見出し画像

漂流

中退した。

二年次まで在籍していた大学は、海の近くにあった。
それまで、海とは縁遠い人生だったので、大学に入って初めて海というものを身近に感じながら学生生活を送った。

学んだことは二つ。
海の匂いが苦手だと言うこと、湿気が生活の支障になるということ。

アルバイトは海沿いのコンビニ。
目つきの悪い女オーナーが営んでいる、タバコ臭いコンビニだった。田舎だったため、客は常連客ばかり。
夜中になると、街唯一の光に惑わされた酔っ払い達が集まってくる。トラブルは日常茶飯事だった。

私はオーナーが好きではなかった。全てをコントロールしたがる人だったため、会話は常に主観的で過干渉。
13ヶ月と21日で嫌になって辞めた。


私は特にやることもないまま大学を辞めることにした。
こんな私でも付き合いの良い友達が二人おり、私と会えなくなることを悲しんでくれた。

一人は私のために夕飯を作り、ご馳走してくれた。彼女は私の好物の餃子とオムライスを作り、ケチャップで"大好き"の文字を書いてくれた。

もう一人とは、とにかく遊んだ。いろいろな店に行き、色とりどりの服や靴、鞄などを見た。帰り際、若竹色の綺麗な石がついたペンダントをプレゼントしてくれた。

二人とも、私の今後については聞いてこなかった。

退学届を出した朝、朝日が眩しかった。
流れる雲と静かな波をみて、私は海が嫌いになった。





次に住んだ場所は城下町。心なしか、人が暖かく感じた。
誰とも深く関わらず、当たり障りない関係の人が増えた。
みんな勤勉で、人に迷惑をかけることを悪としているようだった。

白いワイシャツに赤いリボン、紺色のプリーツスカートを履いた背の低い高校生と仲良くなった。
彼女は近所の高校に通う二年生で、バスケットボール部に所属しているらしい。出会いのきっかけは、彼女が公園で一人で泣いているところに、私が声をかけたことだった。
私は、「大丈夫か」と尋ねた。なぜ泣いているのかは聞かなかった。

買い物帰りだった私は、ついさっき買ったチョコレートを手渡して、「お腹が痛い時はチョコレートを食べるといいらしい」と伝えた。
彼女は初め、私を強く拒絶している様子だったが、私の提案を聞いて「そう、お腹が痛かったの」とチョコレートを受け取った。

それ以降、彼女と出会った火曜日の午後6時半にあの公園で会うようになった。初めの頃こそ、心が沈んで表情が暗かった彼女だが、最近はめっきり明るくなった。学校が楽しいらしい。どうやら悩みの種は部活動だったらしいが、最近その悩みも解決したとのことだ。

冬が近づき、日が短くなり、彼女と出会って3ヶ月、別れを告げた。


それから数年…
現在、私は派遣アルバイトで最低限の生活を維持している。目新しい出会いはない。印象的な別れもない。

私の目に映る人々はいつも生き生きしている。
笑顔に明るい声、足取りは軽く、歩調は早い。

みんな、何を目的に生きているのだろう。
誰のために生きているのだろう。

私は何を目指して生きていくのだろう。
次に出会うのはどんな人なのだろう。
誰のために何をするのだろう。



できることなら、誰かに必要とされる人になりたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?