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緑豊かなフェンディのメンズウェアに宿った魅力

*このテキストは「AFFECTUS letters」「AFFECTUS subscription」参加メンバー限定有料ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年11月19日に配信されたタイトルです。

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本文は以下から始まります。

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2020SSシーズン、素晴らしいメンズウェアが90年以上の歴史を誇るローマの名門ブランドから発表された。そのブランドの名は「フェンディ(FENDI)」。それまで私はフェンディのメンズウェアに心動かされた経験なかったが、今回は一目で一瞬にして惹かれてしまう。それがフェンディの2020SSメンズコレクションだった。

私はフェンディのメンズウェアに対して、次のようなイメージを抱いていた。

「クラシックな匂いが強く、イタリアブランドならではのゴージャスさも合わせ持つ服」

時代の空気を先端的に捉えた新鮮さは弱く、ポジティブなイメージはなかったのも事実。だが、そのイメージは2020SSシーズンで完璧に覆される。

フェンディのメンズラインを統括するクリエイティブ・ディレクターは、創業者アドーレ・フェンディの孫娘シルヴィア・フェンディ。ウィメンズラインのディレクターであったカール・ラガーフェルドが亡くなった後、シルヴィアはウィメンズラインのディレクションも担当することになり、今ではフェンディにおけるクリエイティブのトップに昇格した。彼女は、フェンディを代表するビッグヒットバッグ「バゲット」を発表した人物でもある。

私が魅了された2020SSメンズコレクションは、それまでシルヴィアが発表してきたメンズウェアとはまったく異なる印象を抱き、本当に同一人物がディクレションしたのだろうかと思うほどの変貌ぶりであった。2020SSメンズコレクションは、簡潔に表現すれば以下になる。

「贅沢さを誇張することなく、男たちを美しく装う気品に満ちた服」

いったいどのようなデザインが成された服なのか。

だが、2020SSメンズコレクションについて触れる前に、過去にシルヴィアが発表してきたメンズコレクションを見た感想をありのままに語ってみたいと思う。

「贅沢が過ぎる、手間のかかりすぎた服」

2019AWと2019SS、両コレクションを見てまず真っ先にこのフレーズが浮かんできた。

2020SSコレクションを見た後にシルヴィアが手がけた過去のメンズコレクションを見ると、野暮ったさが目につく。たしかに贅沢さは感じられる。上質感ある素材や緻密な柄のプリントなど、手数をかけ、最高クオリティで作られたクラシックな色の組み合わせとシルエットの服という印象を抱くぐらいに高級感は漂っている。だが、エレガントではない。イタリアブランドと聞いた時の、贅沢さの主張が強過ぎるネガティブなイメージが私には連想されてしまった。

一つ、気になった点がある。2020SS以前のコレクションは、トレンドの波を捉えているようにはあまり感じられない。あくまでフェンディというブランドが持つ特徴=ゴージャスに焦点を当ててデザインをしているように見え、ファッションデザインの重要ポイントであるコンテクスト=トレンドを捉えての表現が成されているようには見えなかった。

特徴を作ろうとして手数を掛けすぎ、時代と距離を置き過ぎている。その印象が、コレクションを野暮ったく見せている。私にはそう感じられてしまった。

少々、辛辣な表現だったかもしれない。しかし、それもすべて2020SSコレクションを見てしまったが故の感想だ。もし、2020SSコレクションを見なければ「フェンディとはこういうものだ」と感じ、表現が過ぎることもなかっただろう。

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