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綿矢りさの小説から辿るオーラリー論

*このテキストはサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年5月7日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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2015AWデビューから最速で人気ブランドの座に駆け上がっていった「オーラリー(AURALEE)」。デビューから2年後の2017年には、南青山に直営店をオープンさせるほどの短期間での急速成長であった。

デザイナーの岩井良太は「ノリコイケ(NORIKOIKE)」や「フィルメランジェ(FilMelange)」などのカットソーに定評あるブランドでパタンナーやデザイナーとしてキャリアを積み、テキスタイルコンバーターのクリップクロップからオーラリーをスタートさせた。

完全に個人で独立したブランドではなく、クリップクロップという会社のサポートがあったにせよ、大手企業の資本と比較すれば予算は小規模であったと思われる状況で、この短期間で大人気ブランドに成長させた手腕は見事としか言いようがない(*現在はクリップクロップ社の事業から独立し、株式会社オーラリーを設立)。

オーラリーは公式スケジュールの参加ではないが、2019AWシーズンで初めてパリコレクション期間中に現地でプレゼンテーションを行い、本格的なパリ進出への第一歩を記した。このプレゼンテーションは、東京都と繊維ファッション産学協議会が主催する「ファッション プライズ オブ トウキョウ(FASHION PRIZE OF TOKYO)」の第2回受賞者の特典として、アワードの支援を得ての発表になる。第1回の受賞者には「マメ(MAME KUROGOUCHI)」の黒河内真衣子が選出され、同様にアワードの支援を得てパリでの発表をスタートさせている。

日本で圧倒的な支持を得てきたオーラリー。そのデザインといえば、最高にこだわり抜いて開発した最高級のオリジナル素材をシンプルなシルエットに乗せていくという、装飾性が皆無に近い服である。

素材へのこだわりの深さは、デザイナー自らが原料を探すためにオーストラリアやニュージーランド、モンゴルへ毎シーズン出張するほどである。ここまでの素材へのこだわりは、コレクションブランドでもそうそうないだろう。チェックなどの柄を用いた素材はあるが、現在のトレンドであるデコラティブでアグリーな装飾性とは無縁なデザインがオーラリーの特徴だ。

ただし、私が思うにオーラリー最大の武器は素材ではなく、そのスタイルにある。

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