業員は副業ができない」「●●社と××社は非常に近しい同業他社なので副業禁止」「当社で●●の職位にある人は、△△な副業を控えなければならない」といったような、具体的な副業を行う場合の社内ルールを作りこむ必要があるのです。

また、副業の申請先窓口や、不許可になった場合の不服申立ての手順、事実を欺て許可を受けた場合の懲戒基準など、きちんと副業を管理していくためには、整備していかなければならない事項は案外多いものです。

副業希望者が多数発生することが見込まれる企業では、アナログ作業には限界がありますので、人事労務部門の負荷軽減のために、システムによる副業管理を検討すべきです。

まとめ

副業解禁への対応は、モデル就業規則に沿って就業規則を改定したからOKということではありません。それは、あくまでも出発点ですので、モデル就業規則を深掘りしていき、必要に応じてシステムの導入も検討しながら、自社に合った副業の管理ルールや仕組みを構築するように心がけてください。