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夜行列車 - ÖBB Nightjet -

オーストリアの国鉄ÖBBにはNightjetという夜行列車があって、ウィーンとヨーロッパの主要都市を繋いでいる。ドイツ、スイスといったドイツ語圏内はもちろん、オランダ、ベルギー、フランス、イタリアにも電車一本で行くことができる。パンデミックでしばらく運行中止になっていたが、去年の途中ぐらいから再開した。

年始に初めてNightjetに乗ってウィーンからオランダまで旅をした。オランダの国境付近まで約十二時間かかる。コロナ禍なのでドイツ・オランダ国境付近のチェックがあったり(なかったり)して面倒くさいが、それ以外は寝てるだけで目的地につけるのでかなり快適なサービスである。何より信じられないくらい安い(ただし早めに予約して普通席で寝る場合。寝台列車なのでもちろんベッドもある。普通席よりは高くなるが、朝食付きでそれはそれで価値がある)。

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普通席は満席だとおそらく一区域(コンパートメント)が六人用になるのが、私が利用した時は乗客が少なかったので行きは二人だけ、帰りは誰もいなかった。乗客が少ないと狭いベッドのような形で横になって寝ることができる。飛行機と同じように簡易枕を持ち込むと寝心地は飛躍的に改善する(ちなみにIKEAのサメは枕としてもちょうどいい)。

考えてみると今まで日本でも夜行電車に乗ったことはなかった。夜行列車ってなんかロマンチックで少し感傷的になる。飛行機だと一時間ぐらいで着いてしまう距離だが、飛行機は早すぎて感情が追いつかないことが多い。だんだんと目的地に近づいていく高揚感とか、元の場所に帰っていく切なさとか、時間がかかるからこそ身体が感じとれるものがあるように思う。

移動手段を含めた広い意味でのコミュニケーションはどんどん早くなるしコストもかからなくなってきた。コロナ禍になって特にわざわざ会いに行かなくてもできることがたくさんあることにも気付かされた。手紙よりテキストメッセージ。電車より飛行機。しかしながら人間の身体は技術の進歩と同じ速度で適応していくわけではないから、情報のやりとりが早くなってもそれに伴って情報の処理が早くなるかと言うとそう言うわけではないように思う。

十二時間の電車移動は一時間の飛行機移動と比べると無駄なのだろうか。時間だけを考えると無駄な気もするが、旅の感覚で言うと前者の方がよっぽど豊かな経験をもたらしてくれるように思う。こういうことを考えていると、四国八十八ヶ所の札所を巡礼するお遍路さんやポルトガルのリスボンからサンティアゴ・デ・コンポステーラまで巡礼するカミーノなど、『歩く』という人間の根本的な移動手段を持ってして世界を回ってみたいなと思ったりする。