20190219_ラフカルバンクライン

LAST CALVIN KLEIN

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年2月19日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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不意にその日は訪れた。2018年12月、ラフ・シモンズはカルバン・クラインのディレクターを退任する。そのニュースは私に衝撃をもたらす。ラフがディレクター就任後、カルバン・クラインのビジネスは経営陣が期待する成果を出すことができなかった。カルバン・クラインを擁するPVHコープのエマニュエル・キリコCEOが、公にラフのデザインへの批判とも言えるコメントが出るほどに。

だが、カルバン・クラインとラフは2019年8月に契約更新が迫っており、少なくとも2019年2月に発表される2019AWは引き続きラフがコレクションをディレクションするだろうと考え、私はその発表を楽しみにしていた。

しかし、その楽しみは訪れず、ラフはカルバン・クラインを去る。あまりに唐突に突然のさようなら。

いったいラフは、これまでカルバン・クラインでどのようなデザインを発表していたのか。今改めてそれを読み解きたい。ラフが去った今だからこそ。

今回、一つのコレクションをピックアップして述べていきたい。それは結果的にラフの「ラスト カルバン・クライン」となった2019SSシーズンである。この2019SSこそ、ラフがカルバン・クラインで披露してきたデザインの集大成と呼べる内容になっている。

2019SSコレクションを読み解くため、まず私はショー映像を観ることにする。そして観終わっての感想はこうだった。

「いくらなんでも難しすぎる……」

ラフの「ラスト カルバン・クライン」はかなり難解なデザインであり、この難解さを即座に理解し、消費者の物的欲求を喚起するのは至難の技ではないかと思えた。その理由を述べていきたいと思う。

理解を難解にする理由、それはイメージの組み合わせに脈絡がなく現実感が伴わないからである。2019SSコレクションから受けた私のイメージを以下に列挙していきたい。

ジョーズ、ダイビング、エリート、西海岸、スタンフォード、ハーバード、卒業式、1980年代、インディアン、アメリカントラッド、グランジ、クラシック……。

2019SSコレクションは、これらのイメージが交配合し、スタイルを作り上げている。具体的なスタイルを紹介したい。

まず、このテキストを読む皆さんに、一つイメージしてもらいたいものがある。ダイビングスポーツで着用されるゴム素材の、黒くマットなウェットスーツを頭の中に描いていもらいたい。そのボトム部分だけをスパッと切り取り、男性モデルが穿く姿にまでイメージを膨らませて欲しい。それが、このスタイルのパンツになる。

そして次に男性モデルが着ているトップスだが、スティーブン・スピルバーグ監督の映画「JAWS(ジョーズ)」の赤いロゴと黒い「CK」ロゴ、あの巨大なサメがプリントされた白いインナーを着ており、首元部分のネックラインは大きく開けられ、ヘインズのTシャツよりもずっと深く胸元があらわになっており、おそらくタンクトップではないかと思う。そのインナーの裾は先ほどのウェットスーツのボトムへタックインしている。

白いJAWSインナーの上からは、色味がブラウン系のツイードの重厚感ある着丈も長いクラシックなジャケットを羽織っており、さらにその上からアメリカの大学の卒業式で学生が着る黒いガウン上の「アカデミックドレス」をまとっている。もちろん男性モデルの頭にはアカデミックドレスに欠かすことのできない、黒いスクウェアの帽子がポツンと乗った状態だ。

どうだろう。スタイルをイメージしていただけただろうか。頭の中に描かれたそのイメージを見て、どう思われただろう。正直、理解不能である。ラフ・シモンズのデザインが好きな私でさえ、このスタイルは不可思議さでいっぱいだ。そして、これだけではない。2019SSコレクションは、先ほど私が列挙したイメージが脈絡なくコネクトされたスタイルが、メンズでもウィメンズでも、これでもかと発表されているのだ。

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