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【エッセイ】友情とレプリカ

 高校3年生のある時に、級友が渡してくれた絵葉書に私の目は釘付けになった。青と黄色が主に使われたその絵は、青でおそらく夜空が描かれているのだろう。星がきらめいている。その青と対比するように黄色の絵の具で光が描かれ、光の下で人々が楽しそうにお茶している。後から調べてゴッホの描いた『夜のカフェテラス』という絵だということが分かった。彼女から届いた年賀状に、コナちゃんと私ってどこか似ているところがあると思うのだけどどうだろうと書かれていて、私は思わずにっこりしてしまった。私もそう感じていたよと胸の奥がじんわりとした。私は彼女のことが好きだった。どうやら彼女も同じ気持ちでいてくれたことが分かって、単純にうれしかったのだ。そんな彼女の茶目っ気のある感じがゴッホの鮮やかな色合いの絵と重なり合って、『夜のカフェテラス』は私にとって大切な絵となった。

 今からおよそ10年ぐらい前だろうか。名古屋で開かれたゴッホ展にでかけたのは。『夜のカフェテラス』は大きな絵だった。しかし感想はそれぐらいしか浮かばなかった。本物を目の前にして失礼を承知で言うが、彼女がくれた絵葉書ほどは感動を覚えなかった。初めてみた時の感動がよほど大きかったのだろう。私の『夜のカフェテラス』は彼女のくれた絵葉書のサイズとして胸に残っているのである。

 実際にみてみたい絵が一つある。『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』という邦題がつけられたゴーギャンの代表作である。なぜみたいのか。答えは簡単でこの題名に心惹かれたからである。そう。私(私たち)は、そのことが知りたいんだよとゴーギャンに思いを馳せた。しかし私はこの絵がどこに所蔵されているのかさえ知らなかった。調べてみるとアメリカのボストン美術館に所蔵されているとのこと。遠い、遠すぎる。たじろぐ私。

 どうにかしてみれないものだろうかと実際にその絵をみた人の感想を眺めていたら、ひっかかる一文が目に飛び込んできた。名古屋のボストン美術館にゴーギャンの傑作初来日の文字が。驚きで思わず「えっ?」と声が出そうになる。こんなに近くでみることができたなんて。初来日が東京ではなく名古屋の金山で、電車を使えば地元から小一時間で行けるところに展示されていたなんて。しかしこの名古屋ボストン美術館、2018年の10月に閉館してしまったらしい。施設の利用方法については名古屋市が公募をだして検討しているとのこと。そして私は新たにもう一つのことを知った。この美術館の入っているビルの一階のフロアに、私のみたい絵のレプリカが飾られているということを。地元に帰ることができたら、せめてこのレプリカをみにいきたいと思う私である。取り外されていないといいのだけど。

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