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ショートショート集:藤村阿智

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webサイトに掲載中のショートショートからお気に入りを再掲。 その他の作品はこちら http://www.blackstrawberry.net/blackdowa.html
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5月のイベント参加と新刊情報、あと電子書籍

5月のイベント参加と新刊情報、あと電子書籍

最近告知をさぼっていたら、その間にいろいろやりすぎて紹介しきれない。まったく告知をしていないってことはないんですけど、私の多くのSNSやwebサイトやブログなどを全部フォローしてる人っていないと思いつつ、でも複数の場所で告知すると「あちこちで見るなあ」とウザく思われちゃうんじゃないか……と躊躇してしまう。

いっそ、「あちこちフォローしてる人は告知が被るけどごめんね★」ぐらいの軽い気持ちで更新した

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「冬眠の鯉」ショートショートNo.163

「冬眠の鯉」ショートショートNo.163

 鯉は眠ったように、じっと沈んで冬が過ぎ去るのを待ちます。

そんな時、気の合う相棒がいるのといないとでは、冬の楽しさがだんぜん違うので、鯉は何匹かがかたまって物影にしのびます。

 流れの緩やかな岩陰に沈んで、うとうととしている大きな鯉のそばに、もう一匹の鯉がやってきました。

「お隣、いいですか」

「どうぞ、あいているから」

「最近寒くなりましたねえ」 あとからきた黒い中くらいの鯉が言いま

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「一番大事な人」ショートショートNo.210

「一番大事な人」ショートショートNo.210

 僕は大変な罪を犯したのだけれど、まだ少年だったし、僕の罪はほとんど神様しか知らないところで起きたものだったので、誰にも咎められなかった。

 神様だけは人知を超えた存在なので、僕の罪を知って咎め、罰を与えるといってぬかした。

「どんな罰だって僕は怖くないよ、だってまだ十四年しか生きていないのだもの」

僕を含めて少年というものは怖いものをあまり知らないし、失うものもあまり持っていない。

「お

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「赤い糸が見える女は結婚できない」ショートショートNo.220

「赤い糸が見える女は結婚できない」ショートショートNo.220

 赤い糸が見えるわたしは、結婚が出来ないままもう三十も半ばになってしまいました。

中学生のころに赤い糸がはじめて見えるようになって、そのヒミツは誰にも言わずにわたしの胸だけにしまってあるのです。

 さて、赤い糸というのは多分、血のなにかだと思うんです。

脈打ってどこかにわたしの小指の先からながれでていくのです。

これはどこのだれとつながっているのかしら。相手は遠くにいるようで、あまり太くな

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「ズス虫」 ショートショート No.199

「ズス虫」 ショートショート No.199

――「ズス虫あげます」

家の近所のペットショップの入り口に貼られた紙をみて、僕は噴き出した。

秋の気配が近づいた、残暑の和らぐ季節で、あきらかに「スズムシ」と書きたかったことがわかるその貼り紙に、目が釘付けになってしまった。

とりあえず面白いネタとして携帯電話のカメラで証拠写真をとり、冷やかしで貼り紙のある店に入ると、 その薄暗い店内を眺めてみた。

 カゴに入った、いまだ売れ残っている弱弱

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