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#018 もし、あなたが同時に神と悪魔の両方を兼ねていたら、どうする|ベッシー・ヘッドの言葉|Novel

'Tom,' she persisted. 'What would you do if you were both God and Satan at the same time?'
He took this question equally seriously, and bent his head for a moment in deep thought. Then he said:
'I hope I'd have the courage to admit it to myself.'
'You wouldn't want anyone else to know?' she asked anxiously. 'You'd want it to be a secret?'
'Yes,' he said. 'Because it's such a terrible idea.'
'But it's possible, isn't it?' she persisted. 'The dividing line between good and evil is very narrow.'
'Yes,' he said, quietly. Then he turned and looked at her with an expression of deep affection. He was a very outpouring sort of person. He sensed the inward, reeling confusion in her.

"A Question of Power" (1974)
「トム」と彼女は続けた。「もし、あなたが同時に神と悪魔の両方を兼ねていたら、どうすると思う?」
彼はこの質問を真剣に受け止め、しばらくの間、頭を下げて深く考えていた。そして、言った。
「自分で認める勇気があればいいんだけれど」
「他の人に知られたくないでしょう?」と彼女は心配そうに尋ねた。「そのことを秘密にしておきたい?」
「そうだね」と彼は言った。「だって、こんなひどい話はないよ」
「でも、ありうることよ」と彼女は粘った。「善と悪の境界線はほんの紙一重なの」。
「うん」と彼は静かに言った。そして、振り返り、深い愛情を浮かべた表情で彼女を見た。彼は感情を表に出すタイプの人間だった。彼女の内面に存在する混乱を感じ取っていた。

作家ベッシー・ヘッドが発表した3部作と言われている自伝的長編小説の3本目A Question of Power「力の問題」より。

この作品は、もっともベッシー・ヘッド本人に近い設定であり、幼少期の南アフリカでの違法な出生からボツワナに亡命し、やがて精神を病んでいく過程まで詳細に描いた作品である。
ベッシーは、今でいう統合失調症とされ、「幻影」を見続け苦しむことになる。この作品は、そんな彼女の経験の詳細な記録でもあり、文章や展開が非常に難解な部分が多く、解釈が無限にできそうなくらい。話題を呼んだ「問題作」であり、評価が大きく分かれる。

フィクションとはいえ、神や悪魔が現れ彼女の精神を蝕んでいった過程は、彼女にとってはリアリティだ。この作品は、作家ベッシー・ヘッドというひとの真骨頂でもあるのではないかと思われる。この一節だけでも、そのエネルギーを感じて欲しい。

実はこの作品は1990年代に日本語訳が出されているが、このように難解なものを日本語にしたその訳者の力量はすごいと思う。(知らない方ですが)

ただ、この作品は読み返せばその度に表情を変える作品だ。翻訳で示したものは一例に過ぎないのかもしれない。読者がいれば読者の数だけ解釈があるだろう。

それくらい、深い作品だ。

作家ベッシー・ヘッドについてはこちらのマガジンをご参照

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