薬よりも医者よりも

上京してから数年後、親友と呼べる友人に久しぶりに会ったのは私と彼女にとってもう1人の親友の結婚式だった。

私と親友は2人して結婚式の受付を頼まれたのだ。

会場も地元ではなく少々遠いため、前日に2人して駅前のホテルに泊まり、翌日にタクシーで早めの会場入り。
そのため、私と親友は有休をとって早めに現地合流。そのまま軽く観光名所を巡って楽しんだのだ。

その夜の事だった。
ホテルに久しぶりに泊まるねなんて話していたからか、会話の流れは修学旅行の話。
そして、修学旅行と言えばお決まりの怪談話。
よくあるような怪談話を何となく話しながら、こんな話したよねなんて言っていると、
「自分の実体験とかってないの?」
なんて聞いてくるものだから、私はちょっと驚きつつも首を横に振った。
「関係ないだろうけど、母が青森出身だからなのか、母親と弟はそういう気配に敏感なの。だけど私は分からないや。」

ついこの間祖母が亡くなって、その時のお通夜の後に親戚で集まって食事をしていた時に母と弟だけが気づいた玄関のベルの話をした。
本人たちはしっかり聞こえたのに、大勢いた私を含めた他の親族は聞こえなかったのだ。
誰か来たような形跡はなかったらしいそれは私には聞こえなかったせいであまり実感がわかないが、ある意味私の実体験のようなものだ。
そんな話をしたら彼女は少し黙ったあと、じっと私を真剣に見つめて言った。
「笑わないで聞いて欲しい。まだ誰にも言ったことなかったんだけど・・・」

こう切り出した彼女の実体験は私のそれよりよっぽど不思議体験だった。

彼女の祖母が亡くなったのは、3年前のことらしい。
彼女はとてもおばあちゃんっ子で、そのせいなのだろうか口調や単語に方言がよく混ざる。
お葬式は三人姉妹の長女なのにとても泣いて、人に見せられるような顔じゃなかったよ、と今でこそ笑って言っていた。
その祖母が亡くなってちょうど1年くらいの頃。
彼女は保育士を務めているのだが、あまりに酷い頭痛で休みを取ったそうだ。
本当に酷くて、病院に行こうと思っても実家暮らしとはいえ両親は共働きで朝からいない。
2人の妹は学生で論外であり、本人は車通勤をしているため、車は持っているがとてもじゃないが運転できなかった。
彼女の実家はとても大きいのだが、物凄く・・・よく言えば自然豊かだ。
私の実家もそれなりに田舎ではあるが家屋が密集していて集落と呼べるものになっているが、彼女の実家はそれこそ隣の家の間に林があるようなものだ。
1番近くの病院に行くのにも車で30分~1時間弱かかるかもしれない。
なので彼女はひたすら布団に潜って頭痛に耐えたのだ。
でも生理現象というものはどうしたって起きるもので。
2階の自分の部屋から1階のトイレに行き用を足してから戻る階段で遂に頭痛に耐えられずに倒れてしまったらしい。

「怪我しなかった?」
「うん、途中っていってもすぐだったしね。」

頭痛がつらくて意識が朦朧とする中、ふっと暖かい何かが頭を撫でるのを感じたという。
猫を飼っているから猫かとも思ったらしいけど、でもその感触はどう考えても人の手のようなものだったようで、とても心地よいその感覚にしばらく身を預けていると
「大丈夫、大丈夫。」
そう声が聞こえたそうだ。
その声は忘れかけていた彼女の祖母の声で。

はっと気づいた時、もうそこには何も無くていつもの家の景色。
そして不思議と頭痛が消えていたそうだ。
階段の傍には居間があってそこには祖母の仏壇があるらしく

「私の両親も妹たちも、昼はいいけど夜の居間は不気味で怖いって近づかないの。でも私は全然平気。むしろ安心するんだ。」

だからね、おばあちゃんに助けて貰った気がするの。

薬よりも医者よりも家族の愛が彼女の頭痛を消してくれたんだなと、私は何だかとても切なくなった。

そんな親友の彼女もついこの間結婚しました。
もちろん私ともう1人の親友が受付をお願いされました。

彼女のおばあちゃんも結婚式をきっと見ていてくれたに違いないと私はそう思います。

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