見出し画像

#024 『女たちが劣っているふりをしている限り物事は順調に進むのだった』|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

They all had permanent lovers or husbands while Paulina Sebeso had none, and even a tradition was forming about her. A few men had said she was too bossy. Then they all said, overlooking the fact that they were wilting, effeminate shadow of men who really feared women.
Things went along smoothly long as all the women pretended to be inferior to this spineless species. The women had been lying to themselves for so long in their sexual frustration that they would not admit the real reason why Paulina dominated them all was because she was the kind of woman who could not lie to men. They followed the leadership of Paulina because she was so daring and different. It would have upset their world to have Paulina find a man she could get along with. They were determined to keep her trapped in a frustration far greater than their own.

When Rain Clouds Gather, 1968

ポリーナ・セベソは一人身だったが、彼女たちにはいずれも決まった恋人か夫がいて、ポリーナに関しては伝説まで出来上がっていた。何人かの男性は、彼女があまりにも威張りくさっていると言った。すると男たちは皆、女性を恐れて頼りなく弱い影のような自分たちを棚に上げ、ポリーナを悪く言うようになった。女たちが皆、この卑屈な種族に劣っているふりをしている限り、物事は順調に進むのだった。
女たちは長い間、性差のフラストレーションの中で自分たちに嘘をついてきた。ポリーナが自分たちを仕切る本当の理由は、彼女が男に嘘をつかない女だったからだと認めたくなかったのだ。皆がポリーナのリーダーシップに従ったのは、彼女があまりに大胆で人と違うからだ。もし、ポリーナが一緒にいられる男を見つけてしまったら、自分たちの世界を揺るがすことになるのだ。だから、自分たちよりもはるかに大きなフラストレーションの中に、彼女を閉じ込めておこうとしていた。

再び、1968年When Rain Clouds Gather『雨雲のあつまるとき』の一節。若き未亡人のポリーナは、村に来てまだ1年半でシングルマザー。人一倍気が強くリーダーシップを握るタイプの強い女性だ。保守的な村の女性たちは、そんな彼女を妬んでいる様子が見て取れる。村の生活の中で男を立てることで生活を保ってきた彼女たちにとって、嘘をつかないストレートで強気なポリーナは、疎ましくも妬ましくもある存在なのだろう。
そして男たちにとっても、ポリーナのような強いタイプは脅威でもあった。彼女を恐れるあまり、彼女を悪く言う弱い男たちが描かれている。

これは、1960年代南アフリカでジャーナリストをしていた教養の豊かなベッシー・ヘッドというシングルマザーが、保守的な村に亡命してきたときの様子なのではないのかなと、わたしはいつも思う。この物語は、まさにベッシーと同じく南アフリカから亡命してきた元ジャーナリストの青年が主人公ではあるのだが、こうして所々にベッシー自身が村で感じてきたことが、登場人物に投影されているように感じる。
歪んだ妬みに悪い噂を立てられるなど、ベッシー自身も村に馴染むことは難しかった。それもあり、村の外国人ボランティアや移住してきた外国人などとの付き合いの方が多かったのかもしれない。(言葉の問題もあっただろう。ベッシーは亡くなるまで22年間ボツワナにいたがツワナ語を話せなかった)

女が抑圧された農村の生活の中で、自分たちのフラストレーションを外からやってきた「持てる者」に対してぶつける。
この構図は、いつでもどの時代でも、存在するものなのかもしれない。
こんなにあっさりと書いている段落の中で、何年にもわたる苦しい思いが見て取れる。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照

メインブログ『あふりかくじらの自由時間』


言葉と文章が心に響いたら、サポートいただけるとうれしいです。