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【読書感想文】この本を一気読みしたら、Web広告・Web動画に向き合う姿勢が変わった。

こんにちはドナリーです。読書の秋ということで読書感想文を書いてみようと思います。アドラブ特派員「つぼつぼ」から推薦された小霜和也 著「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします」についてです。

この本は2017年に上梓されているので広告業界には既に読まれた方も多いと思いますが、広告業界以外の方にとっても面白いのではと感じました。と言うのもコロナ禍の中、どの業界に属していても販売促進や人材確保の施策に苦慮されており、Web広告やWeb動画に興味を持つ方は結構増えているようですから。

Web動画やSNSをどう捉え、どう使えばいいか知りたい方にはお薦めの一冊です。1990年代のマス広告とWeb広告との関係、SNS広告の出現、その後カオス化する広告媒体の変化をクリエイティブ目線で整理整頓し、その中から普遍的な「広告の本質」をこの本は教えてくれています。

筆者は1962年生まれのコピーライター兼クリエイティブディレクター小霜和也氏。その年齢の方が今もデジタルクリエイティブの一線で活躍されていることに対する驚愕とともに、3歳年下のオジサンとして勇気をもらいました。読後の感想としては、マス広告とWeb広告をどちらも経験した上で比較しながら語れる方の話ってかなり貴重だなと。

▼著者プロフィール

そして、タイトルに「急いで」とあるように、1995年〜2017年にわたる広告業界の変遷を大急ぎで語っているため情報量は膨大ですが、事例になぞらえてあるため、誰でもフムフムと読み進められます。

ただし、広告マーケティング本にありがちな3文字英語(ATL、BTLなど)がチョイチョイ出てくるため、慣れないうちはキーワード集ページへ何度も行き来しました(汗)。ともあれ一気に読み切った結果、「WEB広告において誤解されがちな4つのポイント」が特に印象に残ったので、以下に感想を述べていきます。

1.「Web媒体=無料もしくは安価」という誤解

そもそもテレビ媒体と違い、デジタル媒体は安価で効率重視の刈り取り装置のように考えられがちで、著者はその弊害を指摘しています。「Web媒体=無料もしくは安価」という思い込みが、「バラ撒いて祈るだけ」という効果の上がらないWeb広告の現状を生んでいると。それに対してWeb動画だけでもクリエイティブと媒体計画を 最適 化すれば、TV-CMと同様の効果が得られることを事例になぞらえて紹介しています。それには制作費 にも媒体費にも 適切な 予算 を掛け 、ある 程度「 票読み」ができる状態 にすることが重要と言っています。TV-CMほどはないとしてもWeb広告にもしっかり予算 をつけ、きちんとした媒体計画と制作体制で実施しないと「安物買いの銭失い」になるということでしょう。当然、企業全体の広告予算とのバランスも考慮する必要がありますが 。

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2.「数字が見える=成果が見える」という誤解

Web広告では様々なスコアが見えるようになっていますが、それはあくまでクリック数や動画視聴回数など測定可能な数値の範囲の話であり、「WEB広告単体の購買への影響度」が全て明確になるわけではないということ。

この本を読む限 り「 数字が 見えるのに成果まで 見えない」ことに不満 を感じる広告主がいらっしゃるようです(汗)。Webマーケティングはたしかに一定の広告効果の数値化・可視化が可能なんですが、それが「人間の脳内 の測定にまで及ぶ」という過信に繋がってしまうのではないかと思います。ではWeb広告に期待していいことは何かというと、

スコアを見ながら 改善していける点にある

・・と小霜氏は指摘しています。マス媒体に広告を出す場合「出稿」と呼びますが、マス媒体は出稿後の変更が基本的に不可能ですので、ある意味出稿がゴールになります。

これに対し、Web広告の開始は「運用スタート」に過ぎず、開始後にPDCAサイクルが回り始めます。やってみて→結果を見て→ 改善 して→また結果を見て改善するPDCAサイクルで広告露出の効率を高めていくことが、Web広告の特徴を活かした活用法のようです。

これってWEB媒体出稿を担当されている広告代理店の方、WEB広告会社の方にとっては当然の知識ですが、デジタルメディアの広告を制作しているデザイナーにとっては「知っているようで知らなかった」領域だったりします。

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3.TV-CMは「すでにオワコン」という誤解

近年、若年層のTV離れからTVの視聴率が年々低下し、媒体が弱体化していることはご承知の通りです。しかし、TV-CMにはまだまだ強い影響力があります。それはGoogleやAmazonなどWebサービスを提供 している巨大IT企業が、今もなおTV-CMを出し続けているという事実が物語っています。

近年WebCMとTV-CMで棲み分けが進んでいるようで、WebCMは「 プライベート」な性質を帯びた広告に、TV-CMは「パブリック」な性質を帯びた広告となってきたと言います。その活用方法を漁に例えると、一本釣りのように「この魚を釣りたい」場合はWebCMが、投網のように「どんな魚でも獲りたい」場合はTV-CMが向いている!という事になります。

また、TV-CMの持つ「パブリ ック感」は今後もブランディングを考える上で捨てるべきではないという指摘もありました。TV-CMを大量出稿すればCM 認知率は最大60〜70%くらいまで向上しますが、WebCMの場合は最大20%くらいが限界です。まだまだ「マス媒体でないと出来ない」コミュニケ-ションは残されているのでしょう。

なお、YoutubeやAmebaTVなど視聴者数の多い動画媒体では、徐々にWebCMが、地上波テレビなみの「パブリック感」を帯びてきたと指摘されています。こうした広告媒体の影響力や性質の変化は、クリエイティブに携わる私たちも敏感に感じ取らなければならないと感じました。

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4.「Web動画広告は面白くなくてはいけない」という誤解

Web動画広告はSNSに先駆けてYouTubeで始まったため「面白くなくてはいけない」(この場合の「面白い」はInterestingよりFunnyの方)と誤解している人が結構いるということ。しかし、面白くて多くの人に「観られる」広告でも、商品 の印象が薄く「売れない」広告では広告主にとっての悪夢になってしまうと指摘しています。

情報過多の現代社会 では、TV-CMにおいても「面白いもの」より「わかりやすいもの」の方が、好感度が高く良い結果につながりやすいそうです。特にSNSに流すWebCMの場合は、 尺も短くユーザーの 注意 も散漫 なので「超わかりやすいもの」でなくてはならないと述べています。

また、デジタルクリエイティブにおいてはCPC・CTR・CPAといったスコアが明確になるため、これらの数値をいかに改善するか?がクリエイティブの目的になりがちですが、小霜氏は「本質は逆!」と指摘しています。「クリエイティブが狙った目的を、デジタルメディアをいかに使いこなして実現するか?」という視点を忘れてはなりません。

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以上、私が気になった「Web広告の4つの誤解」についてピックアップしてみましたが、いかがだったでしょうか?

広告宣伝の関係者でないとピンとこない内容 も含まれていたとは思いますが、ちょうど昨年、国内においてはWeb広告費がテレビ広告費を上回る状況になり、Webの影響力が目に見えて強くなりました。テレビには連日Youtuberがタレントのように登場し、YoutubeやTictokで多く閲覧されている動画を、テレビが後追いで紹介するケースが多くなりました。「TV中心」から「Web中心」の情報社会へ、「パラダイムシフト」が進行していることは生活しているだけで分かりますよね。

ICT過渡期の現在、デジタルクリエイティブの世界において一番大切なことは「わかっていないと思って取り組むこと」とこの本は語っています。広告は全てが数値化できそうな世の中になりましたが、実は全てが可視化できるわけではないので、「わかっていない部分もあるはずだ」という視点が必要です。そんな中で著者は、「わかっている」に繋がりそうな価値として、第三者レビューによる「保証」感を挙げています。

小霜氏いわく、成功している企業はこの「保証」感をうまく取り入れているように見えると。それはフェイク ニュースやイカサマまがいの広告など、信用に足らない情報が多くが流れるWebの世界では貴重な価値かもしれません。

読後、現在の広告業界の人間はみんな新人であると気づき、 自分自身も初心 に帰ろうと考えさせられた一冊でした。(ドナリー)

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