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【開催レポ】Agri/Food Tech Startup Showcase2021:第3回 スタートアップが、"水産"を変える

皆さんこんにちは!Beyond Next Venturesの有馬です。

前回に引き続き、「Agri/Food Tech Startup Showcase2021」のイベントレポートをお届けします。今回は、2021年8月31日開催「第3回:スタートアップが、"水産"を変える~品種改良、養殖技術~」です。

「Agri/Food Tech Startup Showcase2021」は、次世代の食・農をテクノロジーでリードするスタートアップ×VCの対談企画です。4週にわたり、「農業」「水産」「発酵」「代替肉」などのテーマに関連するスタートアップ経営陣をお迎えしています。

第一部:日本の水産業の現状、課題

有馬:日本の漁業の生産額は1兆5579億円というマーケットになっています。また世界第6位の広さの排他的経済水域を持っていることや、1日1人あたりの魚介類消費量が諸外国と比べ非常に多いことから、日本は水産大国という側面をもっています。(※農林水産省の資料より)

一方で課題もいくつかあります。
① 排他的経済水域の設定により、遠洋・沖合漁業が衰退傾向にあること
② 魚介類の消費量が多いものの、半分を輸入に依存していること
③ 魚→肉へ消費者の嗜好が移っていること
④ 所得の減少による漁業就業者の減少、高齢化傾向にあること
⑤ 高いランニングコストに起因する、個人経営の養殖経営体の減少

こういった沢山の課題がある中で、今後の水産業においては、養殖による高効率×高所得×高収量が今後のカギになると考えています。

世界で増加する魚の消費量

世界においては魚の消費量・生産量が増加していることから、漁業は成長産業となっています。例えば、ノルウェーではアトランティックサーモンの高効率な成育システムや政府主導の養殖業の大規模化が進んでいます。ニュージーランドでは、漁獲枠の証券化・投下資本の増加によって高単価路線の経営を行ない、輸出金額を増加させています。

日本でも、漁業を成長産業にすることを目指し、新漁業法が2020年12月より施行されました。令和5年度(2023年)までに資源評価種を200種程度に拡大、早い者勝ちな現状を変えるためのTACによる漁獲量の個別割当てなど、持続可能な漁業体制の構築が行われ始めています。

今後成長産業として期待できる養殖産業について、第二部では3名のゲストと共に深掘りしていきます!

第二部:パネル「スタートアップが、”水産”を変える」

登壇企業1:リージョナルフィッシュ株式会社

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登壇企業2:Re:Blue株式会社

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登壇企業3:株式会社ARK

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パネルディスカッション前に行った各社の10分ピッチ動画はこちら
Re:Blue
ARK

水産ビジネスの機会、海外との比較

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リージョナルフィッシュ株式会社 代表取締役 梅川 忠典氏
京都大学大学院経営管理教育部修了後、新卒でデロイトトーマツコンサルティング株式会社(現:有限会社)に入社。資源エネルギーセクターにて、電力・ガス業界の大手企業に対して、戦略・業務・システム・M&Aに係る経営コンサルティング業務に従事。株式会社産業革新機構(INCJ)に転職し、大手・中堅企業に対するバイアウト投資および投資先の経営に従事。副業でエリー株式会社(昆虫食ベンチャー)を創業し、代表取締役社長に就任(その後、食品メーカー出身の友人に代表を譲る)。2019年4月、リージョナルフィッシュ株式会社を設立し、代表取締役社長に就任、現在に至る。

梅川:賛否あると思いますが、私はビジネスがしやすいと思います。養殖技術者と積極的に連携しているなかで、「こういうところがボトルネックだったんだよ」というのが意外にクリアに分かっていらっしゃるので、「では一緒に開発しましょうか」という流れにもっていきやすいです。逆に海外だと大手企業が多いイメージがあり、技術を自社に抱き込んでしまおうという考えがあるのですが、日本は漁協単位で使っていこうという動きがあります。

有馬:地域密着型でやりやすいということですね。

梅川:さらにこのコロナの情勢が、ある種彼らの危機感を煽っているというのもありますね。何かしなきゃ、みたいな。

有馬:なるほど。早川さんはいかがですか?実際に地域で海面養殖されていると思うのですが。

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株式会社Re:Blue 代表取締役 早川 尚吾氏
2011年:豊田通商株式会社に入社、金属本部の国内業務を通してトヨタ生産方式の最前線を経験。
2014年~:インドネシアへ赴任し営業部長として事業投資先へ出向。輸出入業務及び現地スタッフ育成に従事。
2015年12月:帰国後日本の地方徳島にて起業(行政支援サービス)。
2018年5月:地方での事業モデルを追求する中で、岩本・高畑と共に株式会社リブルを設立。牡蠣養殖から水産養殖業界の新たなスタンダード創りを目指し会社を本格始動。

早川:人間的にいい意味で古くて面白い方が多い業界だと思います。徳島で事業を行なっていますが、皆さん温かく見守ってくださる印象があり、おかげ様で事業を進められています。また、産地として(牡蠣は)広島が圧倒的に一番なので、大きい産地と連携することは大事だと思います。

有馬:なるほど。栗原さんはどうですか?

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株式会社ARK 共同創業者・取締役・Chief Sustainability Officer 栗原 洋介氏
神奈川県茅ヶ崎市出身。英国ロンドン在住。ニューヨーク州立大学を卒業後、2008年(株)電通入社。2015年より(株)ウフルに参画、海外本社代表取締役としてロンドンを拠点に活動。センシング関連企業との資本業務提携と、民間企業や行政機関のIoT・DXなどデータ事業の開発・実装に従事。2020年に竹之下、吉田と(株)ARKを共同創業し、CSOに就任。趣味は、ブッシュクラフトキャンプ、ムエタイ。

栗原:同じ水産でも、漁船漁業・内水面・陸上と課題は違うと思いますが、我々はハードウェアのメーカーなので、メイド・イン・ジャパンであることが信用度の面で重要性があると考えています。

一方で、閉鎖式の陸上養殖という面では、海外は中規模・大規模化が進んでいる中で、我々のような小型分散型は、少ないイメージがあります。我々の戦略として海外進出を掲げているのは、我々の事業モデル的にロットをより多く出荷し、売価を市場にフィットさせていく必要があります。そこで人口が減少している日本市場だけでなく、人口が増えている海外諸国をターゲットにして製品を磨き上げていくのは非常に重要な視点だと思っています。


養殖のキーポイントは?

梅川:種苗のポテンシャルがすごく高いと思っています。例えば陸上養殖の場合、特に固定費の割合が高かったりするんですよ。「2倍速で育つトラフグをつくりました」となると、1/2の期間で出荷するので、固定費も1/2になるんですよ。そしたらコスト構造がガラッと変わって、ペイできますよね。そういう意味から種苗が大事だと思いますし、実際に他の農業や畜産はそうしてきました。ですが水産はそれが進んでいない(天然種苗が多い)現状があるので、種苗がカギだと思っています。

また、養殖産業全体としては、昔ながらの簡易な技術を使っている傾向が強く、マーケットも小さかったため、新しい技術の参入も少ない領域でした。そこに高度な技術をもったプレイヤー、さらに大企業もどんどん参入することで、産業自体がかなり進歩するのでは、と思っています。

有馬:なるほど。種苗は養殖の根本だったりもするので、仰る通りかなと思います。早川さんはいかがですか?

早川:我々も種苗生産をする身としては、種苗生産ができるという立ち位置で、且つ養殖ができるというのがキーポイントかなと思います。

養殖関連でいうと、梅川さんの話でもありましたが、漁師単位で場所に縛られずに色んなところで養殖されている方は少ないなと。企業になると複数拠点を構えられますが、個人や漁協単位だと場所がどうしても限定的になってしまうというのが、一つボトルネックだと考えています。多拠点養殖の展開というところでしょうか。

有馬:なるほどなるほど。栗原さんいかがですか?

栗原:梅川さん、早川さんのおっしゃる通りだと思います。別の視点で申しますと、「できあがった成魚の高付加価値化」だと思います。

出口の値段が上がらないと産業全体が高収益化されません。日本には基本的に天然信仰が根強くあります。確かに「ナチュラル」は一つの大きな付加価値ですが、「天然」「養殖」の二者択一ではなく、近代マグロのような第三軸=独自の価値路線を作っていくのが、我々の陸上養殖などの新しい産業においては非常に重要なことだと思います。

欧州では認証などの認証をつけることで「天然」「養殖」とは異なる「サステナブル」のブランド化が始まっています。日本ではサステナビリティが担保されているものにお金を支払うところまで至っていないと思いますが、今後「サステナブル」のような新しい価値軸が必要だと思っています。

ベンチマークにしている会社

有馬:個人的な興味ですが、業界や国内外に限らずベンチマークしている会社はありますか?

梅川:アメリカにAquaBounty Technologiesという会社があります。遺伝子組換えサーモン、ゲノム編集のティラピアもやっていて、我々の唯一の競合にあたる会社です。面白いのが、2009年から2017年まで売上が0で、現時点においても売上高は1,400万円で赤字が17億。でも上場もしてて、時価総額が490億も付いてます。それはなぜかというと、将来にそれだけの期待がされているから。将来性を見たような上場を自分達も果たさなきゃいけないし、皆さんにそういう未来を見せていく必要があると思って、ベンチマークにしてます。

有馬:10年間近く売上0というのは、すごいな。

梅川:その会社に対してはいくらかの抵抗感もあって、本当に受け入れられるのか?という議論はありながらも、資本市場からは評価されていて、あの会社は世界を変えるかもしれない、と思われています。

有馬:ありがとうございます。早川さんいかがですか?

早川:牡蠣事業分野における種苗生産やシングルシード方式は海外のほうが先行しています。例えばアメリカのHog Island Oysterというところは、ほぼ我々と同じスキームの事業です。彼らの特徴は、(アメリカということもあるのでしょうが)サステナビリティをすごく押し出しています。「良い牡蠣ができることは当たり前で、かつ、環境にとっても良いことができる産業」という打ち出し方をしているのは、我々も目指したい姿です。あとは、アメリカの別の会社の話ですが、種苗生産の拠点をハワイに持っていたり。

有馬:実際に海外でもオイスター系のベンチマークがあるんですね。栗原さんいかがですか?

栗原:尊敬する会社では、日本のメーカーという面でトヨタさん、日産さん、マツダさんといった車メーカーさんですね。あと日々トンカチ打ち付ける中で使っているマキタさんは、すごく信頼されるツールを作ってらっしゃいますし、クボタさん、ヤンマーさん、ヤマハさんをはじめとする発動機メーカーさんもそうです。

競合では、欧州はエビに限らずヒラメやスズキを大規模で養殖している会社があります。近めの規模感ですと、ドイツに1社ありますが、まだ安定したビジネスができていない印象です。アカデミアの研究開発が発展途上という点で、我々含めまだまだこれからの領域かなと思います。

フードテック・アグリテックに限らず、日本のベンチャーや資本市場を見ると、国内の規模がやっぱり小さいなというのがどうしてもあります。我々が競合という意味ではなく資本市場という括りでベンチマークしている会社は、ドイツのInfarmという垂直水耕栽培の会社ですかね。シリーズAで2桁億集めてくるとか、シリーズBや上場になると3桁億、4桁億に上がっていくような企業が業界として当たり前になりつつある中で、我々のような日本のベンチャーと日本のVCが、「共にどうやって海外の資本を集め、海外の市場を取りに行くのか」というところが課題だと思います。

有馬:バリュエーションとか調達額は一桁違いますもんね。マーケットに準じた価格ではあるので、日本全体の底上げが必要ですよね。

事業会社との取り組み

有馬:皆さま多くの事業会社さんと連携して事業に取り組まれていると思いますが、どういう経緯で連携されたのか、一緒に進めるコツ等をお伺いできればと思います。梅川さんいかがでしょうか?

梅川:前職時代からオープンイノベーションが大事だと思って仕事をしています。最近大企業の方々も陸上養殖に参入され始めていますが、同じような分野の同じような研究に研究費を投じるのは、めちゃくちゃ無駄だと思っているので、だったら一緒にやりましょうよと。特にゲノム編集の分野は、水産でやってるところって非常に少ないので、その人達が独自に会社作って、僕みたいな経営者連れてきて、資金調達して、それぞれが同じ壁に挑んで…というのはとても非効率なので。

そこで我々ができることは、売上面では到底貢献できないんですよ。協業とかやってみても、彼らの思う3桁億円みたいな話って中々ならないんですね。だったらせめて資本業務提携という形で我々に資本出してもらって、色々支援するけど、結局キャピタルゲインとしてお返しできるような、業務提携から資本業務提携に移行できるような話にもっていくことが大事だと思っています。今20社くらい連携してますけど、資本業務提携に移行したのが3社くらいというところです。

有馬:オープンイノベーションを元から考えてるっていうのが素晴らしいところですね!事業会社さんが梅川さんの熱意に共感して「一緒にやろう!」となってくれたのが良いですね。早川さんはいかがですか?

早川:個人的な背景もあるので賛否あるかと思いますが、私がトヨタさんと関係がある中で、いわゆるトヨタ生産方式とか、改善とか、最前線にいたこともあってグイグイやってます。必ずしもそうでないと思いつつも、改善努力はある程度自社内でもできる部分もあると思います。ただ自助努力でできない部分はまさにオープンイノベーションが必要だと思っていて、特に一見関係なさそうな会社と具体的な連携ができるかというのは非常に重要視しています。そのために我々は何ができるのか、現在のネックはどこなのか、を社内の共通言語として見える化することを重要視していますし、業務提携をしている会社、検討いただいている会社にもそれをきちんと伝えるように心掛けています。

有馬:日本では資本のある事業会社さんがグイグイ引っ張っていく風潮があるかもしれませんが、オープンイノベーションを進める上では当事者であるスタートアップ側が方向性を示していくことが大事ということですね。

有馬:栗原さんいかがですか?

栗原:徐々に大企業さんからお声がけいただくことが増えてきて、取り組みを始めているところです。前職から大企業とベンチャーの関わりに悩んできた経験からすると、事業会社を見るときのポイント1つ目は、大企業側からすると新規事業の再現性という意味で良くないんですが、「大企業側の担当者が属人的かどうか」です。一歩ルーティンワークから外れて、我々と事業や実証実験をやりたいと思っているかどうか、情熱があるのかどうか、情熱をバックアップするお金と時間があるのかどうかという点は見ています。実際に、担当者の方が社内での反対を押しのけて提案してきてくれるほど個人的な熱を持っていらっしゃるケースもあり、そういう方と一緒に仕事をしたいですね。

2つ目は、大企業はおよそ3年単位で大きな人事異動があると思います。しかし、僕らは始めたらやめられないので、3年すると積極的な担当者が交代になるかもしれない。だから、残された期間で我々がどういう成果を出すのかという点。

3点目は、取り組みの結果を、時間軸と成果として何を据えるのかが大きいと思っています。つまり、大企業側が我々との資本業務提携を通して、人的投資や時間的投資をしていただいて、結果として大企業側の時価総額が上がっていくことが、ベンチャー側の指標になるかなと思います。賛否両論あると思いますが。

異業種からの参入についてメッセージ

有馬:皆さま異業種からの出身だと思いますが、今後皆さまのように異業種から水産という業界に参入したい方にメッセージをいただけますか?

梅川:私は水産業以外の方々が入ってくれるほうが、既存の枠組みに囚われないイノベーションが起こると思っています。我々は相当連携していますが、養殖以外の水産業者とは連携していなかったりするんですね。彼ら(養殖以外の水産業者)はこれまでの失敗した経験や知見がすごく貯まっているんですよ。なので、我々の事業に対してできない理由を述べてくるんですね。で、確かにできないかもしれないんですけど、できないことをできるようにするのがベンチャー企業じゃないですか。なので、異業種からの参入というところでは、今までその業界で10億の売上を100億にする事業をやってこられた方ではなく、別の事業で0を10億にする事業をやってこられた方のほうがチャンスがあるんじゃないかと思っています。なので、ぜひ異業種からの参入をお待ちしています!

早川:僕も同じでして、私自身水産に携わるなんて夢にも思ってなかったですし、幼少の頃から海に入ることも好きじゃなかったですし、サーフィンも全くしません(笑)。そんな僕でも水産という業界に飛び込んで、のめり込むほどにやれています。たまたま養殖業だったということかもしれませんが、飛び込んでみた結果、人生を賭けるに値する産業だとも思いますので、色々な知見をもっている方々の参入をお待ちしています。

栗原:私も異業種からの人間なので、梅川さん早川さんと同意見なんですけど、先入観がないからこその新しい発見があると思います。あとは、志を共にした仲間がいることは非常に大事で、どこかタイミングがあった時に一緒にチャレンジできる方がいるといいかな、と思います。

有馬:本当に私自身も水産業と全く関係ない方が入ることで新しい発見があると思いますし、本日ご登壇いただいたようなスタートアップにジョインすることで、バリューアップしていけるんじゃないかと思います。本日は色々お話を伺えることができて、面白かったです。今後皆様のさらなるご発展をお祈りしています。ありがとうございました。

梅川・早川・栗原:ありがとうございました。

有馬:ご参加いただいた皆様もありがとうございました!

実は、農林水産省初のスタートアップ支援プログラムがいよいよ始動します。9月30日まで募集受付中です!技術シーズの発想段階から、事業化フェーズまで幅広くご応募いただけます。ぜひ下記URLから応募要項をお読みいただき、エントリーいただけますと幸いです。
https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/startup/koubo/R03.html

運営者: Beyond Next Ventures より
私たちは、研究・技術領域を対象とする国内最大級のアクセラレーター、リードハンズオンVCです。1号・2号ファンド総額220億円を運用し、国内外のディープテックスタートアップ約60社へ出資しています。

これまで大手企業内R&Dから生まれた技術のスタートアップ化にも取り組んでおり、事業会社におられる意欲ある皆様の挑戦を心から応援しています。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました!

★第1回「農業」編はこちら
★第2回「発酵」編はこちら


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