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キコ・コスタディノフがデザインを変貌させたことに関する推測

*このテキストはサービス「AFFECTUS subscription」と「AFFECTUS letters」加入メンバー限定ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年8月13日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

無料公開期間:2019年9月16日(月)まで

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これまで何度か書いてきたキコ・コスタディノフを、再び書こうと思った理由は先日のある出会いがきっかけだった。

ある方の紹介で、これからブランドをスタートさせて起業しようとする若者と会ったのだが、彼と服のデザインについて4時間ほど話すという久しぶりの長時間に及ぶファッション会話を体験する。会話の中でキコ・コスタディノフが話題になり、キコの影響力の大きさを改めて考えさせられた。

現在のキコ・コスタディノフはデビュー当初のデザインから明らかな変化を遂げ、変化の振り幅に正直私は驚いている。「はたしてこれは売れるのだろうか……」と一抹の不安を覚えるほどに。この不安も、私がキコを再び書きたい(考えたい)と思うようになった動機だ。キコ・コスタディノフはセント・マーティンズ在学中にステューシーのリメイクアイテムで一躍名を馳せ、泥臭く野暮ったいはずのワークウェアをモードなカッティングによってクールなファッション性を帯びさせ、若くしてスターデザイナーになった人物である。

だが、ショーデビューから5シーズン目となる2019SSコレクションになるとワークウェア色が薄くなり、それまでとは異なるインスピレーションを得て創作したかのような未知で不可思議なデザインを披露するようになる。そのことはキコ自身も言及している。

「多くの人が僕のデザインのベースにワークウェアがあると言うけど、きっと3年前の卒業コレクションを見てのことだと思う。実際に最近のコレクションではワークスタイルというのはあまり出していないと思うし、さっき言ったように、毎シーズンで新しいストーリーを考えるわけだから。6カ月という時間で多くのことは変わっていくから、その間にたくさんの経験、対話、議論をすることで変化していくことが大切だと思っている」
VOGUE「スニーカーは即完売。気鋭デザイナー、キコ・コスタディノフの実力。」より

ワークウェアから離れていく傾向は2019SS以降のシーズンでも継続され、7回目のショーとなる2020SSコレクションではキコ流アヴァンギャルドスタイルの完成形に到達したと言ってもいいほどに、以前のワークウェアスタイルの面影は消失している。

なぜ、このようにキコはデザインを変貌させたのか。とりわけデザインを変貌させてきた2019SS・2019AW・2020AWシーズンの3コレクションを詳細に観察しながら、キコがデザインを大幅に変化させた理由を勝手ながらに推測していきたいと思うが、今回はデザインだけでなく、キコがインタビューの中で述べてきた言葉もピックアップし、彼がデザインを変貌させた理由を考えていきたい。

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