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複雑で難度が高くない技術でも、表現を大胆にすることがデザインに価値を創る

*このテキストは「AFFECTUS subscription」「AFFECTUS letters」の有料ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年10月15日に配信されたタイトルです。

【こんなニーズをお持ちの方に】
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・アパレル営業・販売の方で、モードファッションの情報収集と商品の言語化の参考にしたい

本文は以下から始まります。

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世界中から多くのデザイナーが参加し、ビジネスとクリエーションの激しい競争が行われるパリコレクション。日本人デザイナーも多数参加し、そのコレクションは毎シーズン注目されている。しかし、パリコレクションに参加しているアジア人デザイナーは、日本人だけではない。

9月に開催された2020SSパリコレクション初日、公式スケジュールでは3つのアジアブランドがショーを開催した。日本から黒河内真衣子の「マメ(mame)」、2018年LVMH PRIZEで特別賞を獲得した韓国出身ロック・ファンによる「ロック(ROCH)」。3つめのブランドも韓国出身のデザイナーが立ち上げたブランドであり、そして今回のLOGICAZINEでピックアップするデザイナーでもある。彼の名はキミンテ・キムヘキム(Kiminte Kimhekim)。2014年、キミンテはシグネチャーブランド「キムヘキム(Kimhekim)」を始動する。

韓国人であるキミンテだが、キャリアは韓国ではなくフランスで積み上げ、シグネチャーブランドの創立へと至っている。現在、日本での知名度は低いが、取引先は世界に広がっており、アメリカ、ヨーロッパ、中国、香港、東南アジアのショップで取り扱われ、アカウント数は約50にのぼる。日本では、エッジの効いたブランドを規模の大小問わずセレクトする「アディッション アデライデ(ADDITION ADELAIDE)」でも扱われている。

キミンテのデザインは、同じアジアで隣国の日本からパリコレクションに参加しているブランドとは構造が異なる。

これまで何度も述べてきた通り、現在パリコレクションに参加している日本ブランドのデザインは、素材・ディテール・パターンに複雑さがあり、その複雑さがさらに重ね合わさった、迫力あるデザインになっている。しかし、逆に言い換えると、その迫力が濃厚すぎる時がある。

一方、キムヘキムのデザインは濃厚な複雑さを感じることはなくシンプル。しかし、シンプルと言っても大人しいわけではなく迫力がある。ただし、日本の迫力とは異なるタイプの迫力だ。簡潔に、けれど大胆に表現された迫力と言え、その印象を生み出す源泉となっているのはカッティングだ。デザイナーのヘミンテは、武器のカッティングを生かしてどのようなアイテムを生み出しているのか。

キムヘキムのコレクションに欠かせないアイテムはテーラードジャケット。ジャケットを軸にしたスタイルは、男性的シャープでクールな側面を作り出しており、マニッシュという表現がふさわしい。また、トレンチコートも頻繁に登場するアイテムであり、キムヘキムは都会的スタイルで「モダン」や「クール」といった言葉が連想されてくる。パリでキャリアを積んだヘミンテだが、発表しているスタイルからはニューヨークの香りを感じる。マニッシュなベーシックアイテムに、キミンテはモードなカッティングを盛り込み、日常性ある服をエッジなモードの舞台へ上るにふさわしい服へと仕立て上げている。

キミンテが見せるカッティングは直線的でダイナミック。2019AWコレクションでは、布が持つ直線という造形的特徴を生かすように、最低限の裁断でトップスとスカート(パンツにも見える不思議な形)に仕立てたようなデザインがある。一見すると服の形はシンプルだ。しかし、服の印象はシンプルではなく、布の残像が残る直線的カッティングの服はモデルの歩行と共に上下に揺れ、その大胆な姿はまさしくモード。

キミンテはアイデアの生かし方も秀逸で、この特徴こそが彼の最大の武器だと私は感じた。

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