漂流 #day086
昨日の本音が、今日はぜんぶ嘘に思えてしまうことがある。
昨日キラリと輝いて見えたソレは、
今日はまるで靄が掛かったかのようにくすんで見えて、
——ああ、明日にはどうでもよくなってしまうな。
そんな感覚に襲われてしまうことがある。
つい先日「好き」だと大声で言ったことが、
舌の根も乾かぬ内に、
本当は大して好きではないかもしれないと
気付いてしまうことがある。
たいそうな御託を並べて「やってやる」と
息巻いた思いは、確かに在ったはずなのに、
そんなものは、まるで初めから微塵も
なかったかのように思えてしまう瞬間がある。
でも、世界はいつだって灰色で、
ほんの光ひとつ、ほんの影ひとつの影響で、
それは白にも黒にも見えてしまうものなのだ。
だからそのどれも決して嘘ではないのだと、
言いたい悪魔の顔したエンジェルと、
そんなのただ自分に都合のいい甘い言い訳だと、
どこかで気付いている天使の顔したデビルとが、
自分と同じ顔の仮面を付けた相手に、
お互い矛を向けられず、手をこまねいている。
そんな感じ。
どっちにしても消耗する。
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これが真骨頂だよなと、思う気持ち半分。
それでも小説を諦めきれない気持ち半分。
『憶病な私の意思表示だ』と言ったのは本音。
でも、それだけの技術もないものだから、
いっそ憶病なまま体当たりしてしまうほうが
その何倍も、楽な気がしているのも本音。
こんなふうに、ほんの少し言葉を選んで、
中途半端にエッセイ風なんて書いてしまうと、
物語にしようとした時、作者の顔がチラつく。
そんな、自分が一番嫌いな事態に陥るぞと、
解っちゃいるけど、今これを
物語に組み込むエネルギーも時間も
あいにく持ち合わせていないんだぜって、
現実を見て、何かを諦めてしまう結局。
あーあ、もう後戻りできないねと、
言うのは悪魔?天使?
でも私、キャラクターの作り込みは、
そんな生半可にやってないからって、
自信ともプライドとも言えないような
変な傲りを見せてくるのは、
エンジェル?デビル?
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一つ、参ったなあと思いつつ、
最近気付いてしまったことといえば、
どうして私がやたらになんでもかんでも
義務化してしまいがちなのかということ。
「好きなこと」とか「理想」とかじゃダメなんだ。
自分のためだけじゃ頑張れない。
自分で掲げたことも、自分の気持ち一つだけでは
頑張る価値を見いだせない。自分のことは、
「まあいっか」で済ませることができてしまう。
いっそ義務じゃなきゃ、そこに甘えが出てしまう。
自分のことだけを考えて、
周りも顧みず突っ走ってるくせに、
自分のためだけだから、
ある日突然、
なんだか間違っている気がしてしまう。
貪欲に見えて、実は正直どうでもいいと思っている。
でも離れてみると、やっぱりちょっと
悔しかったり、寂しかったりする。
たぶん「どうでもいいって」感情殺さないと、
いたたまれなくて仕方ないんだ。
我ながら自分勝手だし、超面倒くさい。
というか、それっぽいことうだうだ言いながら、
とどのつまり、根性や覚悟がないだけだ。
まったく嫌になっちゃうよ。
流されていく。
楽なほうに、楽なほうに。
人間って、嫌というほど
変われない生き物だ。
もう、それでいい。
変われない生き物だと認めたうえで、
それでもどうやって、
理想と折り合い付けるのか。
浮いて、沈んで、
右に揺れては左に返して、
また右に左に、触れて、漂って。
滑稽だろうが、煙たがられようが、
漕ぎつづけなきゃ、
見える景色も変わらないや。
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