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そのデザインは計算なのか、感覚なのか -マシュー・ウィリアムズ-

*このテキストはサービス「AFFECTUS subscription」と「AFFECTUS letters」加入メンバー限定ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年7月2日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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ストリートシーンをリードし、伝説的な存在となったクリエイティブなDJ集団「ビーントリル(BEEN TRILL)」。その結成メンバーだった3人は、それぞれがファッションブランドを立ち上げ、今やどのブランドも世界で熱烈な人気を獲得し、ファッション界を席巻している。ヴァージル・アブロー、ヘロン・プレストン、そして最後の一人が今回ピックアップするマシュー・ウィリアムズ(Matthew M Williams)である。

多くの人気ストリートブランドのデザイナーがそうであるように、マシューもファッションブランドでデザイナーとして専門的なキャリアを築いてきたわけではない。

シカゴ生まれ、カリフォルニアで育ったマシューは、アメリカの音楽業界でクリエイティブディレクターとしてその才能を発揮し、名声を高めてきた。カニエ・ウェストにレディー・ガガ。マシューを支持するスターの名が、彼の実力を証明している。

そんなマシューが、自身のファッションブランド「ALYX(アリクス)」を立ち上げたのは2015年。ブランド名はマシューの娘の名前から取られたもので、ウィメンズウェアからスタートした。2017SSシーズン、メンズウェアにも着手し、2018年にはブランド名を「1017 ALYX 9SM」に変更する(読み方は「アリクス」のまま)。ブランドのInstagramアカウントのフォロワー数は54万人を超え(2019年6月30日現在)、2018年5月にはとうとうストリートの王道、ナイキとのコラボ「NIKE X MMW TRAINING SERIES 001」を発表し、ALYXの人気は衰えを知らない。

ヴァージル、プレストン、マシューのブランドは「ストリートウェア」と称されることが多い。今、ストリートウェアと聞くと、どんなイメージが浮かぶだろう。スケート、ヒップホップ、ビッグシルエット、ロゴTシャツ。いずれもストリートウェアで頻繁に見られる要素だ。ヴァージルやプレストンのデザインは、確かにストリートウェアと呼ぶにふさわしいテイストがある。しかし、マシューだけは違う。彼のブランド「1017 ALYX 9SM」は3人の中でも異質。

ALYXは3人のブランドの中で最もモードな匂いが強い。ブラックをメインカラーに、シャープなシルエットで、クールでセクシーな世界を演出している。そのデザインから私は、ストリートウェアという単語を即時思い浮かべることが難しく感じる。ALYXのショーを見ていると、こんな言葉が頭をよぎる。

ダーク、ゴシック、ボンテージ、パンク、メタリック、近未来……。

マシューのデザインには、スケートやヒップホップといった現代のストリートウェアに散見されるカルチャーの匂いが他のストリートブランドに比べて弱い。例えばアイテム。ストリートウェアで頻出するアイテムといえば、Tシャツとフーディが挙げられる。マシューもALYXでTシャツとフーディを作っているが、それ以上に印象に残るアイテムがある。それがシャツとテーラード(ジャケット&コート)だ。

マシューがブランドをデビューさせた2015年は、デムナ・ヴァザリアがバレンシアガのディレクターに就任した年であり、ビッグシルエットのストリート旋風がまさにこれから吹き荒れようとするころ。

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