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リレーショナル・モデルによる日本の将来生命表作成の試み

将来生命表を作成する場合、経験的手法と数学的手法、そしてそれを組み合わせたリレーショナル・モデルの3つの手法があります。

経験的手法とは、推計対象の生命表が、その人口よりも平均寿命が長い人口の生命表に一定期間をかけて到達するように推計する方法のこと。数学的手法とは、過去の死亡率に関数に当てはめて将来を補外推計する方法のこと。そして、リレーショナル・モデルとは、この経験的手法と数学的手法を組み合わせた手法のことです。

本論文は、リーカーター・モデルを改良して、日本の将来生命表の推計を行ったものです。ARIMAモデルではなく、関数を当てはめることで将来のパラメータの推定を行っています。現在の日本の将来推計人口にも影響を与えている重要な論文です。


要旨

人口の将来推計を行うためにコーホート要因法を用いると、将来の出生率と出生性比、生残率、そして移動率についての仮定を置くことが必要になるが、生残率は将来死亡率を推定して将来生命表を作成することで仮定する。本研究では、将来死亡率の仮定値を推定するために、リレーショナル・モデルの一つであるリー・カーター・モデルを改良し日本のデータに応用することで、日本の将来生命表の作成を試みた。出生時の平均余命(平均寿命)が延びつづけると考える研究者の発言が近年では世界的には目立つが、最近日本で実施された人口分野の専門家調査では、日本人の平均寿命の伸びは緩やかになり、前回推定での平均寿命の仮定値程度にとどまると考える専門家も多かったので、双方の立場に基づく平均値を統計的に期待される値として使用した。その結果、平成12(2000)年に男子77.64年、女子84.62年であった平均寿命は、平成62(2050)年には男子80.95年、女子89.22年に到達する。また、このモデルで推計の開始年を1990年、1995年と変えても、将来の平均寿命の推定値は比較的安定していた。さらに、国連などの諸機関による将来平均寿命と今回推計の平均寿命を簡単に比較しても、今回作成したモデルでは、2050年に日本の平均寿命だけが突出することにはならない。今後も科学技術の進展や社会の変化、あるいは猛威を奮う新たな疾病の出現に伴い、死亡をめぐる状況は変化するであろう。そのような変化に合わせて引き続きモデルを改善し、定期的にアップデートしていくことが肝要である。

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