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人事から広報へ異動して変わった仕事の進め方とスタンス「広報とは哲学者なり」

日常生活に密着するWebサービスやスマホ向けゲームなど、インターネットを軸に多様な事業領域においてビジネスを展開する総合IT企業「エイチーム」で広報を担当している安藤春香です。

2015年9月に人事として入社、2018年8月から人事と広報を兼任、2019年2月に完全に広報(IR/PRグループ)に異動しました。約2年の広報業務で、採用広報、社内広報、周年プロジェクト、メディアリレーションズやメディア寄稿、アワード・登壇、ブランドに関わる様々な仕事に関わってきました。

業務で使えるTipsは多くの諸先輩による知見・ノウハウがあります。そのため、2020年のアドベントカレンダーでは、人事から広報にジョブチェンジして変わった「仕事の進め方や」「コミュニケーション」「思考法」などについて、当時を振り返ってみます。

この記事は「 #PRLT Advent Calendar 2020」8日目のエントリーです。

人事から広報へ異動して変わった「仕事のスタンス」

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人事時代は、中途採用担当者として年間約200名の採用を担当していました。各事業の戦略や計画にひもづいた要員計画の達成を目指し、営業やマーケターをはじめ、エンジニアやデザイナーなど、多様な人材の採用を行っていました。当時の私に求められていたのは事業部のオーダースピーディに応えるべく高速PDCAを回しながら短期的な採用施策を継続的に行っていくことです。こうした経験は、確実に私を鍛錬させ成長させたことは言うまでもありません。

さて、広報に異動すると仕事の進め方がガラリと変わります。人事としてタスクをスピーディにこなすことに慣れていた私は、広報に異動してもタスクを探そうとします。

当時の私…
「社内報つくりますよ!」
「この情報収集と整理、資料作りは担当します」
「コーポレートサイトの更新と運用はお任せください」
上司…
「タスクをこなすだけの仕事の仕方は広報の役割を全うできない。これからの会社にとって必要なことは何かを考えてみてほしい。そのためにも、現状把握と課題整理、それらの課題を解決するためにどうしたらいいか考えてほしい。まずは考えることに時間を充ててほしい」
※当時は、オウンドメディアの運営など継続して担当している業務はありました。

衝撃的でした。手もとに仕事がないのです。
広報とはどんな役割を担うべきなのか。現状と課題は何なのか。当時の私の仕事の進め方や思考方法ではこれらの解を見つけることはできませんでした。こうした試行錯誤をする中で「時間軸」「成果スピード」「ベクトル」「思考」「行動」「スタンス」「マインド」など、異動して変化が求められた広報としての働き方やスタンスが見えてきました。

時間軸「短・中期的」→「長期的」へ

コーポレート部門の役割は、企業の持続的な成長の土台づくりをすることです。人事時代から「長期目線」を意識していたつもりでした。

ですが、コーポレートWebCM制作などのブランディングに関わる仕事を通して「コーポレートアイデンティティ(CI)」や「ブランドアイデンティティ(BI)」を考えるきっかけが増えたことで、本当の意味での「長期目線」を意識せざるを得なくなりました。※同時期にVIガイドラインの社内浸透プロジェクトに参加していました。

その頃、「過去」「現在」「将来」に向けて、企業のコアとなる普遍かつ不変的な要素を抽出してみることにしました。改めて会社を正しく理解するために「強みや弱み」「特徴」「他社との違い」「会社の歴史」、その他にも「社員の入社動機」「社員が感じる会社のイメージ」など、資料や過去広報物を読み込み、社員ヒアリングを繰り返しました。情報を収集・整理し、自分なりに会社理解を深めていきました。

こうした企業のブランドやストーリーは途切れることなく一貫したもの。この先にどんな物語が想像できるのか。経営・事業の方針、経営陣の思いなどをくみ取りながら、3年後・5年後の未来を想像し、広報として何をやるべきか考えなければいけない。少しずつ、そう考えられるようになりました。

成果スピード「即効性」→「遅効性」

成果が出るまでに時間がかかることも広報業務の特性かと思います。KPI設計に悩む広報担当者も少なくないでしょう。仕事の意味づけもとても悩みました。

そもそも広報の成果とは何か。プレスリリースの反響分析や広告換算値で定義できなくもないですが、広報活動による「反応・反響」と表現するほうが正しく、厳密には成果ではない。企業価値や時価総額、業績へのダイレクトな影響値はとても見えづらく、とても定性的なものです。

広報による成果は非常に遅効性で「漢方薬」のように少しずつ効いてくるものだと思います。たった1つの発信が効果的であるというよりも、社内外への発信に一貫性があり、経営や事業、社員のストーリー(企業文化や組織風土)が継続的に発信され続けることで、ようやく効果が出てくるものだと思います。お取引先企業、ユーザー、採用候補者、社員またはそのご家族など、私たちが見えないところで様々なストーリーが根付いていくこと、それらが企業のブランドとイメージを醸成していく。そう信じるしかないと心に決め、日々、粛々と業務に励むようにしています。

ベクトル「社員」→「社会(パブリック)と会社をつなぐ」

お恥ずかしいながらも、私の広報人生は「パブリック・リレーションズ(PR)」の概念を理解するところから始まりました。この領域は本質的な理解に時間をかけ、何十冊も本を読みました。

パブリック・リレーションズ(Public Relations)※参考
パブリック・リレーションズ(PR ※広義で広報)とは企業やブランドに関する世間の認知を高めるために行うこと。アメリカPR業界では「パブリックリレーションズとは、組織と組織をとりまくパブリックの間の、相互に利益のある関係を築く戦略的コミュニケーションのプロセスである。」と定義。

そして、「ステークホルダー」を意識した情報発信に気を遣うようになったのもこのころから。人事だったころ私のステークホルダーは「社員」と「採用候補者」だけでした。ただ今では「株主・投資家」「社員」「お取引先企業」「ユーザー」「社員のご家族」など、様々なステークホルダーを意識します。

オウンドメディア、外部メディアの取材、登壇、アワード、社内報など、あらゆるコミュニケーションにおいて一貫性があり、情報に平等性があり、誤解を与えないように正しくわかりやすく伝えること。そのため、情報発信をするときは自分の文章や表現(グラフや図など)がそれらを満たしているか確認しています。そして必ず第三者のチェックで厳しく指摘してもらうようにしています。私も確認を依頼されたら、その観点でチェックします。

※注釈:サブタイトルについて
概念的に社会(パブリック)の中の要素に会社が含まれるため、やや違和感がある表現ですが、わかりやすさ優先でこの表現にしております。

スタンス「公平・平等」

前述でもありましたが「公平・平等」を大切にしています。

エイチームの事業特性でもありますが、実に様々な事業を展開しています。Webサービスやスマホ向けゲーム、EC事業など。そのため、特定領域の事業や社員の情報発信に偏りすぎてしまうと、多様な事業を展開する総合IT企業としてのイメージが醸成されません。そのため、様々な事業、多様な人材をバランスよくアウトプットするようにしています。

社内のコミュニケーションにおいても、情報収集の段階で情報が偏りすぎないように意識しています。その他にも、PR施策で社内ヒアリングなどをする場合も同様に、事業、役職、役割などに配慮し、バランスよく情報取集するように心がけています。

思考「具体化」→「抽象化」

「具体化」と「抽象化」を行き来する思考法はこのnoteのエントリで分かりやすく紹介されているのでぜひご覧ください。

どんな仕事でも「具体化⇔抽象化(⇔構造化)」思考のプロセスは重要ではありますが、この数年は特に意識しています。具体化された施策メニューが自社の課題感や目指したい姿と必ずしもマッチするわけではありません。

また、全社に影響する施策や長期的な施策ほど、情報量が多く煩雑になりがちですし、施策検討段階から緻密な設計が必要とされます(後から軌道修正しづらいから設計段階からきっちりと)。

この思考プロセスもとい仕事の進め方は上司からよく指導を受けました。

①情報収集(具体化)
他社での取り組みを収集。企業規模・業界・課題感など、検討に必要な情報をまとめます。

②情報整理(抽象化)
集めた情報の中から、自社と共通の課題が条件の企業はどんな施策を講じる傾向にあるのかなど、共通項から探っていきます。この時の情報整理やセグメントなどで同時に構造化も行います。

③施策に落とす(示唆抽出)
上記で検討した情報をもとに、自社にマッチした施策を検討していきます。

プロジェクトの大小関わらず、こうした思考プロセスを意識します。広報は抽象度の高い仕事も少なくありません。必ずしも正解があるとも限りません。広報から提案を受けた立場の方も「どんな基準で承認すればよいかわからない」と感じる方も少なくないはず。だからこそ、客観的かつ論理的な情報整理と検証による提案が大切なのだと思います。

行動「行動力」→「思考力」

「行動力」と「思考力」はセットでバランスよく発揮したいものです。ただ繰り返しになりますが、タスクをこなす仕事の進め方に慣れていた私にとって行動を抑えて思考に時間を充てることがとても大切でした。

手を動かしていると仕事をした気になって、メンタル的な満足感があります。実際に業務は進んでいますが、将来に向けた前進はありません。勇気をもって手を止めて、現状整理や課題特定、施策を考える時間を作るようにしました。ただあまりにものんびりすぎるとアウトプットはいつまでたっても出てきません。異動当初の半年間は思考量を増やし、その後は少しずつ「思考量」と「行動量」のバランスを取りながら仕事しています。

マインド「情熱」→「冷静」

仕事に対する「情熱さ」を持ちながらも、「冷静さ」を忘れないと表現したほうが正しいです。

もともと営業職の出身なせいか、私はちょっと暑苦しい
「全力で頑張ろう」「目標は必達」「泥臭く粘り強く努力する」「要望には100%応えたい」など。

感情が高ぶり、根拠なき「精神論」に支配されてしまうと、無計画で、抜本的な解決策がないまま進め、効果的な仕事ができなくなってしまう。

今まで書いてきた仕事の進め方を実践するためには、客観的かつ論理的に物事を捉え、冷静に判断することが求められます。

広報の仕事って何なんだろう

約2年間、広報の仕事に向き合ってきました。今言えることは、広報に異動してよかったと心から思えるし、とても楽しい。

昔から哲学や心理学が好きで「人はなぜ存在するのか」「自分らしさ、アイデンティティとは何か」とかよく考えていました。「自分」の定義すら難しいのに、企業のアイデンティティやブランドを考えるなんて、途方もない仕事だと思いました。

私たちの会社は今までどのように歩んできて、これからどこへ向かうのか。社会とどう向き合い、どんな価値を提供していくのか。そして、どう在りたいのか。この途方もない旅路に出てしまった以上は、脳がちぎれるほど考えていきたいと思います。

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