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人生においてしなければならないことなど、何もない

青年と紳士の授業の最終回。紳士は、自分自身のスタート地点に立つために必要なことを、青年に残します。しかし、その話は青年にとって思いがけないものでした。本当のエリートに必要なものは何か、青年はこれからどうすべきなのか、そして紳士はなぜ青年に話をしたのか。5年前に刊行され「今こそ読むべき!」と話題の書籍を特別に無料で公開。事業家・思想家の山口揚平さんが、新しい時代の新しい成功ルールを紹介します。

人生においてしなければならないことなど、何もない

「君は今、何をやればいいのかわからない、何を勉強すべきか、どうすればいいのかわからないと、悩んでいるかもしれない。しかし、『人生においてしなければならないことなど何もない』のだよ。
 何をしたらいいのかわからなければ、何もしなければよい」

「それでも何かしなければ、と動き出してしまうのは君達が恐怖に立ち向かう勇気をまだ持っていないからだ。
 私は君のその状態を否定しない。ただ、君は、自分のステージを理解しておくことだ。自己を俯瞰し、自分の感情、自己の本質に目を向けるということだ」

「大事なことだから、繰り返す。『この世の中に、君の人生に、しなければならないことなど何1つない』。君は、その存在そのものが価値あるものである。それを認めるしか人生の本当のスタート地点に立つすべはない。
 外の世界で死ぬほど頑張って何億稼いだとしても、この真実、自分の本質的価値に気づかなければ、君は死ぬまで走り続けることになるだろう。内なるバイアス(偏見、他者嫌悪)を癒せなければ心の平安は得られないだろう。だからこそ青春の本質は自己肯定の内外の旅だと私は言いたいのだ」

「しなければならないことがない……ってのは、ショックが大きいですね。まだ飲み込むのに時間がかかるな……」「もちろん、時間はかかってもいいんだよ」

本当のエリートとは?

「さらに君は自分の将来の不安ばかり考えているが、それはダメだ。ノブレス・オブリージュという言葉がある」
「ノブレス・オブリージュ……」
「高貴なるものの義務という意味だ。真のエリートは、公共に殉ずるものだ。結婚式を挙げた君の友人の姿じゃない。君はエリートになるべきだ」
「僕がエリートに!?」

エリートというのは、学歴でも出自でも所得でもない。エリートは自己が満たされているが故に公共への忠誠を尽くす魂を持つ者のことだ。ヨーロッパの貴族は戦争が始まると将校として前線で真っ先に命を落とす。だが、日本の軍部は中枢が生き残り、特攻を美化して責任の所在をそらした。それは大きな違いだ。日本には今、エリート教育は存在しない。ノブレス・オブリージュを養うのには時間がかかる。今からすぐ始めなければならない。我が国の未来は中央政府にも、団塊世代にもない。君達の勇気にかかっている。君の成功を心から応援する」
「はい、ありがとうございます」

「さて君への授業は今日で終了だ。これまで私の話に付き合ってくれてありがとう」
「え!?」
「大学のキャンパスがゴールなんて、我ながらシャレてるな」
「まだ、お伺いしたいことはたくさんあるように思います」
「君に伝えるべきことはすべて伝えたからね。逆に、君に教えられたこともたくさんあった。礼を言うよ」
「まだ僕は、何もなしとげてはいないです。何も変わっていないですよ」
「変わろうとしている」
「それはあなたのおかげです」
「“変わろう”と意識を持った時、すでに人は変わっているものさ」

「どこかへ行かれるのですか?」
「あぁ、そうだ」
「お仕事ですか?」
「そんなところだ」

「あの……」
「なんだね?」
「あなたと初めて結婚式場で出会った時」
「あぁ。そうだったね」
「あなたは“婚活パーティーに出るため”とおっしゃっていましたよね」
「そうだ」
「でも、それは嘘ですよね」
「ほぉ、なぜそう思うのかね?」
「左手の薬指です。長い間結婚指輪をしていると、指輪の跡が少しつくんです」
「よくそんなことを知っているね」
「僕の父がそうでした。仕事の時だけ外すんです。いちいちつけ外しが面倒だから、外したままでいいじゃないかと僕が言ったことがあるんですが、父は『かあちゃんがうるせぇから』と言ってずっとつけてたんです」
「なるほど」
「それに、あなたのハンカチです」
「ハンカチ?」
「はい。あなたの身につけているモノはとても品のよい高価なものばかり、ファッションに詳しい僕なら知っているブランドです。だけどハンカチだけは、あまり見かけないブランドだった。気になって調べてみたのですが、そのハンカチのブランドは、赤ちゃん用品を製造している小さなメーカーでした。吸水性があり、肌に優しい天然の素材を使っていて、大人の、しかも女性に人気だと。あまりメンズのものはないんです。きっと、女性が用意したものだろうと思いました。
 男って、案外ハンカチとか、なんでもいいやって思っちゃうんですけど、女性は肌に触れるものにすごく気を使いますからね。しかも、そういう気配りができる人は、恋人ではない。もっと長い間パートナーを組んだ人だと思ったんです」
「お見事」
「そして何より、あの結婚式場に問い合わせたんです。あの日、婚活パーティーが行なわれたかどうかを……」
「そうか……」
「あなたの推理に感化されて、僕なりに勉強をしたんです」

「それも素晴らしいことだが、君の視点が素晴らしいよ」
「視点ですか?」
「推理力、洞察力、いずれも大切なことだ。しかしね、この世界で一番大事なことは、結局“愛”を知ることだ」
「愛……」

「大学、仕事、会社、日本、世界、勉強、お金、様々なことの考え方、方法論を君に説いてきた。しかしそれらの知識をいくら持ったって、愛のない人間が使ったら、この世界で幸せにはならない。すべては愛から始めなければならない。君の心にはいつも愛があった。他者に対する優しいまなざしがある。それを持って、この世界を、そして君の人生をより豊かで幸せなものにしてくれたら私は嬉しい」
「はい!」

「君に最後の質問だ」
「はい」
「君の夢はなんだね?」
「僕の夢ですか……」
「そうだ」
「正直、あなたに会うまでは、恥ずかしくて誰にも言えなかったんですけど……でも今なら、胸を張って言えます」
「それはなぜかね?」
「今の僕なら、実現できる気がするからです。あなたの教えを元に、プランを制作したので」
「素晴らしい」
「僕の夢は……」

「あぁ、大変申し訳ない」
「え?」
「時間が来てしまったようだ……」
「や、でも……」
「君の夢の話はまた今度じっくり聞かせてもらうよ」
「今度とは、いつになりますか?」
「そうだなぁ……、少し待たなければならないだろう。だが、必ず君と私は再会するよ。君の夢が実現すればね

 紳士は私の目の前から消えた。
 まるで、テレビのリモコンを押して映像が消えるように、フッと僕の目の前から消えた。
 そこですべてを理解した。僕の夢の話、聞くまでもなくわかっていたのだ。だって彼は、SF好きの夢見がちの僕なのだから……。

 僕は家に帰る。ノートに殴り書きしたプラン「いつかタイムマシンを作る」ためのプランを眺め、さっそく第一歩を踏み出した。

 愛と夢と少しばかりのお金を手にして。

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