【エッセイ】友情とレプリカ

前にも投稿したのですが個人的によく書けたと思うので再投稿します😌

 高校3年生のある時に級友が「はいっ」と渡してくれた絵葉書に私の目は釘付けになった。青と黄色が主に使われたその絵は、青でおそらく夜空が描かれているのだろう。星がきらめいている。その青と対比するように黄色の絵の具で光が描かれ、光の下で人々が楽しそうにお茶している。後から調べてゴッホの描いた『夜のカフェテラス』という絵だということが分かった。彼女から届いた年賀状に、「コナちゃんと私ってどこか似ているところがあると思うのだけどどうだろう」と書かれていて私は思わずにっこりしてしまった。「私もそう感じていたよ」と胸の奥がじんわりとした。彼女は自由にのんびりと生きている人だった。演劇部の活動を楽しそうにしていて、部活も違ったし3年生になるまで同じクラスになることはなかったのであまり接点はなかったけれど、それでも私は彼女のことが好きだった。どうやら彼女も同じ気持ちでいてくれたことが分かって単純にうれしかったのだ。そんな彼女の茶目っ気のある感じがゴッホの鮮やかな色合いの絵と重なり合って、『夜のカフェテラス』は私にとって大切な絵となった。

 今からおよそ10年前ぐらいだろうか。愛知県美術館で開かれたゴッホ展にでかけたのは。展覧会の目玉はもちろん『ひまわり』だったが、私はあの『夜のカフェテラス』を実際にみることができると胸を高鳴らせながら美術館に足を運んだのである。『夜のカフェテラス』は大きな絵だった。しかし感想はそれぐらいしか浮かばなかった。本物を目の前にして失礼を承知でいうが、彼女がくれた絵葉書ほどは感動を覚えなかった。初めてみた時の感動がよほど大きかったのだろう。私の『夜のカフェテラス』は彼女のくれた絵葉書のサイズとして私の胸に残っているのである。

 実際にみてみたい絵が一つある。『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』という邦題がつけられたゴーギャンの代表作である。どうやってこの絵の存在を知ったのかは思い出せないが、なぜみたいのか。答えは簡単でこの題名に心魅かれたからである。「そう。私(私たち)は、そのことが知りたいんだよ」とゴーギャンに思いを馳せた。しかし私はこの絵がどこに所蔵されているのかさえ知らなかった。調べてみるとアメリカのボストン美術館に所蔵されているとのこと。遠い、遠すぎる。たじろぐ私。私は海外に行ったことがない。おそらく今後も行くことはないだろう。どうにかしてみれないものだろうかと実際にその絵をみた人の感想をパラパラと眺めていたら、ひっかかる一文が目に飛び込んできた。名古屋のボストン美術館にゴーギャンの傑作初来日の文字が。驚きで思わず「えっ?」と声が出そうになる。こんなに近くでみることができたなんて。初来日が東京ではなく名古屋の金山で、電車を使えば地元から小一時間で行けるところに展示されていたなんて。ボストン美術館と姉妹提携をしているからこの企画が成り立ったらしい。おそるべし、姉妹提携。常日頃から情報収集を怠ってはいけないなと反省した。しかしこの名古屋ボストン美術館、2018年の10月に閉館してしまったらしい。私はもうその頃には地元を離れていたので閉館したことすら知らなかった。跡地の利用方法については名古屋市が公募をだして検討しているとのこと。そして私は新たにもう一つのことを知った。この美術館の入っているビルの一階のフロアに、私のみたい絵のレプリカが飾られているということを。地元に帰ることができたら、せめてこのレプリカをみにいきたいと思う私である。取り外されていないといいのだけど。

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