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2021/10/11

一日中家にこもっていると、だんだん気が弱くなってしょーもないことばかり考えてしまう日がある。
そんなときは、ビーサン履いて哲学の道を散歩する。
ぺたぺた歩いていると草木やら鳥や魚が視界に入り、風に触れて、部屋で考えていたことがスライドして広いところに出ていく。
明るくて風通しの良い広い空間を動いているだけで、考える筋道の種類が変わっていく。

そんなふうにしてぼんやりと歩いていたら、前方から急に「ドボン!」という音が聞こえた。直感で疏水へ石を投げ入れたかのような音だと感じた。その辺りに60歳前後の男性が見えたので、反射的に凝視した。驚いたのと、この人があの音の発信源であるような予感とがあった。が、何事もなかったかのような涼しい顔をしてすれ違っていくので、私は音がした水面を橋の上からじっと見ていた。
魚がいる。
背後方面に歩いていくその男がまたなにかしでかしやしないか、と振り返ると、男は足元から何かを拾い、疏水へと投げつけるところだった。
「ドボン!」

おい、こいつ、なにしとんねん
という気持ちで、グッと見つめる。
男は「ブラックバスや」と言う。
私は「石投げても、どうにもならないっすよね」と言う。
男「外来種や」
私「石、投げても、どうにもならないっすよね」
男「上の方でも捕まえとったわ」

コイツ、まじか。自分が投石してもどうにもならないのに、外来種だから自分は正しいことをしているという主張しかしてこねえ
と思いつつ、あえて抑揚のない口調で
「いし、なげても、どうにもならないっすよね」
と言った。
男「びっくりさせてんねや」
私「いし、なげても、どうにもならない、っすよね」

男は、そのままじわじわと離れて歩いて行った。

水面を見つめながら、石を投げられたのであろう魚を探し、目で追う。

どう見ても、私には、鯉にしか見えない。

でっかい鯉が疏水の藻に潜り込んでパクパクと口を突っ込みながら、ゆらゆら揺れていた。

穏やかな気持ちになりつつあったのに
疏水に石を投げられたことで立った波が私にまで届いているように感じた。

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