記憶を掛け合わせるマサオシミズ

 古着を解体し、その素材を組み合わせながら「新しい服」を作る清水真生の「マサオシミズ(masao shimizu)」。この服作りのアプローチを聞いたとき、マルタン・マルジェラの名を浮かべる人もいるだろう。

 しかし、マサオシミズはマルジェラのように僕らを異世界へは連れていかない。僕らを突き放すのではなく、僕らの日常に彩りを添えるカジュアルウェアを作る。

 マサオシミズは先端的なモードな香りがする服ではないが、ただのシンプルなカジュアルウェアでもない。マサオシミズにはギミックがある。2019AWコレクションから、そのギミックを見ていこう。

 僕らがこれまで何度も見たことがあり、数え切れないくらい着てきたであろうデニムやシャツ、ニットといったベーシックアイテム。そのアイテムをベースにデザインされた服は、手を伸ばしやすく着やすいように思える。けれど、伸ばした手を寸前で止めてしまう仕掛けがそこには潜む。

 左身頃から見るとシンプルなクルーネックのニットかと思いきや、右身頃はVネック。二つの異なるネックラインのニットを中心ではぎ合わせ、シンプルなはずのベーシックなニットが、日常に染まり切らない違和感を演出する。

 マサオシミズの代名詞である再構築デニムは、古着のジーンズの脇をカットし、そのカットした脇がいくつも縫い合わせられたアイテムである。膝部分には、古着のジーンズから裁断されたステッチで処理を施されている裾部分がパッチワークのように配置され、その結果完成する色褪せた再構築デニムは、服の新たな息吹が感じられる「新しい古着」へと生まれ変わる。

 他にも、古着のTシャツを裁断し、身頃にプリントされたグラフィックが断片的に見え隠れするロング丈のトップス、古着から解体したフラワーモチーフのテキスタイルが混じり合ったワンピースなど、古着の素材と真新しい素材が混じり合った服は、同じ服に見え、しかしながら1着として同じ服がない。デザイナーの清水真生は自らパターンと縫製を手がけながら、縫製工場と一体になって服を作り上げる。

 職人的な手法で作られたマサオシミズの服に立ち昇るのはパーソナルな匂いであるが、ノスタルジックな懐かしさとは異なる、現代性が加味されている。

 僕がマサオシミズの服を見ていて浮かんできた言葉、それは「記憶が掛け合わされた服」である。昔好きで、頻繁に着ていた服。けれど、ある日「もう、着ないな」と手放してしまう。そのとき、後悔はなかった。正しい選択のはずだった。だけど、後年こう思う。

「なんで手放したんだろう……」

 そのとき芽生えるのは、かつては当たり前に何度も着ていた服への思慕。でも、今はもう着ることが叶わない思い出になってしまった服。

 その記憶の中の服の断片=イメージをいくつも拾ってきてつなぎ合わせ、今着たい服へと仕立て上げる。それが僕の抱くマサオシミズのイメージ。だから、そこには懐かしさがあるんだけど、思い出に浸る牧歌的な感情はなくて、今を生きるリアルな感情が立ち昇る。

 服から感じられるその視線は暖かく優しい。服作りが好きな人間が作る服。そういう本物の匂いが、穏やかに静かに迫ってくる。

 強烈な衝動に駆られ、時代の先へ先へと進むだけがファッションではない。過去から連綿と続いてきた思いも、今のファッションを形作る。スピードとテクノロジーが日々発展する今こそ、マサオシミズを着てみればいい。

 リラックスという名の平穏が、あなたの身体と心を包むだろう。

〈了〉

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