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散文36

三人がけのソファーの柔らかさに埋められていくようにして
金払いの良い、刈り込まれた短髪の男の額を撫でた
脂が手に滲み、指を擦り込むと、男の脂が手の脂に馴染み
ココナッツオイルを塗りたくった後のような光り方をしている

アメリカの午後が所在なさげに往来を繰り返すので、
簡単な器具でコーヒーを挽き、湯を注いだ
中産階級的なやり方に安堵感さえ覚えるが、貧しいままの若者は
血に塗れた株券をポケットに入れている

ポスト・パンクとガレージ・ロックの違いがわからずに困っていたら
どちらも音楽だと言った若者が居た
目を離した隙に、若者が銃底で殴られていた
血が黒く垂れた
まるで、ベタベタする林檎の色
川上と風下で脂が滲みを拡げていくだけ

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