
印刷業界の現状と今後の展望
2023年10月に印刷業界大手の凸版印刷株式会社は、グローバル展開と事業ポートフォリオ変革を見据えて、社名を「TOPPANホールディングス」に変更しました。
このように近年、印刷業界は大きな転換期を迎えています。デジタル化の波は、印刷物の需要減少という形で印刷業界に大きな影を落としています。しかし、その一方で、新たな技術やサービスの登場により、印刷業界は新たな可能性を探り始めています。
本記事では、印刷業界の現状と課題、そして各社が取り組んでいる新規事業や今後の展望について解説していきます。
印刷業界の現状
印刷業界は、出版印刷、商業印刷、事務・帳簿印刷、パッケージ印刷など、多岐にわたる分野で事業を展開しています。かつては、情報伝達の主要な手段として、印刷物は高い需要を誇っていました。しかし、インターネットやスマートフォンの普及に伴い、情報を得る手段が多様化し、新聞、雑誌、書籍などの紙媒体の需要は減少傾向にあります。
日本印刷産業連合会によると、印刷市場は、出版印刷、商業印刷、包装印刷などに分かれており、それぞれのセグメントで異なる動向が見られます。 例えば、出版印刷市場は電子書籍の普及により縮小傾向にある一方、包装印刷市場はEC市場の拡大に伴い堅調に推移しています。 また、矢野経済研究所の調査によると、デジタル印刷市場は、DPS(デジタルプリントサービス)、フォトブック、軟包装などのセグメントで構成されています。デジタル印刷は、小ロット印刷やバリアブル印刷に適しており、今後も需要の拡大が見込まれます。
コロナ禍においては、テイクアウトや通信販売の需要が高まり、それに伴いテイクアウトパッケージや通販資材などの印刷需要も増加しました。2020年の通信販売市場規模は、前年比120.1%の10兆6,300億円に達し、2021年のテイクアウト市場規模は、前年比104.0%の7兆3,552億円に達しました。
印刷業界の主要企業としては、TOPPANホールディングス、大日本印刷、共同印刷、NISSHAなどが挙げられます。これらの企業は、印刷事業だけでなく、情報コミュニケーション、エレクトロニクス、包装などの幅広い分野で事業を展開しています。
印刷業界の課題
印刷業界が抱える課題は、以下の点が挙げられます。
デジタル化による需要減少
インターネットやスマートフォンの普及により、新聞、雑誌、書籍などの紙媒体の需要が減少しています。消費者の情報収集の方法が多様化し、デジタルコンテンツへの移行が進んでいることが、紙媒体の需要減少に拍車をかけています。
紙媒体の需要減少
デジタル化の影響に加え、企業のペーパーレス化や広告媒体の多様化により、チラシやパンフレットなどの紙媒体の需要も減少しています。企業は、コスト削減や業務効率化のために、紙媒体からデジタル媒体への移行を進めています。
環境問題
紙の製造や印刷プロセスにおける環境負荷への対応が求められています。地球温暖化や森林破壊などの環境問題への関心の高まりから、環境に配慮した印刷物や印刷方法が求められています。 日本印刷産業連合会は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、「エネルギー起因の排出極小化」、「プロセス・構造の転換」、「印刷技術による地域社会づくり」に取り組むことを表明しています。
価格競争の激化
デジタル印刷の普及や新規参入により、価格競争が激化しています。デジタル印刷は、初期費用が低く、小ロット印刷にも対応できるため、新規参入障壁が低いという特徴があります。
印刷業界の各社が取り組んでいる新規事業・製品・サービス
印刷業界では、デジタル化による需要減少や価格競争の激化に対応し、新たな収益源を確保し、競争力を強化するために、既存事業の枠にとらわれず、新たな事業、製品、サービスを展開する動きが活発化しています。

印刷業界の今後の展開
印刷業界は、デジタル化や環境問題などの課題を克服し、新たな成長を遂げようとしています。今後の展開として、以下の点が挙げられます。
デジタル印刷の普及
デジタル印刷は、小ロット印刷やバリアブル印刷に適しており、今後も需要の拡大が見込まれます。デジタル印刷は、従来の印刷方式に比べて、版を作成する必要がなく、短納期・低コストで印刷できるというメリットがあります。 また、顧客一人ひとりのニーズに合わせて印刷物をカスタマイズできるパーソナライズ印刷にも対応しており、多様なニーズに対応できます。
オンデマンド印刷の増加
オンデマンド印刷は、必要な時に必要な部数だけ印刷できるため、在庫リスクや廃棄ロスを削減できます。また、デジタル印刷技術の進化により、オンデマンド印刷の品質も向上しており、様々な用途に利用できるようになっています。
海外市場への進出
成長が見込まれる新興国市場への進出を加速させています。世界的な印刷市場は、北米、欧州、アジア太平洋地域が主要な市場となっています。近年では、アジア太平洋地域の新興国市場における印刷需要の増加が顕著であり、多くの印刷会社が海外市場への進出を図っています。 例えば、米国の印刷会社デラックスは、中小企業や金融機関向けに、小切手、伝票、名刺などの印刷サービスを提供し、世界市場でシェアを拡大しています。
異業種との連携
他業界との連携により、新たなビジネスモデルを創出しています。印刷会社は、印刷技術やノウハウを活かして、IT、物流、広告、教育など、様々な業界と連携し、新たなサービスや製品を開発しています。
結論
印刷業界は、デジタル化の進展や環境問題など、多くの課題に直面しています。しかし、各社は、新たな技術やサービスを開発することで、これらの課題を克服し、新たな成長を遂げようとしています。 デジタル印刷やオンデマンド印刷などの新たな印刷技術の普及、マーケティング支援やデータ管理などの新たなサービスの展開、異業種との連携による新たなビジネスモデルの創出など、印刷業界は常に変化を続けています。
今後も、印刷業界は、情報伝達手段としてだけでなく、社会に貢献する様々な役割を担っていくことが期待されます。 印刷技術は、教育、医療、文化など、様々な分野で活用されており、人々の生活を豊かにするために欠かせないものです。 印刷業界は、その技術力と創造力を活かして、社会の発展に貢献していくことが求められます。