見出し画像

弁護士と他業種との「提携」〜許される「提携」と許されない「提携」!〜

大川原 栄
弁護士
士業適正広告推進協議会 顧問

1.「提携」の背景事情

弁護士は法律の専門家であり、法律の解釈・適用が主な業務になります。そして、その対象になる法律は、基本的に無制約とされていることから、一般的な民事・家事事件や刑事事件の分野だけではなく、税法を含む行政分野、医療分野、不動産・建築関係分野、著作権等の知的財産分野、その他諸々と多方面にわたります。
 
弁護士はこのように多方面にわたる分野をその業務対象としています。しかし、現実的には多くの分野で法律を更に具体化(詳細化)した法令や通達等に基づいて実務が運用されており、また、その実務の積み重ねの上でそれぞれの業界が回っているという実態があります。その結果、実際のところ、多くの分野において弁護士以外の専門家がその実務を担っていることになります。

例えば、知財関係では弁理士、税務関係では税理士、登記関係では司法書士、建築関係では建築士、不動産関係では宅建士といわれる方々であり、その専門家が各種法律を前提としながらも業界の実務を担っているということになっているのです。

2.「提携」の必要性とその内容

弁護士は上記のとおり法律の専門家でありつつも、実際のところ各専門分野の全てに精通しているわけではありませんので、自分が精通していない分野に関しては、その分野の専門家と「提携」することが少なくなくありません。
  
私自身も、事務所のHPにおいて、各専門分野における「提携」する方々を明示しております。そして、HPでは表示しておりませんが、それらの専門家と提携をする際の前提として、一切の紹介料や謝礼金の授受をしないことになってます。

そのような授受があれば、それは非弁提携、報酬配分という弁護士法・倫理規定違反の行為になるからです。これは、紹介料や謝礼金の授受があると依頼者の利益と相反する余地が出てきて宜しくない、という判断に基づきます。
  
弁護士は、案件に応じて必要とされる専門家を依頼者に紹介するなどして、共同でその案件に対応することになります。その際には、依頼者と専門家との間で直接の業務委託契約(例:登記手続、税務申告の依頼等)に合意してもらい、弁護士がその業務委託契約にかかわることはありません(「費用を少しおまけして下さい」くらいの助言をする場合はあります。)。

それでも、弁護士による案件処理、専門家による付属的案件対応の共同作業によって、最終的に依頼者の利益擁護に繋がることになれば、依頼者、弁護士、専門家の三者それぞれが了解・納得するということになります。
  
依頼者からすれば案件処理において弁護士から良い専門家を紹介された、専門家からすれば弁護士から相応の仕事を紹介された、弁護士からすれば専門家と提携することで案件処理が上手くいったということになります。これが弁護士が考える「提携」の内容(「弁護士のブランド力」)ということになります。

3.「提携」の問題点について

ごく一部の残念な弁護士を除き、弁護士は、私と同様に各分野における専門家と提携しつつも紹介料・謝礼金の授受をしておりません。他方で、提携において紹介料・謝礼金の支払いが何ら問題とされず、適法とされる専門家領域があることから(例:税理士、不動産取引等)、弁護士の仕組みは分かりにくいとされることがあります。
  
しかし、現在の弁護士法・倫理規定が上記のとおり厳格に紹介料・謝礼金の授受、報酬配分等を禁止している以上、その変更・修正等が行われないかぎり、「提携」においての金銭授受を認める方策はありえないことになります(この点について、弁護士会内部で変更・修正すべきだという意見はあります)。
  
関係者の皆様には、弁護士がこのような制限の下で、専門家と様々な提携を模索しながら実践していることをご理解いただきたいと考えております。

4.もう一つの困った「提携」問題

弁護士は法律の専門家ではありますが、事務所経営や宣伝広告の実務については素人といっても過言ではないと思います。少人数の事務所であれば素人の弁護士でも相応の事務所運営や小規模宣伝ができますが、その規模が大きくなればなるほど事務所の効率的運営や専門的知識に基づく宣伝広告テクニックが求められることになります。
  
そこで、弁護士は、経営や宣伝広告について専門家の助言を求めることになり、その過程において専門家と「提携」することになります。その提携は、形式的にはコンサルティングや広告宣伝の業務委託契約に基づくものになり、その内容が適正である限り問題になることはありません。
  
しかし、歴史的経験的には、経営コンサル・宣伝広告という名目で弁護士と業者が「提携」していたという非弁提携問題が後を絶たず、現在もそれが進行しているという実態があります。この非弁提携は、単なる「提携」にとどまらず、業者による「弁護士(弁護士事務所)支配」という事態に繋がっていたのが事実です。その結果本来弁護士が行うべき職務が適切に行われず、依頼者が被害を受けるケースが相次ぎました。

このような結果に至ったのは、当然のことながら「弁護士支配」を目論む業者に問題がありますが、同時に、それを受け入れた弁護士自身に相応の問題があると考えられます。そして、このような歴史的経験的事実から、弁護士と専門家の提携についてはかなりの予断偏見を持って見られてしまうことが少なくないのです。
  
このような歴史的経験的事実を踏まえれば、弁護士と提携しようとする専門家・業者は、自らが弁護士法や弁護士倫理規定等を理解してそれを遵守するだけではなく、提携しようとしている弁護士がどのような弁護士であるのか、きちんと弁護士法等を守ろうとする弁護士であるのかの見極めも重要になるのです。

5.これからについて

弁護士数が増加していることについては様々な意見がありますが、弁護士数の増加が弁護士の敷居をいくらかでも低くし、市民の司法アクセスの改善をもたらしたことは否定できない明白な事実です。
 
弁護士は、複雑化する社会において、今後、これまで以上に多様な分野において法律の専門家としての力を発揮することが期待されます。

そして、その過程において他の分野の専門家、専門業者と「提携」することがさらに必要になり、その時に大事になるのは、各種法令の遵守を前提としつつも、本当の意味での「提携」がどのようなものであるのかを真剣に考えることだと強く思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?