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書籍『わたしは思い出す』予約開始に寄せて

10年目の3.11にふさわしい企画を考えてほしい。

地震の記憶を継承するための展覧会を『せんだい3.11メモリアル交流館』から依頼されたのが、本書刊行の発端です(2020年7月)。一見して復興が進んでいる「被災地」。しかし、本当にそうなのだろうか。10年目に着目するだけでは見えてこない風景がある。3月11日のことを尋ねるだけでは聞こえてこない声がある。これまでの10年に散在する《非日常》の微小なかけらを丁寧に拾い集め、輪郭を与え、これからの10年に手渡す。そんな取り組みが、10年目の3月11日を迎えるために必要だと思いました。

私たちは地震後の日々を記録に残し続けてきた人を探し、育児日記を綴り続けてきたかおりさん(仮名)と奇跡的に巡り合うことができました。彼女とともに日記を再読し、「震災」という視点からではなく、ひとりの女性の「生」という視点から10年という歳月を捉え直すことを試みました。それは、「被災者」以前に「生活者」であること、「被災地」以前に「生活の場」であることを確かめる作業でした。「どんな大切な思い出もいつか忘れてしまう」。およそ6ヶ月にわたって継続された振り返りの作業は、かおりさんのそんな思いと向き合い続けたひとときに他なりませんでした。

11年目の3.11を迎えるにあたり、私たちは彼女のその後を追加取材しました。

1000年に一度と言われた大地震のあとの世界をあなたはどのように生きてきましたか。本回想録は、かおりさんの11年間の日々の記録と記憶に、その問いの答えをさぐる試みです。多くの方々にとっての《月命日》が、我が子の成長を祝う《月誕生日》でもあったこと。ページをめくるたびに、そんな複雑な現実がゆっくりと迫ってきます。いくつもの《11日》を経由したその先に、あなたの前に立ち現れるのは、思い出すことの切実さ。かおりさんの「小さな記録」が契機となった本書。皆さまのお手元に届くまで、しばらくお待ちください。

2022年3月1日
松本篤(AHA!世話人/本書編集、聞き手)

『わたしは思い出す』刊行

先行予約、5.11まで受付中。[先行予約の受付は終了しました]
詳細はウェブサイトへ。
https://aha.ne.jp/iremember/