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債務整理広告と弁護士・司法書士等の説明義務

八坂 玄功
弁護士
士業適正広告推進協議会 監事

1 弁護士等による不利益事項等の説明義務

日弁連は、債務整理事件処理の規律を定める規程の第4条において、

一 破産手続を選択したときは、法令の定めによる資格等の制限により当該債務者が就くことのできない職業があること。
二 当該債務者が信用情報機関(資金需要者の借入金返済能力に関する情報の収集及び金融機関に対する当該情報の提供を行うものをいう。)において借入金返済能力に関する情報を登録され、金融機関からの借入れ等に関して支障が生じるおそれのあること。
三 当該債務者が所有している不動産等の資産を失う可能性があること。

その他の不利益事項について説明する義務を定めています。

司法書士会においても、例えば大阪司法書士会債務整理事件執務規程第4条第1項④において、

ア 自宅や自動車などの財産価値があるものを失う可能性があること。
イ 所有権留保特約付きで購入した物件の返却を求められる可能性があること。
ウ 信用情報機関に登録等され、後日、与信審査の際に不利益な扱いを受ける可能性があること。
エ 保証人(連帯保証人を含む。)が、債権者から残額一括請求をされる可能性があること
等について説明する義務を定めています。

日弁連や単位司法書士会の上記の規程に定められている説明義務は、専門家として当然のものであり、十分注意して事件処理に当たらなければならない点だと考えられます。

2 問題になりやすい信用情報機関への登録による不利益

上記の説明義務のうち、特に問題となりやすいと思われるのが、弁護士等が債務整理介入通知を行った場合に信用情報機関への登録がなされることによる不利益についての説明がないというケースです。

全国弁護士協同組合連合会が発行する弁護士賠償責任保険の解説と事例【第6集】51頁には、債務整理の相談を受けて債務全額を一括弁済する方針で受任し受任通知を発送して残債務全額を返済したところ、数か月後に依頼者から信用情報に「債務整理」との記載があるとの苦情申出がなされ、依頼者から受任弁護士に対して損害賠償が請求された(受任弁護士は依頼者に対して50万円を支払う内容の示談をし、うち30万円が弁護士賠償保険が補償する結果となった)というケースが紹介されています。

公刊されているケースは少ないのですが、依頼者と弁護士等との間の同種のトラブルはかなり多いのではないかと推測されます。

3 不利益事項の説明義務を負うのは弁護士等であるが

上記弁護士会や司法書士会の規程が定める不利益事項等についての説明義務を負っているのは言うまでもなく事件を受任する弁護士や司法書士であって、広告会社ではありません。

ですから、広告会社としては、不利益事項の説明義務については、まったく関知しないという態度で業務を行うことも誤りではありません。
  
しかしながら、広告を閲覧して弁護士等に債務整理を依頼する方々にとっては広告に記載されている内容が債務整理のメリットばかりであると、それだけが頭に残ってしまい、依頼の際に弁護士等が説明する上記の不利益事項等については頭に残らず、それがトラブルの原因になってしまうという可能性がないとはいえません。
  
上記のようなことを考慮すると、弁護士等から受託して債務整理広告を制作する広告事業者としては、弁護士等から依頼を受けた広告物に紙幅の余裕があり、広告主等の了解が得られる場合には、上記の不利益事項等についての説明義務を意識したページを加えることが親切であり、依頼者と弁護士との間のトラブルを減少させることにつながるのではないだろうかと私は考えています。

もちろん、説明義務を負う主体は弁護士等であって、広告に不利益事項を記載したからといって弁護士等が個別の事案の受任の際の説明義務を免れるわけではありません。

以上

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