見出し画像

エディンバラ市庁舎の小さな結婚式

二十数年前、ご縁があってとても印象的な結婚式に参列した。
英国はスコットランド、エディンバラ大学のアフリカ研究センターで修士課程に在籍していたときだ。

結婚する二人は台湾のひとで、二人ともわたしの知らないひとだった。
参列することになったのは、知り合いの日本人男性に声をかけてもらったからだ。

欧米では、大切な場や公式のイベントにカップル単位で参加するのが通例だが、彼のパートナーは都合が悪かったか何かで、代わりに来てくれないかとわたしに声をかけてくれた。
新しいことや面白い経験ができるとなると俄然テンションが上がるわたしは、喜んでお引き受けした。

結婚式の場所は、エディンバラの旧市街にある市庁舎(Edinbrugh City Chambers)。
古い石造りの歴史ある建物は趣があり、観光客も訪れる。

エディンバラという街は、旧市街と新市街に分かれているが、新市街といえども街並みは昔からの味わい深いグレーの石造りである。

旧市街は小高い丘の上に要塞のようなエディンバラ城があり、まるで中世から時が止まったような街の中心をなだらかに下っていく目抜き通りはロイヤルマイルと呼ばれ、お城のような雰囲気のホリルード宮殿へと続いている。

この趣ある街はどこを切り取っても美しく、まるでハリーポッターの世界のようだ。
わたしが住んでいた大学の学生寮も、ロイヤルマイルの城近くにある17世紀の趣ある建物で、内部はモダンに改装されているものの、昔の壁や建物の作りがそのまま残され、歴史に思いを馳せたり冒険心をくすぐられたりの面白い場所だった。

そんな素敵な街の旧市街にあるエディンバラ市庁舎で、その結婚式は執り行われた。

市庁舎も美しく歴史ある建物で(というか歴史ある建物しかない)、ウェディングはもちろん、厳かな雰囲気の中でパーティ会場やケータリングの会食にも使われている。日本ではちょっと考えられない。

当の台湾人カップルはともにエディンバラに留学しており、帰国してからも結婚式を挙げるつもりだが、エディンバラでも挙げたかったそうだ。これだけ素敵な街と建物なのだもの。とくに結婚式ファンではないわたしでも少し憧れてしまう。

ウェディングセレモニーは、小さな部屋で行われる。
シンプルだが落ち着いた雰囲気のある美しい部屋にささやかなお花が飾られているだけ。
宗教ではなく市庁舎による人前式なので、正面には小さな司会者台が置かれている。

会場を左右にわけるように椅子が並んでいるが、招待客は知り合いの日本人男性とわたし、そしてインド系のカップルだけだった。

結婚式という人生の一大事の大切な場に、しかもごく少数の選ばれた人しか参加していないのに、初対面のわたしがいきなり参加してもよいものなのか。
と、少し怖気づいたが、カップルはとても温かく迎え入れてくれた。

シンプルだが、心のこもったお式が市庁舎の方々によって進められ、二人による誓いの言葉が読み上げられる。
慣れない結婚式独特の英語表現に少し緊張しながらも、カップルはめでたくお式を挙げ、わたしの心も温まった。

当時24歳だったわたしは、ほとんど結婚式に参加したことがなかったが、それは日本でウェディングと言われて連想するようなものとはずいぶん違っていた。

新郎新婦も、タキシードとドレスではなく、シンプルだけどきれいな服装。
参列者も、きれいな格好をしているけれど、ドレスではない。

わたしも、パーティ用のドレスなど持っていないので、手持ちの服の中でドレッシーに見えるものを選び、きれいなストールやアクセサリでドレスアップした。

なんてシンプルでいいんだろう。

日本のデパートでは、ウエディングゲスト用のドレスなどが売られ、こういう格好をせねばならないというルールで縛られがちな印象だけれど、実際晴れやかな日をお祝いする気持ちがあれば、服装などかたく考える必要なんてないのだ。

この自由さ、なんと素敵なのだろう。

セレモニーにはコレ!とルールや「マナー」で固く考えがちな日本だけれど、本来それは重要ではないはずなんだよな。このときからわたしは、色んなことを型に捉われず自由に考えられるようになった気がしている。

ささやかなウェディングが終わると、にこやかなカップルと招待客、それに何人かの近しい人たちが加わってひとつのテーブルを囲んでの小さな食事会が開催された。

ちょうど、大学院のエッセイ(小論文)の締め切りが迫っていたわたしは、早々に退席をしてしまったけれど、素敵なお式に呼んでいただいたあの日の記憶は、今でも心にほっこりと残っている。

Edinburgh City Chambers

エッセイ100本プロジェクト(2023年9月start)
【28/100本】

言葉と文章が心に響いたら、サポートいただけるとうれしいです。