見出し画像

歌ってくれて、ありがとう。

*尾崎世界観さんが読んでくれたわたしのお悩みラジオを、J-waveさんが記事にしてくださいました。
http://www.j-wave.co.jp/blog/news/2017/09/post-4095.html

推しなんて存在が自分にできるとは、思ってもいなかった。そのバンドを知ったのは、大学生になってすぐのこと。先輩が歌うそのバンドの歌詞に、どうしようもなく心が引かれた。気になって仕方がない存在になった、わたしにとって大切なロックスター。

クリープハイプだなんて、甘そうな名前。そんな感じの飲み物があった気がしなくもないけれど、そのバンドに出会って人生がとてつもなく変わった。ラブホテル、セックス、失恋、風俗。社会で明るみに出ることのないような影すらも、彼は高音で歌い切る。泣くように、喚くように歌う。

「愛の点滅」という歌を聴いた時、痺れた。
ここで語ると陳腐なものになってしまいそうだから、ぜひ、聞いてみてほしい。

ラジオ越しに名前を呼ばれた時、喜びと緊張で全身が震えた。迷って悩んで、勇気を振り絞り初めて投稿したお悩み相談が、その日のラジオの一番最後で読まれた。いつも叫ぶように歌う、ちょっとかすれたその声に名前を呼ばれてみたいという甘い欲望があったから、あえて本名で投稿をした。待っていたとはいえど、いざ自分の名前を呼ばれると、ドキッとしてしまうものだ。

ボーカルの彼がパーソナリティーを務めるラジオは、一週間働くわたしへのご褒美だった。ラジオはだいぶ深夜で遅い時間だったけれど、仕事に追われて帰宅が遅いわたしの生活リズムにも、ぴったりとはまっていた。

その時のわたしは、自分で選んだこの仕事に、自信がなかった。下積み時代でお金もなく、好きな仕事に夢中になることが正解なのかもわからず、ずっとモヤモヤしていたのだ。
誰に何を言われても納得ができなかったのは、人の話を聞くための姿勢が私になかったからなのだろう。余裕がなかったわたしに会いに行って、抱きしめてあげたい。その時の自分がいかに苦しかったのか、耐えていたのか、周りにいる人がこれからの自分にどれだけ大切な存在が、教えに行きたい。

私の投稿を読んだ彼は、一呼吸おいて、ゆっくりと話し出した。丁寧に、寄り添うように、そして彼らしく、歌うように言葉をかけてくれた。
夢を追うべきか否か、迷っていたわたしに、彼はこう言った。

こうやって悩んで「やりたいことやってるのに悩みます」って言える側の方が幸せなんじゃないかなって思いますけどね。何も夢なんか追わずに、淡々と暮らしていくのが幸せだっていう人もいるかもしれないですけど。そっちよりは、やりたいことやって悩んでる方が健全だと思います。
引用:J-wave SPARK 2018年9月4日オンエアより

至極当然のように、その言葉全てがスッと心に入ってきた。
音楽を一曲聞いたような気分だった。

言いたいこと、言えないこと、言いたかったこと、言われたこと。これまでの人生のあらゆるシーンで蓋をしてきた感情が、彼の歌を聴くと溢れ出す。海の底へ沈むイカリのように重たかった黒い感情も、ポップコーンのごとく軽やかに弾け飛ぶ。
誰かの作るものでこんなに救われたことはない。誰かの叫びにこんなに心が動いたことはない。その命の全てを燃やして歌う姿に、涙が出る。ぐちゃぐちゃに散らかった心の中を、丁寧に片付けてくれているような、不思議な感覚。

汚さや醜さをさらけ出すなんてことは、この世の中ではしなくてもいいことなのかもしれない。ありのままで愛されようだなんて押し付けがましいにもほどがある。綺麗に着飾り、調理された美味しそうな自分でいることで周りに評価されれば、それなりに生きていけるのだろう。

だけど、どうしたって、わたしが救われるのは、全身全霊で今を生きている人の言葉なのだ。分厚い鎧で身を守り、当たり前を突き刺しあうこの世の中で、自分と向き合い誰かの声となり、絞りとるように己をさらけだす姿に、どうしようもなく惹かれてしまう。失うものなど、本当は何もないのかも知れない。こんなわたしでも、まだ戦える気がしてくる。

描きたいのに書けない日には、ABCDCを。
好きでもない人に体を触られた日には、ラブホテルを。
好きな人の隣でただ眠った日には、寝癖を。
クソみたいな今日に絶望をする仕事終わりには、イノチミジカシコイセヨオトメを。

その歌で、救われました。

生きていてくれて、ありがとう。
歌ってくれて、ありがとう。
あなたが背負う暗い過去も、理解されることがなかったその真ん中も、歌に乗せてわたしの中に確かに入ってくるの。じんわり熱くて、たまに過激で、程よく優しいあなたの歌は、わたしの人生に彩りを加えてくれます。同じ空の下で生きているということだけで、少しだけ元気が出ます。

これからも、歌ってください。
これからも、生きてください。

その歌を待つ命が、確かにここにあります。
ロックンロールって、最高だな。

#エッセイ #いまから推しのアーティスト語らせて


いつも応援ありがとうございます。