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読む映画だった『We Margiela』は、ファッションを書く動機を与えてくれた

以前から話題になっていたマルタン・マルジェラのドキュメンタリー映画『We Margiela』が、とうとう昨日から上映がスタートした。今日はその待ち焦がれていたドキュメンタリー映画を早速観に行く。

実際に観終わっての僕の感想は「これは映像ではなく書籍で具体化した方がいい」というもの。

映画の内容は、マルタン・マルジェラと共に実際に仕事をした人々がインタビューに答えていくという、マルタン・マルジェラという「ファッション界の事件」に関連する人物たちの証言集である。

ショー映像はあるが、それは短時間であり、映画のほとんどをインタビューが占めていた。そのため、映像を観るというよりも字幕を追う作業「読む」ことに集中していく内容である。映画でありながら書籍を読むような体験が訪れる。

そのインタビュー内容についてだが、僕は新規性をあまり感じず、正直な所そこまで楽しめたわけではない。ルッツ・ヒュエルとインゲ・グロニャールがインタビューで答えていることに思わず「お」と反応したぐらいで、淡々と観ていく(読んでいく)状態であった。

ただ、意識が惹きこまれた瞬間がある。映画終盤でルッツがマルタンと偶然出会い、ランチをしたというエピソードだ。そこでルッツはマルタンからある質問をされ、ルッツがマルジェラは仕事を楽しんでいなかったと述べるシーンがある。

僕はここで少し身を乗り出す。本当にマルタンが楽しんでいなかったなら、それは悲しい。しかし、これは完全に僕の憶測だがマルタンが仕事を楽しめなくなったのは、2005年前後から引退するまでの2008年までではないかと思える。

その時期のコレクションに、僕は「熱」を感じていなかった。マルタンが自身の過去のコレクションを焼き直しているだけの、冷めた感覚を感じていた。言ってしまうと「いまいち」だったのである(あくまで僕の個人的感覚)。

僕はマルタン・マルジェラの全盛期をリアルタイムで追ってきたわけではない。彼が手がけたコレクションの大半を、後年映像や写真で見返していただけになる。しかし、それでもマルタンがデビューから約10年間見せてきたコレクションには、彼の凄みを圧迫感をもって訴えてくる世界が表現されていて、あの10年はファッション界の奇跡だった。

この映画を観て、僕は改めて思う。

「マルタン・マルジェラのデザインについてひたすら書いたブックを作りたい」

彼のデザインを記録にとどめる必要があると強く実感したのだ。

上映後、スタイリストの北村道子さんと写真家の鈴木親さんのトークイベントがあった(これがあったから観に行くのは今日にした)。そこで述べられた鈴木親さんの視点が実に鋭く見事。

「(マルタン・マルジェラの服は)10万円の服が1万円にしか見えない。それまでは10万円の服が20万円に見えていた。価値観を変えた」

マルタン・マルジェラの魅力はこの言葉に集約されている。

なぜ、10万円の服が1万円に感じるのか?なぜ10万円が1万円と価格以下の価値を感じるのに、人々は熱狂して高いお金を払い、マルジェラの服を買ったのか?

昨今のアパレル製品の価値を高原価率に求める傾向では、理解できない現象であろう。ラベルに印字された価格よりも安く感じるのに、圧倒的魅力を感じて買ってしまう。ファッション界のミステリーと呼べる現象だ。

僕自身もその体験者である。

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写真は僕が2000年に買ったマルタン・マルジェラのメンズジャケットである(写真は女性用ボディに着用)。マルタンがメンズラインを始めて間もない頃のアイテムだ。

当時の価格で7万5000円ほどだった記憶がある。現在マルジェラのジャケットを買うとしたら、10万円以上するだろうが、当時の僕にとって7万5000円という価格は迷わず買える価格ではなかった。

素材はポリエステル55%、ウール45%というポリエステル混でチープな質感。裏地もポリ100%だ。シルエットは野暮ったく、ラペルもシャープでなければクラシックでもなく中途半端。高級感や上質感とは無縁。そんなジャケットが7万5000円。普通なら価格よりも価値を感じないジャケットだろう。しかし、僕はこのジャケットに袖を通し、自分の姿を鏡で観た瞬間、惹きこまれる。

このジャケットの持つとてつもないカッコよさに。

痺れるほどのクールさがあったわけではない。だけど、着たくなる魅力が訴えかけてきた。いつまでも着続けたくなる魅力が。これこそがマルタン・マルジェラのデザイン。価格よりも圧倒的に低い価値を感じるのに、その価値よりも圧倒的に着たくなる魅力を感じる。これこそがファッションデザイン。原価率の高さがファッションの魅力ではない。ましてや、世界を前進させるためのモードにとっては。ファッション史を前進させる天才が作った歴史の逸品に、僕はお金を投じた。

僕はこのマルタンのデザインの謎に迫り、その分析を記録にしたいという欲求が強烈に高まる。そして、その記録をブックにして販売したいと。

これまで僕は何本かマルジェラテキストを書いてきたが、マルタンがメゾンを去るまでに制作した1989SSから2008年までの可能なかぎりのコレクションについて、そのデザインを読み解いたテキストを収録したマルジェラブックが作りたい。

その欲求を呼び起こしたのが『We Margiela』という映画であり、ファッションを読む映画は僕にファッションを書く動機を与えてくれた。『We Margiela』のDVDが販売されるなら僕は購入して慈しむように繰り返し鑑賞し、この映画を小説のように読みたい。

身体に染み込むよう何度も。

〈了〉

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