「標的」 真山仁

知らずに読んだのだけど、これは富永検事シリーズというシリーズものらしい。どうも「売国」というのが一巻目でそれを読んでから読むべきだったな。

富永は東京地検特捜部特殊・直告班の検事。ある時、特捜部に越村厚生労働大臣が自分の法案を通すために政界に金をばらまいている(贈賄)との密告があった。越村大臣はまだ40代にして次期総裁候補、高齢者福祉に力を入れる清廉潔白が売りの女性政治家で、日本初の女性総理と期待されている人物。汚いところがなく、世間の評判もいい。当然政界には妬み、嫉みも多い。まもなく任期満了の黛総理大臣は自分が操ることのできる人物として若い越村を後継にと考えている。(まあ、ちょっと前の安倍と稲田みたいな関係か。)しかし、そもそも誰がなんのために検察に密告したのかというと、総理自身で、越村が自分に逆らえないようにお灸をすえる目的だったというのだから、政治家らしい胡散臭い話。でも総理は上下関係を身に覚えさせたいだけで本気でつぶそうとしていたわけではない。
(現実の政界捜査案件もこの手の同業者からの密告ではじまる場合が多いのだろうと想像される。今話題になっている広島地検の河井夫妻の公職選挙法違反事件も落選した陣営が復讐で告発したと言われているし、決して正義の告発とは誰も思ってない。)

特捜部は越村大臣を逮捕、起訴できるのか。密告はあっても決定的証拠が足らないところ、富永検事は税務署と組んだりマスコミがネタを持ってきたり、更には・・
話は特捜部目線、マスコミ目線、政治家目線のストーリーが独立で始まり、交錯し、それらが最後につながっていく。


以下多少ネタバレあります。

越村に金銭援助をしていたのは彼女が大臣として力を入れていた、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)改革の賛同者であり、協力者でもある楽田(投資家)という人物。彼らの主張は、既得権益の連中によってサ高住は金儲けに利用されていて、本来目的の老人の福祉がおろそかになっている、というもの。だから法案で改革して彼らを追い出し、真に老人のためを思う業者にまかせようというもの。そのためには反対派議員をだまらせる金が必要。そして自分の政策を実行したかったら権力も必要、総理にならなければならない。それは世の中のためなのだ、というところか。うん、一理ありそう、特捜部も世の中のために見逃せよ。楽田の方は自分が業務を独占して金儲けをしたかっただけということかな。

現実の政治家の中にも高い理想を持って世の中のために何かをなし得たい、と純粋に考えている人もいると思う。そういう人らが犯罪などせずに政策実現できるようでないといけない。でもそんな当たり前のことが非現実的な空想論になってしまってないか。今の自民党はどうだろうか、河井夫妻の件を見てもやはり味方を得るには金か。野党?話にならないね。やっぱりこの小説は現実なのだろう。

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