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#021 『まだ、君のために身を危険にさらしておくことにしよう』|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

'Smart guy,' George drawled, also smiling. 'It's not your philosophy of life I'm after, but a straight, practical "yes" or "no". Are you going to leave politics alone?'
Makhaya looked at him with a pained expression. 'No, I won't,' he said. 'I may have run myself into a dead end. I may be sick of everything, but the day I fix myself up, I'll do whatever I think is the right thing to do.'
George Appleby-Smith looked at him for some time. 'I'll still stick my neck out for you,' he said, quietly.
He half-turned to go, then remembered something. 'Report your presence in this village to Chief Matenge tomorrow morning at eight. He's responsible for the comings and goings of people and has to know, for the record, whether you intend staying here. '
He walked to his Land Rover, climbed in, and drove off. Makhaya remained where he was some minutes longer. If there was anything he liked on earth, it was human generosity. It made life seem whole and sane to him. It kept the world from shattering into tiny fragments. Only a few, quietly spoken words: 'I'll stick my neck out for you.'
When Rain Clouds Gather (1968)
「賢いね」ジョージも笑ってゆっくり言った。「君の人生哲学には共感しないがね。単純な『イエス』か『ノー』だけだ。政治に手を出さないでいるか」
マカヤは、苦々しい表情で彼を見た。「ええ、手は出しません」と彼は、「僕は自分で自分を追い込んでしまったかもしれない。何もかもにうんざりしているのかもしれない。でも、いつか自分を取り戻したら、そのときは自分が正しいと信じることをするでしょう」
ジョージ・アップルビー=スミスはしばらくの間マカヤを見つめていた。そして「まだ、君のために身を危険にさらしておくことにしよう」と静かに言った。
ジョージは去りかけて、何かを思い出した。「明日の朝八時に、チーフ・マテンゲのところに、村での所在を報告してくれ。彼は、村での出入監督として責任があるんだ。君がここに留まるつもりかどうか知る必要がある」
そう言うと、ランドローバーまで歩いていき、乗り込んで走り去った。しばらくのあいだマカヤはその場にとどまっていた。もし、この地球上に好きなものがあるのだとしたら、それは人間の寛容さだ。寛容さがマカヤの人生を完全で正気なものにさせてくれるのだ。そのお陰で、世界は細かい破片のように砕け散らずにいるのだ。その、短く静かな一言だけが。『まだ、君のために身を危険にさらしておくことにしよう』

ボツワナに亡命して農村で暮らし始めた南アフリカのジャーナリストの青年マカヤと、植民地警察官の青年ジョージとの会話。
伝統的な王族(首長)から疎まれ、村から追放されようとしているマカヤに対し、それを防ぐために手を回すことにしたジョージ。

内心複雑な気持ちを抱えているジョージもまた、マカヤと同じようにアフリカの独立の波にのまれそうな一人なのだろう。
外国人の青年同士、ボツワナの村との付き合いは複雑で、1960年代ボツワナ独立前後の激動の時代における心理的な葛藤が些細なシーンで描かれ心に刺さる。

それでも、アパルトヘイトの中で政治に関わり、人の生死や悪を目の当たりにし、部族主義に翻弄され国を出てきたマカヤの内面の闇に対し、皮肉で油断のならない警察官ジョージが見せた、優しさともつかない小さな寛容さが、どこかマカヤを救っている。これが、行き場のない彼にとってどれほどの意味を持つか。最後のひとことだけで、それを表現しているからこそ、小説というのは本当に面白い。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照

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