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#017 いつも自分の心と誰かの心を結びつけた深い愛の中に輝く黄金を見つけるのだった|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

So the day passed pleasantly enough with chatter and work and at sunset the women were once more taken back to the cell for lock-up time. They continued to talk a while longer. Just as they were about to retire for the night, Dikeledi nodded to her new-found friend, Kebonye:
'Thank you for all your kindness to me,' she said, softly.
'We must help each other,' Kebonye replied, with her amused, cynical smile. 'This is a terrible world. There is only misery here.'
And so the woman Dikeledi began phase three of a life that had been ashen in its loneliness and unhappiness. And yet she had always found gold amidst the ash, deep loves that had joined her heart to the hearts of others. She smiled tenderly at Kebonye because she knew already that she had found another such love. She was the collector of such treasures.
The Collector of Treasures 『宝を集めるひと』(1977)

その日は、おしゃべりと作業とで楽しく1日が過ぎていき、日が暮れると女性たちは刑務所の独房に戻され監禁時間となった。彼女たちはまだおしゃべりを続けていた。夜になって休むころ、ディケレディは新しい友人となったケボニェに頷いた。
「親切にしてくれて、ありがとう」彼女は優しく言った。
「私たちは助け合わなきゃ」ケボニェは、おかしそうに皮肉な笑みを浮かべて答えた。「この世は酷いところよ。ここには不幸しかない」
こうしてディケレディという女性は、孤独と不幸の中で灰と化していた人生の第三章を始めることになった。
それでも、灰の中にあったとしても、ディケレディはいつも自分の心と誰かの心を結びつける深い愛の中に、輝く黄金を見つけるのだった。ケボニェに優しく微笑んだのは、そんな愛を見つけたことをもう知っていたからだ。彼女は、宝物を集めるひとだった。

短編集"The Collector of Treasures"より、表題作。
この物語は、ボツワナの農村で小さい頃に両親を亡くし、虐げられて育ったディケレディという心の美しい女性の話だ。ディケレディは、若くして半強制的に結婚をさせられることとなり家を出るが、夫は酒を飲み「女遊び」をし、家にお金を入れず嫉妬深いという典型的なDV男だった。
そんな中、裁縫の技術を身につけ何とかお金を稼ぎ3人の子供を育てるディケレディであったが、ある時、この夫を殺してしまう。
この一節は物語の冒頭、ディケレディが刑務所に連れられていき、最初の1日を過ごすシーンである。心優しいディケレディは同じ囚人のケボニェや他の女性たちと出会うが、彼女たちもまた夫を殺した罪で受刑しているのである。

『宝を集めるひと』の宝とは、農村で虐げられている暮らし(かならずしもそれは女性とは限らない)の中で、美しいものをたくさん知っているのだというディケレディの心の中を語っている。

この作品は本当に魔法のように美しく、しかし描いているモチーフは非常に悲劇的で読んでいて涙が止まらなくなるくらい。
この短い物語で、これだけのものを美しく彩り、詰め込むことのできる作家ベッシー・ヘッドというひとは、恐ろしい力量のある本当に優れた作家である。

この短編は、今わたしが翻訳出版をしたいと考えている長編よりもずいぶん後に書かれたもの。この短編も、どこかで訳したいと思っている。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照

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