キャラデリ金策の伝説

 アストルティアの国、グランゼドーラ村の近くに、一区画の公園がある。バトルルネッサンスと云うその名の由来を私は知らない。公園の側にルネデリコと云う奇妙な男があって、男の渡す報酬に黄金の花びらがある。その花びらについて物語がある。

 今より三十五年前、ある秋の寒い晩、企業の社長に使われている娘やおじさん達が一日の仕事を終ったあとで旅人のバザーのまわりに集って、金策に興じていた。素材が十余りも出た頃には大概のものはなんだか値段が悪くなっていた。その時その値段の悪さの快感を一層高めるつもりで、一人のウェディ娘が、『今夜Ver.5から始めたサブキャラを連れてあのバトルルネッサンスへふたりで行って見たらどうでしょう』と云い出した。この思いつきを聞いて一同は思わずわっと叫んだが、また続いて神経的にどっと笑い出した。……そのうちの一人は嘲るように、『私は今夜稼いだゴールドをその人に皆上げる』と云った。『私も上げる』『私も』と云う人が続いて出て来た。四番目の人は『皆賛成』と云い切った。
……その時エルこと云うエルフのおじさんが立ち上った、――この人はVer.5から始めたLv.2になるサブキャラ(プクリポ)をついていく設定にして、後方に侍らせていた。『皆さん、本当に皆さんが今日取ったゴールドを皆私に下さるなら、私ルネッサンスに行きます』と云った。その申出は驚きと侮りとを以て迎えられた。しかし、度々くりかえされたので一同本気になった。金策に励む人達は、もしエルこがルネッサンスに行くようならその日の分のゴールドを上げると、銘々くりかえして云った。『でもエルこさんが本当にそこへ行くかどうか、どうして分ります』と鋭い声で云ったものがあった。一人のお婆さんが『さあ、それなら黄金の花びらをもって来てもらいましょう、それが何よりの証拠になります』と答えた。エルこは『もって来ます』と云った。それから眠ったサブキャラを背負ったままで戸外へ飛び出した。

 その夜は寒かったが、晴れていた。人通りのない往来をエルこは急いだ。身を切るような寒さのために往来の戸はかたく閉ざしてあった。村を離れて、淋しい道を――ピチャピチャ――走った、左右は静かな一面に氷った田、道を照らすものは星ばかり。三十分程その道をたどってから、繁華街の下へ曲り下って行く狭い道へ折れた。進むに随って路は益々悪く益々暗くなったが、彼女はよく知っていた。やがて額縁の鈍いうなりが聞えて来た。もう少し行くと路は広い公園になって、そこで鈍いうなりが急に高い叫びになっている、そうして彼女の前の一面の暗黒のうちに、額縁が高く、ぼんやり光って見える。かすかに報酬の山と、それから、黄金の花びらが見える。彼女は走り寄って、――それに手をかけた。……
『おい、エルこ』不意に、とどろくTwitterのTL上で警戒の声がした。
 エルこは恐怖のためにしびれて――立ちすくんだ。
『おい、エルこ』再びその声は響いた、――今度はそのツイートはもっと威嚇的であった。
 しかしエルこは元来大胆なおじさんであった。直ちに我にかえって、サブキャラ分の黄金の花びらを引っさらって駆け出した。往来へ出るまでは、彼女を恐がらせるものをそれ以上何も見も聞きもしなかった、そこまで来て足を止めてほっと一息ついた。それから休まず――ピチャピチャ――駆け出して、グランゼドーラ村について旅人のバザーの戸をはげしくたたいた。
 息をきらして、黄金の花びらをもってエルこが入って来た時、おじさんや娘達はどんなに叫んだろう。彼等は息をとめて話を聞いた。バトルルネッサンスから二度まで名を呼んだ何者かの声の話をした時に彼等は同情の叫びをあげた。……何と云う女だろう。剛胆なエルこさん。……ゴールドを皆上げるだけの値打は充分にある。
……『でもエルこさん、さぞサブキャラちゃんは寒かったでしょう』お婆さんは云った、『もっと火の側へつれて来ましょう』
『おなかが空いたろうね』エルこは云った『すぐ装備を上げますよ』……『かわいそうにエルこさん』お婆さんはサブキャラのついていく設定を解く手伝をしながら云った――『おや、背中がすっかりぬれていますよ』それからこの助手はしゃがれ声で叫んだ『アラッ、血が』
 解いたついていくの後から床に落ちたものは、血にしみた汗と涙の結晶で、そこから残ったものは、5キャラコースの枠とそれからメインキャラのデータ――ただそれだけ。
 サブキャラのデータは削除されていた。……


元ネタ:小泉八雲著 ; 田部隆次訳. 幽霊滝の伝説. 第一書房, 1937, 1冊 (小泉八雲全集, 第8巻)
参考URL:https://www.aozora.gr.jp/cards/000258/card59432.html

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