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採用候補者とのより良い関係性構築のために、採用広報で大切にすべき5つのこと

人事や広報の界隈で関心度が高い採用広報の仕事。採用広報を専任・専属で設置するほど、採用広報に力を入れる企業が増えています。

ずっと前までは、採用広報と言えば、「リクナビ」や「マイナビ」などの求人サイトに求人原稿を掲載すること、採用活動の開始を広く報せること、という意味で使われていました。(当時は「採用広報」という概念の活動ではなかったとは思いますが)

採用手法が多様化する昨今では、少しイメージが違います。採用広報と言えば、オウンドメディアやソーシャルメディア(SNS)を通じて、自社の特徴や魅力をコンテンツとして発信すること、そう捉えている方が多いかと思います。もちろん重要なソリューションですので、私もオウンドメディアへの記事の執筆活動、複数にわたるSNSの運用、時にはメディアへの寄稿など、情報発信の業務にリソースを多く割きます。

ですが、本来の採用広報の場面においては、人事や広報から発信する情報だけでは充分でないことも多いです。リアリティある信頼性の高い情報を届けるためには、採用プロセスに関わる全ての社員によるコミュニケーションの強化が必要不可欠です。

今回の記事でみなさんにお伝えしたいことは、採用広報は採用に関わる全ての社員がエバンジェリストであることの重要性今日からすぐにでも実践できる考えや行動についてお話します。業務上、今は採用業務に関わっていませんので、あくまでも私の個人的な考えです。

情報の信頼性を生む心理効果「ウィンザー効果」

情報の信頼性・信憑性は何でしょうか。一方的に発信するオウンドメディアやソーシャルメディアで、採用候補者が必要とする情報源として信頼性(真実味・共感)を得られるでしょうか。

企業側本位の一方的な情報発信では、採用候補者が満足・納得する情報にはなりません。その情報の信頼性・信憑性を高め、エビデンスを同時に提供する必要があります。そのエビデンスとなるのが、発信者以外による第三者による評価・口コミなどの言動です。

このように、第三者による評価や口コミが間接的に情報伝達されることによって、より信憑性・信頼感が増すという心理効果をウィンザー効果と呼びます。※新聞やテレビが報道する情報などは、その真偽はともかく信頼度が高い印象があるのはその効果によるものだと思います。

第三者の評価や口コミにより運営される「食べログ」が多くのユーザーに支持されているのも、SNSでのつぶやきがバズりやすいのも、このウィンザー効果によるものです。つまり、ユーザーは、発信者の一方的な情報ではなく、その情報を裏付けるエビデンスとしての口コミや評判に高い信頼感を寄せるのです。

▼ 参考:ウィンザー効果で信頼を掴もう|マーケティングや恋愛で大活躍

情報発信で意識すべき「PESOモデル」

広報やマーケティング担当の方には耳だこのような話で恐縮ですが、情報発信には「PESOモデル」の考えが大切です。

「PESOモデル」は情報発信メディアを、「ペイド(Paid Media(ペイド)」、「Earned Media(アーンド)」、「Shared Media(シェアド)」、「Owned Media(オウンド)」の4つに分ける考え方です。

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PESOモデル(by Gini Dietrich)
参考/http://spinsucks.com/communication/pr-pros-must-embrace-the-

Paid Media(ペイドメディア)
お金で買うことができる広告のことです。テレビやラジオ、新聞や雑誌などのマス広告、リスティング広告やバナー広告などのインターネット広告、採用でいえばリクナビネクストやエン転職、Indeedのように広告費をお支払いして掲載・運用するメディアを指します。

Owned Media(オウンドメディア)
自社のWebサイトやブログなどで情報発信をするメディアです。みなさんが普段運用しているコーポレートサイトや採用サイト、採用ブログなどもこれに該当します。コーポレート・採用ブランディングを目的としたオウンドメディアでは、「mercan」「サイボウズ式」「FEATUReS」「フルスイング」が有名ですよね。私もよく見ています。

Shared Media(シェアドメディア)
FacebookやTwitter、Instagram、Youtubeなどのソーシャルメディア(SNS)を指します。最近は企業アカウントによる情報発信よりも、企業担当の個人アカウントによる情報発信も盛んに行われていますね。

Earned Media(アーンドメディア)
ユーザーが情報の起点となるブログや口コミサイトなどのメディアを指します。「得る、受ける(earnd)」という意味があり、ユーザーからの信頼・評判を"受ける"という意味です。

転職口コミサイトでは、「楽天みん就」「キャリコネ」「openwork」「転職会議」「カイシャの評判」などがあります。

その他にも、SNS上に書き込まれた評判や口コミも概念的にはアーンドメディアに区分されます。

なお、こうした市場の声は社内へのフィードバックにも非常に有用ですので、定期的にモニタリングしています。今は、Meltwarterというモニタリング・反響分析ツールを利用しています。

大切なのは「採用候補者視点」を意識した採用広報

ペイドメディアやオウンドメディア、シェアドメディアは施策が明確なので多くの企業さまが力を入れてます。ですが、採用広報において最も市場の声や評価が反映されるのはアーンドメディアです。

アーンドメディアは、第三者の評価や口コミによるメディアですので、最もウィンザー効果による影響を受けやすいメディアです。こうしたメディアに寄せられた企業の評判や口コミが、企業ブランドに影響するわけです。

でも、評判口コミをコントロールすることはできません。企業イメージは、企業が発信する情報を受けて、市場や社会が判断するものですから。ですので、人事や広報は、採用広報における情報発信のみに力を入れるのではなく、採用候補者とのすべてのコミュニケーションにおいて最適な情報発信を心掛ける必要があります。そして、人事・広報担当者以外にも、面接などを担当するすべての社員の発言や行動も重要です。そうした一つひとつのコミュニケーションそのものが、発信した情報の真偽を裏付けるエビデンスとなるのです。

「採用サイトに若手が活躍できる会社って書いてあったけど本当?」「20代の役職者がいるっていうけど、実際はどうなの?」「風通しの良い社風って書いてあるけど、雰囲気わからない…」などの不安は、テキストだけでは届けられません。

人事担当者、面接官やリクルーターなどの社員とのダイレクトな対話機会によって、発信した情報が正しいものとして認識されます。

双方のコミュニケーションにギャップがなく、その情報の信頼性・信憑性が高まる状態が、採用広報において重要であると考えています。

採用候補者とのより良い関係性構築のために、人事・広報・社員の全員が実践すべき採用広報で大切な5つのことをお伝えします。

採用活動は情報を世の中に出した瞬間から始まる

採用活動は世の中に情報を発信(採用広報)した瞬間から始まります。そして同時に、採用活動初期の認知段階から選考が終了するまでの一連の流れにおいて採用広報活動は続きます。

持論ではありますが、広義のコーポレートコミュニケーションにおいて、採用広報も採用活動もそのすべてが含まれると考えています。

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こちらの図は即席で作った採用プロセスにおける人事担当者や採用候補者の実際のアクションです(図の内容が粗くて申し訳ない)。

人事担当者は、この全プロセスにおいて採用広報を意識したコミュニケーションが必要です。そのために実践すべきことをお伝えします。

①採用候補者に伝えるべき正しい情報をインプット

採用広報活動において、正しい情報をわかりやすく伝えることは非常に重要です。ただその前に、正しい情報をインプットすることがもっと重要です。

企業情報を正しく理解
募集原稿に書くその企業情報、常にアップデートしていますか?正しい数字を記載していますか?

企業活動が継続する中で、正しい企業情報を常にアップデートし続けることはとても大変です。ですが、アウトプットに必要な自社の情報を常に正しく把握する必要があります。

仕事内容を正しく理解
募集する事業や職種、またその仕事内容を正しく理解しましょう。なんとなくはダメです。人事や広報による理解では不完全ですので、事業部の担当者の方々に協力を仰ぎながら、しっかり丁寧にヒアリングして理解を深めていきましょう。

これは、採用広報における募集要項の作り方良い求人票の作り方といったブログなどにたくさんナレッジがありますので、そちらをご参照ください。

最低限の労働法は理解して、正しい労働条件を
採用ターゲットのペルソナや求める人物像、具体的な仕事内容やその魅力などは力を入れて作りますが、労働条件を正しく理解してアウトプットしている人が少ない印象です。

社労士や労務担当ではない限り、労働法(労働基準法や職業安定法、男女共同参画均等法など)は全て覚える必要はありませんが、募集原稿を作る上で最低限押さえておくべき労働法は覚えておくとよいでしょう。

正しい労働法の理解を怠り、誤解を招く恐れのある表記をすれば、時には炎上リスクが発生します。第三者から厳しい指摘を受けることもあります。企業ブランディングが棄損される恐れもありますので、労働法の理解は人事や採用広報担当者の義務だと思って、頑張って勉強しましょう。

それ以外にも、性別や国籍に関する表記は慎重に行いましょう。旅館の女将さんを募集しようと思って「女将募集!」と書いちゃダメです。女性限定表記になってしまうので。翻訳担当の採用のために「〇〇〇人や〇〇国出身の方歓迎」も、もちろんダメです。国籍や出生を採用要件に定めてはいけません。(これらは職業安定法などに定められています)

このように、まるで日本語のトラップのようなNG表現が多いので、気を付けて対応しましょう。

▼求人情報提供ガイドライン

②誰にでも理解できるように、わかりやすく情報を伝える

難しい専門用語を使いすぎていませんか?略語や社内用語使ってはいませんか?専門職かつハイレイヤーの採用をする場合は除きますが、採用候補者の経験や年齢は様々ですので、誰にでも理解できる情報を伝えることが大切です。

その会社のビジネスモデルや仕事の進め方、特定の職種の仕事内容など、前提知識がないと理解できない表現はなるべく控え、相手が中学生だと思って文章を作りましょう。その会社の担当者が当たり前だと思っていることが、読み手の当たり前とは限りません。先入観が抜けない場合は、自分以外の第三者に客観的に読んでもらってフィードバックを受けるようにしましょう。

訓練方法としては、異業界・異職種の募集要項をあえて読んでみてください。読み、理解するのに苦労するはずです。採用候補者も同じ思いのはずです。読み手への気持ちと思いやりを持った情報発信を心がけましょう。

③思考を放棄せず、読み手の気持ちになって考える

採用広報における情報のインプットとアウトプットは、日々の業務で行うには非常に大変です。採用広報だけが仕事でない場合は、通常の採用業務を行いながらですから、なおさらです。

文章を考えたり書いたりすることが得意と言えるほどの方でない限り、つい後回しにしたり、過去の文章をそのまま流用したり、その活動自体をやめてしまう場合もあるかもしれません。たった一文に魂を込めたところで、その効果や成果が見えないため、忙殺される業務の中で本気度が上がらないのも、気持ちはわかります。

ですが、採用候補者は書かれた募集要項を一つひとつ丁寧に読み込み、応募資格があるかどうか、提出書類をどのよに書くべきか、めちゃくちゃ真剣に考えるはずです。

採用広報の効果・成果は目には見えません。ですが、その情報は採用候補者に届き、その方の人生を左右するほどになる…そう思うと、とても重要ですよね。採用プロセスにおいてこの段階は応募検討フェーズなので、提供する募集要項の情報はなおさら重要です。

④採用にかかわる全員がエバンジェリスト

採用活動において、採用候補者と接点を持つのは人事・広報だけではありません。面接官やリクルーターなど、採用プロセスにおいて採用候補者と接点をもつ社員の存在が重要です。

応募前段階
情報のアウトプットの量と質によって採用広報の活動を行います。

選考中の採用担当者とのやりとり
メールや電話などの対応、返事のスピード感、適切な情報提供や不安の払拭、適切なスケジューリング…などなど、ストレスが無いようにスムーズなコミュニケーションが求められます。

就職や転職の口コミサイトなどを見ていても、採用選考中のこうした対応の不満というのは、企業イメージにも影響するようです。最適な対応を常に心がけましょう。

面接官とのやり取り
大企業や大量採用する企業では、面接官研修などが充実していて、面接スキルが高い方も多いでしょう。ですが、中小企業や面接初心者の方々は試行錯誤しながらの実践になるかと思います。

面接テクニックなどは随時磨いていただくとして、面接時の雰囲気や面接官の態度や受け答え、提供する情報や会話の内容などは採用広報上とても重要です。

企業ホームページや採用ホームページ、人事や広報からの情報発信以外で、はじめて現場で働く社員と話をする機会となります(人事が面接官である場合の除く)。採用候補者は今までインプットしてきた情報の真偽が証明される場にもなります。そのため、あらかじめ発信した情報と面接官が伝える情報に相違があってはなりません。面接官は常に企業情報や募集内容などの最新情報を正しく理解し、伝えることができるようにしなければいけません。

面接官が、採用広報におけるエバンジェリストだと考える理由はそこにあります。面接で適切な情報提供や企業の魅力付けを行うため、自分自身で情報を集め、適切に情報を提供する。まさしく広報活動なわけです。

社内の雰囲気
採用候補者は面接以外でも会社をよく見ています。社員同士の会話はあるのか、すれ違うときの社員の様子(挨拶など)、社内環境・美化、トイレやエレベーターでの会話の様子、など。

些細なことですが、社内に採用候補者をお見かけしたら、素敵な笑顔で挨拶することを習慣化しましょう。

▼参考:採用CX:Candidate Experience改善の"鍵"となる米国引用数字10選

採用プロセスにおける採用候補者の満足率と改善方法について、各プロセスごとに解説している神レベルのnote。

⑤応募体験を高める(Candidate Experience ※CX)

CX(候補者体験/Candidate Experience)をご存じでしょうか。この数年でよく聞くようになりましたね。

Customer Experience(顧客体験)の採用候補者バージョンのようなもので、求職者が企業を認知してから、実際に選考を終えるまでの、候補者と企業の各タッチポイントにおける体験のことを指します。

私の記憶上では、元祖はGoogleだった気がします。

▼参考:Googleが提唱する「Google re:Work)

世間がCXだ!と言うずっと前からもう、Googleはやっていました。さすがですよね。想像ですが、Google が掲げる 10 の事実の実現の中で、採用候補者に対しても有意義な応募体験を提供する必要性を感じたのではないかと思っています。Googleは応募体験を提供する理由と採用プロセスにおけるお約束を明言しています。さらには、応募者への事後アンケートを実施して、定量的に分析して振り返りをした上で採用プロセスや応募者体験の改善に生かしています。

他にも事例をご紹介します。

▼参考:「CX = Candidate Experience」を徹底解剖!今「候補者体験」が注目される理由

▼参考:CX(候補者体験)の向上が、組織の復活を後押し!グッドパッチの採用担当に聞いてみた

▼参考:面接官100名超の共通言語をつくる!「CX」の最大化を目指す、メルカリの取り組みとは

忘れてはならいのが、応募体験を高めることで長期的に応援される会社へ

①採用候補者に伝えるべき正しい情報のインプット
②誰にでも理解できるように情報を伝える
③思考を放棄せず、読み手の気持ちになって考える
④採用にかかわる全員がエバンジェリスト
⑤応募体験を高める

これらを日々の採用活動で意識し、その効果測定をCXとして検証する。定性・定量によるアンケートで採用候補者の体験を正しく理解しましょう。そして、必要に応じて採用プロセスの改善や面接官など採用協力者へのフィードバックを行い、常に改善を続ける。

これらを繰り返し行うことで、採用プロセスは劇的に進化するはずです。なにより、応募体験を高めることによって、採用・不採用問わず、採用候補者が長期にわたって企業のファンになります。(応募していただいている時点でファン化していますが、より深く・長くなります)

※補足
応募体験の施策やアンケートに関しては、採用の規模やフェーズ、採用組織のリソース、採用課題などにより、必要・不要かは企業によると思うので、絶対的に施策として必要と思っているわけではありません。


最後に:応募体験は企業イメージに関わる。毎日の採用活動が採用広報

冒頭に、情報の信頼性・信憑性は、ウィンザー効果によって、第三者からの間接的な評判が影響するとお伝えしました。さらに、採用候補者が情報収集する多様なメディアの中で、口コミサイトなどのアーンドメディアが重要になりつつあるともお伝えしました。

採用活動における応募体験は、最終的にはアーンドメディアにフィードバックされます。採用活動は、選考が終了したら終わりではありません。選考終了後、その応募体験が社会や市場にフィードバックされ、そこからまた新たな採用広報がはじまり、このサイクルが永遠と繰り返し続きます。

忘れてはならないのが、こうした採用広報による企業イメージは、1年・2年でできあがるものではありません。過去、ずっとその会社の採用や広報活動、企業活動や事業活動をしてきた社員一人ひとりの成果の賜物です。過去から受け継いだものなんです。

過去から今へ、そして未来へ。一人ひとりの行動が、企業イメージをつくる。そう意識すると、不思議と身が引き締まる思いになりますね。

採用候補者との良好な関係性構築はすぐには実現できないかもしれません。ですが、採用に関わる一人ひとりがその重要性を強く認識し、会社の魅力を伝えるエバンジェリストとしての自覚を持ち、採用候補者と丁寧に向き合い続けることが大切です。

まずは、明日からの1日を大切に。

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