地域課題解決ラボ in 長野県喬木村② そこでしか得られない気づきを【中編】
こんにちは!ミライ研、研究員の本間です。
前編に続き、中編でもフィールドワークに同行して得られた気づき、特に「人との出会いが生徒にもたらすもの」についてお伝えします。
1対1の関係性が生徒の心を動かす
今回の活動を通じて感じたことは、デスクトップリサーチで地域を調べたり、現地でモノ・コトを見たりするだけでは不十分だということです。
現地で実際に活動している「人」と交流し、対話することで初めて、地域と生徒の間に1対1の関係性が生まれます。対話を通して、その人の人となりや活動の背景にある想いを知ることで、共感や疑問が生まれ、地域(人)への理解が深まるのだと感じました。
ここでは、そのような場面を2つご紹介します。
①阿島傘職人の小林旅人さん
「伝統工芸はなくなる、と思わなければ本当になくなる」
旧喬木村北保育園に展示されている「阿島の大傘」の見学で出迎えてくださったのは、地域おこし協力隊として喬木村に移住した小林旅人(本名・修)さんでした。
3年前に喬木村に赴任し、1989年に喬木村発足115周年記念として制作された、当時日本一の大きさを誇る巨大和傘の修復に取り組んでいます。また、喬木村の伝統工芸品である阿島傘の後継者育成にも力を入れています。
小林さんは次のように、活動の背景にある想いを語ってくれました。
生徒たちからは以下のような感想があがりました。
「和傘はなくなる」という考えを持つことで問題を自分事として捉え、和傘を残す理由や価値、どのように残していくかを考えることに感銘を受けた。
阿島の大傘には若手の担い手が少ない傘職人の業界に、子どもの参画があったことを示していると思う。小林さんのような職人から次世代の子どもたちに文化を伝えるきっかけが生まれていることが分かった。
また、小林さん自身、約30回の転職経験があるそうです。「これまでの経験が巡り巡って今に繋がっている。好きなことはもちろん、何事にも逃げずに果敢に挑戦することでスキルアップに繋げてきた。それは人のためにもなる。」とお話いただき、その小林さんの生き方に感銘を受けている生徒もいました。
②ウエダイラハウスオーナーのゆきみさん
「楽しいけれど、どこか人間らしくない」
2日目に宿泊した「みんなでつくるふるさとウエダイラハウス」(喬木村に隣接する高森町)のオーナー、ゆきみさんから、なぜ古民家を活用したゲストハウスを運営されているのか、活動の想いや背景をお話しいただきました。
ゆきみさんは元々、港区で飲食店を経営し、大阪ではアパレルサイトFCの管理責任者も務めていました。何不自由なくお金も稼いでいたそうですが、「楽しいけれど、どこか人間らしくない。自然が恋しい」と違和感を覚え、自分が食べる食材はどうやってできるのかと次第に農業に興味を持ち、自然に目を向けるようになったとのことです。
そんな時、高森町の古民家の話が舞い込み、実際に現地を訪れた際に直感で「ここだ」と思ったそうです。そこからはゲストハウスオープンに向けて仲間とともにDIYで改修されたようです。
特に印象的だったのは次の言葉です。
空き家活用に関心を持つ生徒たちからは、客層や宿泊者との継続的なつながりについて活発な質問がありました。
この施設は村内に宿泊施設がなかったために選んだもので、当初は宿泊と朝食のみの予定でした。しかし、ゆきみさんの人柄もあって、思いがけない対話が深まりました。チェックアウト時には、「カレー美味しかった」「また遊びに来るね!」とゆきみさんと別れを惜しむ生徒たちの姿がありました。ゆきみさんやスタッフの方々の想いに触れ、温かさを感じられたからこそ、また帰りたいと思える関係性が築けたのだと思います。
私自身も引率し、地域の方々のお話や交流の場を見守る中で、「伝統工芸は変わらず残り続けるもの」「都市的な価値観に違和感を覚えても、実際に暮らしを変えるにはハードルがある」といった当たり前に抱いていた感覚が揺さぶられる経験をしました。
現地でしか得られない情報(その地で暮らす人が抱く感情やお困りごとといった机上では分かり得ないこと)こそが地域の財産ではないでしょうか。
生徒にとっても、実際にその地に赴き、顔が見える関係性を築けたことで初めて、「だれかのために」という1対1の関係が生まれ、より喬木村への理解も深まり、自然と地域貢献や課題解決の意識が向上したのではないかと思います。
(【後編】に続く)