見出し画像

ACCELStarsのビジネスモデルを徹底解説。事業を支える3つの柱

ACCELStarsは、「睡眠を解明し、新たな医療を創造する」というビジョンのもと、2020年8月に設立されたスタートアップ企業です。現在、世の中で提供されている睡眠測定サービスは、睡眠と覚醒の検知精度が低いため医療へ活用しづらいという課題があります。

そこで私たちは、東京大学大学院医学系研究科教授であり弊社創業者兼取締役CTOの上田泰己を中心に開発した世界最高レベルの睡眠測定技術「ACCEL」を活用し、睡眠改善に役立てています。統合失調症、うつ病、双極性障害、パーキンソン病、認知症、ADHDなど精神疾患・神経変性疾患・発達障害は睡眠障害を併発する傾向があり、ACCELStarsは睡眠データを把握することでこれらの治療サポートサービスを提供していきます。

前回の代表取締役CEO宮原禎のインタビューでは、睡眠の課題をテクノロジーで解決する意義について解説しました。今回のインタビューでは、宮原がACCELStarsのビジネスモデルについて述べていきます。

世界最高精度のアルゴリズムで睡眠データを分析

――睡眠に関するサービスを展開する他社と比べて、ACCELStarsの優位性は何でしょうか?

ACCELStarsがデータ解析に使用している「ACCEL」は、東京大学大学院医学系研究科が技術開発した世界最高精度の睡眠測定アルゴリズムです。「ACCEL」は、睡眠に関する指標のなかでも、特に重要性の高い“中途覚醒”の解析に力を発揮します。この「ACCEL」の利用に関する独占ライセンス契約を結んでいるのが、ACCELStarsの何よりの優位性です。

中途覚醒とは、寝ている間に目が覚めてしまいその後なかなか寝つけない状態を指します。うつ病患者は眠りが浅く夜中に何度も目が覚めてしまう人が多いといったように、中途覚醒はうつ病や双極性障害、統合失調症と併発しやすい問題です。中途覚醒を高精度で捉えられれば、メンタルヘルスの状態を把握でき、精神疾患・神経変性疾患などの予防・診断・治療において非常に役立ちます。

私たちは、この競争優位性の持続や強化を続けています。アルゴリズムを改良し続けるためには、データの質と量を確保することが重要です。そこでACCELStarsでは医療機関や学会などを通してKOL(Key Opinion Leader)とのネットワークを構築し、良質なデータを集めています。それだけではなく、共同研究や独自ラボなどで脳波とデバイスの同時測定を継続実施しており、量の確保にも努めています。

さらに「ACCEL」を用いることで、英国で取得された約10万人の大規模なデータを解析し、成人の睡眠パターンを16に分類しました。研究結果はこちらで論文として発表されており、将来の睡眠疾患鑑別の第一歩になると考えています。論文の概要は、2022年3月14日の『Nature』にも紹介されています。

――「ACCEL」の技術をベースとして、ACCELStarsは具体的にどのような事業を展開しているのでしょうか?

ACCELStarsの事業の柱は、一次予防・二次予防・三次予防の3つの領域から成り立っています。一次予防にあたる睡眠健診サービスからスタートし、二次予防の睡眠検診・検査サービス、三次予防の睡眠医療サービスと領域を広げていきます。各事業をリンクさせ、継続的にデータを取得し、他にはない包括的なプラットフォームの構築を目指しています。一次予防・二次予防・三次予防の概要について、それぞれ説明します。

【一次予防】 睡眠健診サービス

――一次予防の概要について教えてください。

一次予防は睡眠健診です。主に企業向けのサービスであり、睡眠が充分とれていない従業員をスクリーニングして、睡眠衛生指導を実施します。睡眠の改善により、さまざまな脳や心の病気になるリスクを軽減する取り組みです。

2022年3月に、国内最大規模の医療機関である桜十字病院グループと資本・業務契約を締結して、商品開発や販促活動を実施しています。すでに大手数社で睡眠健診のトライアルを実施しており、2023年春より健康保険組合や事業者に向けて本格的にサービスを提供する予定です。

睡眠健診は、Web上で問診を行いウェアラブルデバイスによって睡眠データを計測して、対象者に個人レポートを提供します。個人レポートでは睡眠データを解析して、飲食・入浴など前日の行動が睡眠に悪影響を与えている点など、睡眠と行動の因果関係を伝えます。レポートの目的は、行動変容を促して、睡眠を改善するきっかけを生み出すことです。

そのうえで、eラーニングと睡眠衛生指導を行います。eラーニングによるリテラシー教育も、一次予防での重要な取り組みのひとつです。「睡眠とはそもそもどのようなものか」「体内時計とは何か」など、睡眠に関する知識を身につけてもらいます。

睡眠衛生指導とは、睡眠健診でスクリーニングされた人に対し医療従事者が行う指導を指します。睡眠衛生指導についてより深く話すと、健診後の医療介入に関しては研究結果のエビデンスが必要なため、桜十字病院との共同開発を進めています。ヘルスケアテーマパークである「メディメッセ桜十字」(熊本県熊本市)より順次サービスを提供開始予定で、その後全国にも展開します。

2022年6月30日・7月1日に京都で開催された日本睡眠学会第47回定期学術集会にて、宮原禎と上田泰己は睡眠健診の有用性について登壇とワークショップを実施しました。

ただし、一次予防で実施する睡眠健診は睡眠状態をチェックする非医療的なもので、あくまでも「睡眠をしっかりとれていない」と伝える役割のものです。私たちは、各種の精神疾患・神経変性疾患・発達障害が重症化する前の段階で、睡眠データを用いて予兆を察知し、発症あるいは弊害が生じる可能性があれば睡眠衛生指導で改善したい。必要であれば指導から受診につなげ、悪化前に治療するといった対策を講じ、より良い暮らしができるようサポートしたいと考えています。このビジョンが二次予防の話につながります。

【二次予防】睡眠検診・検査サービス

――二次予防はどのような事業でしょうか?

一次予防がなるべく多くの人を対象として予防・対策のためのサービスを提供するのに対し、二次予防は睡眠に課題を抱えている人を対象として、精度の高い解析を実施し、情報を集め、医療機関に連携していくことが目的です。また、将来的には三次予防の睡眠医療サービスにつなげるのも重要な役割になります。

二次予防では、一次予防よりもさらに精度の高い検査を希望する人に、アイ・エム・アイ社製の在宅終夜睡眠ポリグラフ検査機器「スリーププロファイラー」を提供してスクリーニングを行います。さらに、睡眠障害の早期発見をサポートするため、測定した睡眠データをもとにして疾患と睡眠データの関係を解析するAIサービスを検討開始しています。

まずは潜在患者数が600万人ともいわれる睡眠時無呼吸症候群の領域から、医療機器としてサービスを提供していく予定です。アイ・エム・アイ社との提携による在宅終夜睡眠ポリグラフデータの収集・解析をする権利を活かして、将来的に展開予定の三次予防の領域において、睡眠障害を持つ人の治療・重症化予防に向けた睡眠医療サービスへの送客機会の創出につなげます。

【三次予防】睡眠医療サービス

――三次予防についてもご説明ください。

三次予防にあたる睡眠医療サービスでは、睡眠障害のある患者層に向けて、睡眠データや生体情報を活用し、遠隔医療を実現するプログラム医療機器を開発・提供することを目指しています。

昼夜の移り変わりに合わせて体内環境を変化させる「サーカディアンリズム」や「睡眠覚醒リズム」を正確に捉えて睡眠データを常時集め、薬の効果の最適化や症状の把握につなげます。ゆくゆくは遺伝子研究の領域にも踏み込むつもりです。睡眠データの測定・解析と並行し、細胞の設計図である遺伝子の検査や血液検査などを行うことで、生活習慣病と睡眠との関係性などが明らかになると考えています。このビジョンの実現に向けて、事業開発のために医療機関や大学との臨床研究をスタートしています。

いくつか事例を挙げると、たとえば虎の門病院睡眠呼吸器科と協力して、睡眠時無呼吸症候群の簡易診断の実用化に向け研究しています。ウェアラブルデバイスを用いてデータの取得・解析を行い、デバイス上で診断できるようになれば、潜在的な患者を早期発見・診断でき改善のきっかけとなるはずです。

久留米大学病院小児科神経グループとの共同研究では、自閉スペクトラム症やADHDなど小児神経系の問題を抱える子どもの睡眠データの取得と特徴の解析を実施中です。小児神経系の患者は不眠になりやすく、服薬による睡眠の変化などのデータ収集が、治療のヒントになると期待しています。

大阪大学大学院医学研究科の神経内科学講座とは、パーキンソン病患者の遠隔治療を共同研究しています。遠隔治療によって、専門医へのアクセス格差を解消するプラットフォーム構築をするのが目的です。患者にウェアラブルデバイスを装着してもらい、睡眠時間や運動状態のデータを集め、さらにWebで日々の状態を把握するアンケートを実施します。リアルタイムで解析をすることで、服薬中の薬が合っていない、副作用が出ているなどの異変をキャッチし、遠隔地にいながら質の高い医療を提供できる環境を整えます。

前回のインタビューでも述べましたが、パーキンソン病は日本全国で見ても専門医の数が少なく、限られた医療機関でしか診察を受けられないという課題があります。パーキンソン病は運動障害を伴うため、患者が遠方の医療機関に通院するのが難しく、医療の地域格差が大きい疾患です。遠隔治療が普及すれば、自宅にいながら専門医の診察を受けられるようになり、医療格差を軽減できるはずです。

さらに、日常的なデータの蓄積により、定期的な診察時の問診だけではわからない症状の変化を可視化できれば、治療が最適化されていくような世界が実現するでしょう。最初はパーキンソン病から始め、他の疾患にもデータの蓄積や解析を広げていければと考えています。

世界トップクラスの技術を用い、世界的な課題に立ち向かう

――一般的に、スタートアップの創業時は資金や人員に限りがあるため事業領域を絞るケースが多いです。ACCELStarsはなぜこれほど幅広い事業を展開しているのでしょうか?

私たちの事業は医療に関わるものですから、早期の段階から正確なエビデンスを得ることが必須です。そしてエビデンスを得るためには、複数の医療機関との共同研究を行いながら、アルゴリズムやサービスを開発する必要があります。実際に、二次予防の睡眠検診のために非常に多くの臨床研究をしています。各種の研究とサービス開発が密接に関係しており、その結果として自然と事業の範囲が広くなるイメージです。

さらに、スリープテックが市場として注目されており、投資家の期待が大きいため資金調達がしやすいという背景があります。つまり、たとえ創業期であっても、無理のない状態で幅広い事業を展開できる企業体力があるのです。そのためACCELStarsでは、サービス開発・臨床研究・アルゴリズムと、メディカルスリープテックの実現に必要な幅広い領域のチームを揃えています。もちろん、これは開発職だけではなくビジネスサイドについても同様です。

――非常に強固な体制で、意義のある事業に取り組んでいるわけですね。最後に読者に向けて、ACCELStarsで働く魅力を伝えてください。

ACCELStarsでは、世界的にも大きく注目されている、睡眠に関するビジネスに携われます。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、メンタルヘルスケアの重要性は増しています。睡眠は心の状態のバロメーターです。睡眠の状態を捉える技術があれば、多くの人の心の問題にアプローチできます。私たちは「ACCEL」をはじめとする、世界トップクラスの精度を誇る睡眠データ測定技術を持っています。確かな技術を武器に日本だけではなく世界的な課題であるメディカルスリープテックに真正面から取り組めるのは、弊社ならではの醍醐味です。

また、エンジニアをはじめさまざまな専門性を持つ社員が多数在籍しているため、弊社の技術を活用すれば、健診や医療につながるサービスをハードウェア・アルゴリズム・ソフトウェアまでまるごと作れます。本当に世の中から必要とされて使われる、価値あるものづくりができる、非常に面白いフィールドです。メディカルスリープテックに少しでも興味をお持ちの方は、ぜひ私たちと一緒に、大きな意義を持つ事業にチャレンジしましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?